今年も夏が終わった。夏が終わるとクルマ業界は一気に冬モードに移行する。すなわち、ウィンタースポーツに似合う"ヨンク"系、今でいうSUV(スポーツ・ユーティリティ・ヴィークル)商戦が盛り上がるのだ。

 今やヨンクの総称が"クロスカントリー4WD"から"SUV"に変わったように、昨今はワゴンやミニバンやセダンやスポーツカーとも区別しづらいSUVが多い。なかには普通のコンパクトカーにルーフレールとプロテクター風の飾りをつけただけで、車高も低いままで4WDでもなく、足元は完全な舗装用スポーツタイヤ......なんてシロモノまである。

 というわけで、私が今現在、気になって仕方のないSUVはスバルXVだ。そのXVでもとくにハイブリッドが気になる。

 スバルXVはご覧のとおり実用ハッチバックのインプレッサで、早い話がそのインプレッサの車高をかさ上げしただけである。まあ、もともと4WD自慢のスバルだけにXVも全車4WDではあるが、見た目にはナンチャッテ系SUVの典型みたいなクルマだ。

 この『新車のツボ』では、いつも「サーキットにいかなくても、スポーツカーにやせ我慢して乗るべし」とか「暑苦しいほど本格派でマニアックなのがいい」とか、あるいは「エコなんて知らん!!」みたいなことばかり書いている。その意味では、このXVハイブリッドなんぞは、いつもの"ツボ"の対極にある存在に思われるかもしれない。しかし、私はXVハイブリッドに乗って、確信した。これこそ世界最強のトーキョーグルマである。

 東京といえば、祝2020年オリンピック開催! ......と、それはともかく、新潟県で生まれ育って、今は東京在住のワタシが、東京に雪が降るたびに痛感するのは「この世でもっとも始末が悪い交通環境は、雪が降ったときの東京だ!」ということである。

 私の故郷である新潟は有数の豪雪県だが、除雪インフラが整っているので、よほど大雪でなければ、スタッドレスを履いた普通のクルマでなにも困ることはない。しかし、東京は雪に見舞われてもまったく除雪されない。雪が降った直後は歩くことすらままならず、その後は場合によっては1週間以上、せまい路地にはビックリするほど深いワダチが残ったまま。さらにのぼり坂や駐車場の出入り口など、クルマにとっての難所ほど、頑固な凍結がピカピカに磨かれたまま放置される。

 XVは成り立ちこそナンチャッテ系だが、そこはスバル。車高はドーンとかさ上げされていて、最低地上高はなんと200mmもある。200mmといえば本格オフロード4WDと同等のロードクリアランスである。しかも前記のようにきちんと4WDだから、スタッドレスさえ履けば、あの過酷な雪の東京で遭難することもまずない。ちなみに、夏のゲリラ豪雨で出現する深い水たまりにも、このたっぷり地上高の戦闘力は十分に期待できる。

 しかも、XVは地上高が200mmもあるのに、車高は1550mm。すなわち東京に無数に存在するタワーパーキングにも軽々と入るのだ。

 それから、雪の東京はあり得ないほど大渋滞する。今後はオリンピックに向けて、工事などで夏でも慢性混雑だろう。XVのハイブリッドはプリウスなどよりナンチャッテ感が強く、乗った感覚はアイドルストップ付き純エンジン車とほとんど区別がつかない。通常時の燃費も正直たいしたことがないが、それでも「渋滞するほど燃費がよくなる!?」というハイブリッドの美点は残される。ハイブリッドはなぜか、渋滞するとちょっと嬉しくなる乗り物だ。

 ここまでで、XVハイブリッドがいかにトーキョー最強であるか......をご理解いただけたと思う。

 もっとも、シツコイようだが、これはスバルである。暑苦しいほど良心的なエンジニア魂はしっかり受け継がれており、これだけの地上高なのに高速安定性も文句なく、車高かさ上げで余裕が増えたサスペンションストロークで乗り心地もよく、とくにハイブリッドでは遮音・吸音対策も強化されていて、とても静かになっている。XVはインプレッサより高価で、XVでもハイブリッドはちょっとお高めなのだが、「フンパツしてよかった」と思わせるツボはきちんと押さえてある。

 いやいや、値段はさしたる問題ではない。これはトーキョー最強グルマなのだ。最強であることに対価は惜しまないのが、マニア最大のツボなんだから。

佐野弘宗●取材・文 text by Sano Hiromune