700psのV12ツインターボで351.45km/h達成 マイバッハ・エクセレロ(2) 近年稀な大盤振る舞いプロジェクト
700psを求めて6.0Lへ拡大されたV12
マイバッハ・エクセレロのスタイリングを担当したのは、ドイツ・プフォルツハイム工科大学。1938年に製作された、マイバッハSW38 ストロムリーニの流線型ボディに影響を受けた、フレドリック・ブルクハルト氏のアイデアが採用された。
【画像】V12ツインターボで351.45km/h エクセレロ 現行のマイバッハ SLR マクラーレンも 全100枚
ツートーンカラーやグリルなど、当時のイメージを継承しつつ、滑らかなルーフラインはボートテールへ続き、クラシカルなわけでもなかった。アルミホイールは、メルセデス・ベンツSLR マクラーレンに似ていたが、エアロカバーの取り付けも可能だった。

マイバッハ・エクセレロ(2005年/ワンオフモデル) マックス・エドレストン(Max Edleston)
マイバッハ57をベースに、実際のカタチへ仕上げたのは、イタリア・トリノのカロッツエリア、ストーラ社。Aピラーの位置は後方へ移され、バルクヘッドが追加され、アルミとカーボンファイバーを用いた巨大なクーペボディが架装された。
フルダ社が求めた最高速度は、350km/h。それには、マイバッハ57に載った5.5L V12ツインターボエンジンが生み出す、550psでは足りなかった。必要とされる700psを求めて、排気量は5980ccへ拡大され、ブースト圧も高められた。
ナルド・サーキットで351.45km/hを達成
エクセレロは2005年に完成し、フルダ社はその5月に、イタリア南東部のナルド・サーキットで最高速テストを実施。ステアリングホイールを握ったのは、ツーリングカーレースの帝王、クラウス・ルートヴィヒ氏だった。
高速周回コースを疾走したエクセレロは、目標速度を超え、351.45km/hを達成。安定性の高さと、更に加速できそうだったことを、ルートヴィヒは感想として述べている。

マイバッハ・エクセレロ(2005年/ワンオフモデル) マックス・エドレストン(Max Edleston)
しかし、フルダ側はそれ以上を求めなかった。プレスリリースは事前に準備されており、そこでは350km/hを突破したことが強調されていたからだ。
その後、エクセレロはモーターショーを凱旋。テレビ番組にも積極的に貸し出された。2006年には、アメリカ人ラッパーのジェイZがリリースしたシングル、「ラストワン」のMVで主演級の存在感を放ってもいる。
ラッパーへ提示された金額は800万ドル
マイバッハを好んだというジェイZながら、撮影後にエクセレロを購入することはなかった。余りにも高額で、諦めたのかもしれない。同じくラッパーのバードマンも興味を示し、800万ドルという金額が提示されたものの、契約には至らなかった。
最終的に購入したのは、とある欧州人。その後、カーコレクターのフリードヘルム・ロー氏が、巨大なガレージへ迎え入れている。アルミ製ボディの300SLやレーシングカーのCLK GTRを所有するマニアで、エクセレロの価値も理解していたのだろう。

マイバッハ・エクセレロ(2005年/ワンオフモデル) マックス・エドレストン(Max Edleston)
今回の取材のため、最大トルク103.7kg-mの6.0L V12ツインターボを、数年ぶりに始動していただいた。エアバッグの警告灯は点ったが、他に不具合はなかったらしい。
リアパネルの奥に収納スペースがあるそうだが、その可動部分は調子が悪いとか。ワンオフモデルだから、交換用の部品は当然だが存在しない。
兄弟モデルが誕生する可能性もあった
エクセレロ最大の功績といえるのは、マイバッハによるインディビジュアル・プログラムを先行したところ。費用の縛りなしなら、どんなモデルを提供できるのかを、顧客に提示することへ繋がった。また、6.0L V12エンジンの「57 S」にも派生したといえる。
ちなみに、エクセレロの兄弟も誕生する可能性はあった。製作を担当したカロッツエリア、ストーラ社は、2007年にマイバッハのロゴを省いた派生モデル、ストーラ・ファルコンを発表している。フロントグリルの形を変え、ルーフを全面ガラス張りにして。

マイバッハ・エクセレロ(2005年/ワンオフモデル) マックス・エドレストン(Max Edleston)
25台の限定で販売すると、告知されてもいた。惜しくも、実現はしていないが。
近年では稀な大盤振る舞いプロジェクト
復活したブランドの、華々しいショーケースとして一時代を湧かせた、エクセレロ。キッカケは少々軽薄なものだったかもしれないが、コンセプトカーとして肩を並べる事例は殆どないだろう。ここまで大盤振る舞いな共同プロジェクトは、近年では稀でもある。
例えるなら、巨大で強力、壮大なモニュメント。富豪の自動車マニアがショーカーへ求める究極の姿、と表現しても良いかもしれない。単にイベント会場のステージへ飾られるのではなく、実際に350km/h以上の速度で走行できるのだから。

2005年のナルドで最高速テストを実施したエクセレロと、クラウス・ルートヴィヒ氏
今では、行き過ぎたワンオフモデルに思えることは否めない。しかし、まだ潤沢だったマーケティング予算のおかげで、自動車史へ無二の物語が追加されたことは、喜ばしい事実だろう。
協力:ドイツ国立自動車博物館、ロー・コレクション
