【F1】小林可夢偉は来季シート争いに割って入れるか?
まだ6戦を残している2013年シーズンのF1だが、すでに2014年のシート争いが激化している。その中に日本人ドライバーはいかに加わっているのだろうか。そして、日本人ドライバーの復活、小林可夢偉のF1復帰の可能性はどれほどあるのだろうか。
■2014年はトップチームのシートが大きく入れ替わる
来季シートを巡る"ストーブリーグ"のキーマンは、キミ・ライコネン(ロータス)とレッドブルだった。
トップチームであるレッドブルのマーク・ウェバーが6月に引退を表明したことで、プラチナシートとも言えるその空席の後任選びに注目が集まった。当代きってのトップドライバーと目されるライコネンとレッドブルは交渉を進めていることを公言し、2014年に向けてF1界はトップチームのシートが大きく入れ替わる可能性が高くなった。
しかし、レッドブルは9月に入って自社育成ドライバーであるダニエル・リカルド(トロロッソ)の昇格を決めた。ライコネンは「夏休みに入って、レッドブルからの連絡がなくなった」と語り、交渉はレッドブル側から打ち切った形になった。王者セバスチャン・ベッテルとライコネンの両立が難しいと見た判断とも、ベッテルによる拒絶とも言われており真相は定かではないが、レッドブルがベッテルを中心とした体制継続を選んだことに違いはない。
行き場を失ったライコネンは、フェラーリとの交渉を進めた。2012年のF1復帰以来、ロータスとライコネンは良好な関係を築いており、ロータス側も残留を望んでいたが、「今チームが抱えている問題が解決しない限り、交渉をするつもりはない」とライコネンは明言。ライコネンはエンジン供給元であるルノーのワークス体制を望んでおり、その交渉が遅々として進まないロータスに、最後は三行半(みくだりはん)を突きつけた格好となった。
エンジン・パワーユニットが大きく変化する2014年に向けて、ライコネンはメーカーのワークス体制こそが最重要と考えていた。昨年から続く契約金の支払遅延もあったが、ライコネンにとって重要なのはサラリーよりも競争力のある体制だった。
ライコネンは2007年から3年間を過ごした古巣・フェラーリとの交渉を加速させた。両者の話し合いはトントン拍子に進み、レッドブルのドライバー発表から1週間後、フェラーリはライコネンとの契約を発表した。不振が続くフェリペ・マッサは放出となる。
その結果、ロータスにひとつ空席ができることになった。ロータスは、フランス企業であるルノー、トタル石油と良好な関係を築いているロマン・グロージャンを残留させ、ライコネンの後任には実力者を獲得したい意向だ。
ただし、ロータスはライコネンへの契約金未払い問題が表すように、資金的に楽な状況ではない。そのため、資金の持ち込みがあるか、スポンサー獲得の後押しになるようなドライバーを獲得したいところだろう。実績のあるニコ・ヒュルケンベルグやベネズエラ政府の支援があるパストール・マルドナド、ブラジル企業が支援する可能性があるマッサらの名前が挙がっているが、どれも決め手を欠いている状態だ。
■2015年からホンダがF1に復帰する影響は?
また、現行ラインナップのジェンソン・バトンとセルジオ・ペレスで継続と見られていたマクラーレンも、2014年のシートは流動的になっている。
かねてから財政状況が思わしくなかったマクラーレンだが、タイトルスポンサーのボーダフォンが今季限りで契約を終了することから、その後任としてメキシコの通信会社テルメックスの獲得を見越したうえで、今季からメキシコ人のペレスを加入させた。しかし、2015年からホンダとの長期パートナーシップが実現したことで、資金的不安はほぼ解消。マクラーレンとホンダが望んでいるのはチャンピオン獲得のために必要な実力と経験を持ったドライバーだ。
2015年の「マクラーレン・ホンダ」体制に向けて、2014年がバトンとペレスでは心許ないというのは誰の目にも明らかで、ここにきてマクラーレンは能力優先でドライバーの再選定を進めているという。昨年のザウバー同様、テルメックスからマクラーレンへのスポンサー料支払が滞っているという噂もある。
他に選択肢がなければ両ドライバーとも残留という可能性はあるものの、レッドブル、フェラーリ、ロータスという上位チームのラインナップ変動の余波を受けて、マクラーレンのシートまで含めて大きく動く可能性がある。
■小林可夢偉が狙うのはどこのチームのシートか?
