「人間性は大事にしたいなと思っています。プロは結果でしかものを言えない世界。そんな世界ですけど、結果だけの選手になりたくないという気持ちがあります。言動とか立ち居振る舞いとか、少年時代にイチローさんや松井(秀喜)さんの本を読んですごいなって尊敬したように、自分もそういうメッセージを伝えられる選手になりたい」

そう語るのは、埼玉西武ライオンズ菊池雄星(22)。テンポのいい口ぶりからは、今季の好調さが窺える。前半戦を終えて9勝3敗、防御率1.58(リーグ2位)と抜群の安定感を見せている。入団してから4年。菊池は眠りから覚めたのだ。今季の菊池を掻き立てたのは、昨シーズンオフ直前の渡辺久信監督からの熱い激だった。

「先輩におんぶにだっこしてもらうのではなく、来年からはエースになるくらいの気持ちでオフを過ごしてこい」

キャンプから「馬のようなケツ」と指揮官から褒められ、キャプテンの栗山巧から「今年のストレートは一味違う」と言われるようになったのも、オフの過ごし方に変化が見られたからにほかならなかった。「走り込みより筋トレが好き」という嗜好も高じて肉体改造に着手。それは彼の肉体美からも窺い知れる。

菊池は、時にその正確から考えすぎるきらいがある。勉強熱心な読書家で、人の話には必ず耳を傾ける。その謙虚さが時に足かせとなったが、そのぶん学ぶことも多かった。

「壁にぶち当たるたびに勉強、勉強で、最終的に辿り着いたのが“直感”でした。自分を信じろってことです。食べるものにしても、トレーニングにしても、今欲しているものを選ぶようになりました。頭で考えすぎていた部分もあるんですけど、でもそれって勉強したからわかったことだと思うんです」(菊池・以下同)

菊池は「登板日が来るのが怖い」と吐露している。喜びを享受できるのは勝利した一瞬だけで、それ以外の時間は登板日に向かう恐怖なのだという。だが、弱気に思えるこの言葉も、マウンド上ではそのそぶりは見せない。頭で考えることとプレーにおいてのメンタルコントロールこそ、今季の彼の考え方の変化であり、躍進の理由だ。

「勝負して楽しいのは、日ハムの中田(翔)さん。一度、オールストレートで勝負したいと思っているんです。たとえば、点差が開いての終盤、思い切り振りかぶって、ストレートだけで勝負してみたい。大谷ですか? 天才です。日本人離れした身体能力、ずば抜けていると思います。後輩って意識を持つと気を遣っちゃいそうなので、一人の打者として対戦したいですね。長く野球をやっていれば、ホームランを打たれることもあるだろうし、三振を取ることもあるでしょうから」

(週刊FLASH 2013年8月13日号)