風営法で規制されるダンス教室とは?

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いまダンス界で大騒動が起きている。発端は若者の街、大阪のアメリカ村だ。

2010年12月に2つのクラブが風営法違反で摘発を受け、それ以来、20店舗以上が摘発、60人以上が逮捕された。この動きは大阪にとどまらず、東京や名古屋、福岡など各地に波及している。

摘発されたクラブは、何がいけなかったのだろうか。

いわゆる「クラブ」は風営法2条3号「ナイトクラブその他設備を設けて客にダンスをさせ、かつ、客に飲食させる営業」に該当する風俗営業で、営業には公安委員会の許可が必要だ。ただ、許可を得るには客室面積66平米以上という条件を満たさなくてはならず、許可後も営業時間は原則的に夜の12時までに制限される。「踊り明かせる」店は、違法なのだ。

ただ、風営法どおりにやっていては営業が成り立たないため、ほとんどのクラブが無許可で営業している。今回はそこにメスが入った形だ。

今回の摘発はルールを厳密に適用しただけで、法律上は問題がないように見える。ただ、そもそもクラブに風営法を適用させることがいまの時代に合っていないという声もある。クラブカルチャーに詳しい齋藤貴弘弁護士は、次のように語る。

「風営法は、1948年にできた法律。当時は、お酒を飲みながら男女が踊ることはけしからんという風潮がありました。いまはそういう時代ではないのに法律だけが当時の価値観のままで、現状と乖離しています」

この騒動は、中高年にとっても対岸の火事ではない。じつはいま、熟年層に人気のサルサやタンゴなどのダンス教室も存続の危機に瀕している。

ダンス教室は、風営法2条4号「ダンスホールその他設備を設けて客にダンスをさせる営業」に該当する。ただ、従来は社交ダンス2団体認定のインストラクターがいるダンス教室にかぎって風営法の対象外とされてきた。裏を返すと、それ以外のダンス教室は風営法の対象になる恐れがあり、これまではグレーな状態で営業が行われてきた。

これを是正するため、昨年に風営法施行令が改正され、社交ダンス以外のダンスにも団体による認定インストラクター制度が認められることになった。一見、歓迎すべきことのようにも思えるが、齋藤弁護士は現場の声をこう代弁する。

「サルサやタンゴ教室の多くは、これまで問題を起こさず、限りなく白に近いグレーで営業してきました。ところが今回の改正で、認定インストラクターを置かない教室は違法営業とされかねない。新しく団体をつくる必要に迫られて、いまサルサやタンゴ業界は大混乱です」

警察庁のダンスについての新解釈も波紋を広げている。施行令改正にあたり、警察庁は「ヒップホップや盆踊りなど、男女がペアとなって踊ることが通常の形態とされていないダンス」は風営法2条4号(ダンス教室など)の対象外という見解を示した。

ただ、この「新解釈」は、中学校でのダンス必修化を念頭に置いたものという意見も。ヒップホップが4号の対象になると、中学校でのダンス必修化との整合性に疑問が生じる。それを避けるための苦肉の策として、ペアダンスではないダンスは対象外という解釈を発表したというものだ。

しかし、ここで冒頭のクラブ摘発事件が絡んでくる。

「4号(ダンス教室)でヒップホップは対象のダンスでないといっているのに、3号(ナイトクラブ)ではヒップホップのクラブが対象になって摘発されています。同じ法律内で、ダンスの定義が異なるのはおかしい」(同)

これでは摘発されたクラブ関係者も納得がいかないだろう。ダンスをめぐる混乱は、しばらく続きそうだ。

(ジャーナリスト 村上 敬=文 ライヴ・アート=図版作成)