そんな中、小林可夢偉は、どのようにF1復帰への道を模索しているのだろうか。
9月、イタリアGP開催中のモンツァを訪れた可夢偉は、「もちろんF1のシートはあきらめていません」とF1復帰への思いを語った。
「やはり資金の問題があります。今年もやっぱりお金がないと厳しいです」
可夢偉は交渉を進めるうえで持ち込み資金の有無が障壁になっていることを吐露した。さらに言うなら、今季所属しているスクーデリア・フェラーリのF1シート獲得や、チームからの何らかの後押しは、イタリアGP時点ですでに考慮に入れていないということだ。
可夢偉は、昨年、ファンから募った資金を今も大切に保管しており、それに加えて個人スポンサーを持ち込むことで、競争力のあるチームのシートを狙う他ドライバーたちに対抗していこうとしている。
だが、可夢偉の1年間のブランクをチーム側がどう見るかだ。来年は技術規定が大きく変わるだけに、大きな不利にならないとも言えるが、複雑な状況の中でいかに交渉をうまく進めるかは、マネジメント体制の手腕に掛かっているといえる。
「交渉はすべてマリオさん(マネージャーのマリオ宮川氏)に任せてあります。頑張りますので、もう少し待っていてください」
可夢偉はそう言って、交渉の詳細については多くを語らなかった。
昨年末と同じように、資金を持ち込んでまで下位チームで走るつもりはない、競争力のあるチームでしか走るつもりはないというスタンスは変えてないのか?と問うと、可夢偉はしっかりと頷(うないず)いた。
現時点で、競争力のある上位チームの空席は、ロータス、マクラーレン、フォースインディアということになる。
フォースインディアは、メルセデスやスコットランド企業の支援を受けるポール・ディ・レスタの残留が確定的ながら、もう1席は流動的と言われている。オーナーである大富豪、ビジェイ・マリヤのビジネスが不調で、チームは財政難に苦しんでおり、持ち込み資金の勝負になると見られている。
また、可夢偉の古巣であるザウバーは、ロシアから巨大資金が入り、財政難から脱却。実力重視のドライバー選定を行なう可能性が出てきた。すでにセルゲイ・シロトキンという18歳のロシア人ドライバーが史上最年少F1ドライバーとしてデビューすべくチームに合流しているが、ロシアだけに、本当に資金が支払われるのか疑問視する向きもある。
もしザウバーの資金難が解決しない場合、これ以上のチーム消滅を望まないF1界のボス、バーニー・エクレストンの支援を受けて、彼の意を受けたドライバーが走ることになるだろう。ホンダの参戦が迫り、日本GPの開催契約を5年間延長したエクレストンとしては、日本人ドライバーの存在は重要と考えているようだ。
レッドブルとライコネンの決断から動き出した、2014年のストーブリーグ。水面下で激しい交渉合戦が行なわれ、その中に可夢偉も加わっている。可夢偉がチャンスをつかむためには、自分の持っている資金と経験を最大限に活用する必要がある。もしくは、妥協してでもF1復帰を優先させることも必要かもしれない。
これから11月のシーズン閉幕まで、アジア、北米、南米での「フライアウェー戦」に突入したF1は3回の2週連戦というラストスパートの時期に入る。8週間で6戦が行なわれる過密スケジュールの間に、来季のシートは続々と埋まっていくだろう。F1各チームの体制変動を楽しみながら、「日本人ドライバーのF1復帰」という朗報が届くことを期待したい。
米家峰起●取材・文 text by Yoneya Mineoki