730点で10万円…TOEIC高得点に報奨金

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調査概要/上場企業約3600社に対して質問紙の郵送による調査を実施、366社より回答を得た。調査期間は2011年2月14〜23日。回答は広報担当または人事担当による。特に記載のない限り、グラフはこの調査結果をもとに作成。

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■「海外赴任」英語を考慮する会社が8割

TOEIC900点以上取得で20万円の海外旅行費……。

大手ハウスメーカーの大和ハウス工業のTOEICへの報奨金制度は充実している。TOEIC600点、700点以上で、3万、5万円の報奨金。800点以上では語学習得の実費として上限10万円、900点以上では海外旅行費として20万円を会社が負担。950点以上取得者は社費負担の海外留学も検討できる。対象は全社員。

「全社員1万3000人強の業務に英語が必要なわけではありません」と人事部の佐伯佳夫グループ長はいう。売り上げでも海外比率は低く、主な進出先も中国という大和ハウスが、英語力を引き上げるのは何故か。

「内需の減少に伴って、近い将来の海外進出は必然で、その過程で英語が必要です。それに備えてTOEICに報奨金を出して英語力を高めようとしています。今は最初の一歩。全社員に11年度中にTOEICを受けてもらい、英語力を把握しようと考えています」(佐伯氏)

アンケートでは海外赴任中の社員がいる企業のうち英語の能力を考慮する企業が8割。だが企業の戦略・人事を手がけるSPCコンサルティングの白藤香氏は日本企業は言語の重要性の認識がまだアマい、と指摘する。

「日本で仕事ができる人でも英語が話せなければ海外では通用しない。語学の力は絶大です」

白藤氏は、海外で長年働いてきたビジネスマンが口にするのが語学の重要性だという。

「現地の人との仕事で信頼関係をつくるのは言葉です。ですから海外赴任では言語能力は必須。仕事の実力があっても語学ができないと、日本にいるときよりも仕事のレベルが数段落ちて苦しむことになります」(白藤氏)

白藤氏によれば800点前後からが仕事で英語を使えるレベル。600点では英語で電話ができる程度で、相手の言うことがなんとか理解できるのが760点。言いたいことを安定して言えるのが800点からだが、アンケート結果からは470〜25点で海外に出る人が多いようだ。

積極的なグローバル人材の育成を打ち出しているのが神戸製鋼所だ。永良哉人事労政部長はTOEICについて、こう語る。

「TOEICは730点を基準にしています。全総合職・管理職で730点以上が400人程度で、860点以上は100人強(※雑誌掲載当時)。10年後に730点以上の社員数を倍の800人、860点以上の人数もさらに増やすのが目標です」

神戸製鋼には英語教師の社員がいる。神戸や東京であれば、この英語教師のレッスンを受けることができ、それ以外の支店でも英語教師を派遣してもらえて社内で講義を受けられる。

自社の社員教師の講義では、教師が業務内容や社内の雰囲気をわかっているため実用的な英語が身につく、という。

■海外での年収2000万円が帰国すると半額に

神戸製鋼は5〜10年後に売上高を現在の約2倍にする計画で、増加する予定の売上高の大半が海外案件だ。そのためにはグローバル人材を育成する必要がある。

「4000人の管理職・総合職のうち海外勤務経験者は400人程度(※雑誌掲載当時)。この400人を10年間で800人に増やす予定。20代後半から30代前半の若手社員を選抜して、順次海外に送る予定です」(永良氏)

数だけではインパクトはないが中身は思い切ったものだ。

「海外に送る社員には英語力は問いません。あくまでグローバル人材として経験を積んで、将来会社に貢献してくれそうか、という視点から人選を行います。ですから彼らには海外勤務中にはグローバル人材としての経験を積んでもらうことを重視し、具体的な利益などを求めることは考えていません」(永良氏)

海外で働くために、どのようなレベルが必要なのか。投資銀行業務に従事する30代のメガバンク社員に話を聞いた。

「20代後半から30代にかけてニューヨーク支店にいました。TOEICは940点くらいです。周りにはTOEICの点数がもっと高い人もいたけど、ビジネスでの英語が上手かというと疑わしいですね。

語学にはセンスがあると思う。センスを磨くにはローカルの人たちの輪に入っていけるかどうかがカギ。僕はプライベートで外国人と遊ぶことも多かったのですが、支店の日本人でプライベートで外国人と過ごしていた人はほとんどいませんでした。

そういう人は留学しても日本人同士でつるむ。どこに行っても日本人村をつくるんです。そうするとTOEICの点数が高くても、お勉強英語の範疇は出ない。ビジネスで本当に使える英語にはならないんです。

仕事で実用性のある英語を使うことはとても重要です。ローカルスタッフのマネジメントや、市場の貴重な情報を手に入れるためには英語がうまい必要がある。もっともNYでは日本人村だけでもビジネスはできる。それがいい仕事と言えるかどうかはわかりませんが」

待遇面はどうなのだろうか。

「赴任すると住宅費だ、海外手当だと、年収2000万円くらい。それが日本に帰ってくると1000万円を少し超えるくらいにダウン。やはり海外赴任の待遇はいいですね」(メガバンク社員)

ビジネスマンの英語習得に関して、前出の白藤氏は部長職の英語力の伸びが早いと指摘する。

「部長職は経営層にプレゼンをすることが多いため思考の訓練ができていて思考枠が出来上がっている。だから英語も勉強し始めると上達が早い。この思考枠が外国語の習得には大切です。外国のビジネスマンは、中学・高校のときから思考の訓練を受けて、帰納法や演繹法といった思考体系が身についています。

一方、日本では思考枠のない人が大半。ですから外国人と話してもしっくりこない。異なる思考体系で話しているから当然です。50代も多い部長職の英語上達が早いのは、思考枠の有無に秘密があるのです」

また白藤氏は一般社員の上達法についても話す。

「社員のモチベーションがお小遣い程度の報奨金で維持できるのはせいぜい600点程度。それ以上の社員には報奨金ではなく、昇進など人事制度で報いるのが本筋というものでしょう」

大和ハウスの佐伯氏も、その点は認識している。

「私たちも報奨金で社員を釣る気はありません。勉強した人が結果的に経済的補助を受けることが大切。モチベーションの源泉は仕事の中身です。正当な努力に報いること、グローバル化に向けての方向づけ、そして英語の習得を社として奨励する姿勢を社員にわかってもらうことに意味があるんです」

ビジネスマンが英語と本気で向き合う時代がやってきた。さて、あなたは――。

※すべて雑誌掲載当時

(田原英明(PRESIDENT編集部)=文)