松本人志

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 ダウンタウン・松本人志(61)が今月8日、自身の性加害疑惑を報じた「週刊文春」の発行元である文藝春秋などを相手に起こしていた訴訟を突如、取り下げ、今後の復帰について注目が集まっている。ライターの冨士海ネコ氏は、不祥事タレントにとって、世間からたたかれまくる「サンドバッグ会見」が重要だと語るが、その理由とは――。

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 松本人志さんが文藝春秋に対する訴訟を取り下げ、裁判が終結したと発表。すわ復帰かと業界内外は色めきたったが、まだまだ抵抗感を持つ視聴者は少なくないようである。Xでは「#松本人志をテレビに出すな」というハッシュタグが半日で10万件以上ポストされ、地上波ではどこが最初に松ちゃんの出演を解禁するのか、チキンレースの様相を呈しているようだ。

松本人志

 ファンからもアンチからも、「早めに記者会見をしておけば傷は浅かったのでは」という指摘が散見される。ビートたけしさんのフライデー襲撃事件におけるすごみある記者会見と比べ、芸人としての器の差が出たというコメントもあった。記者会見は形骸化したとはいえ、まだまだ「世間やスポンサーへの最低限の義理」として捉えられているということだろう。特にスキャンダルを起こしたタレントにとっては、その瞬間は針のむしろでも、長期的な目で見ればメリットとなり得る場なのかもしれない。このSNS時代、一度大きな不祥事を起こせばずっと言われ続ける。そして言われ続ける人の共通点の一つに、記者会見の有無は大きく影響しているような気がするのだ。

 例えば芸能人の略奪婚が報道されると、必ず布袋寅泰さん、Mr.Childrenの桜井和寿さん、GLAYのTERUさんらの名前を蒸し返すコメントが出てくる。当時それぞれ週刊誌の取材などには答えたものの、謝罪会見は開いていない。もう皆さん再婚相手との間にお子さんもいるし、そもそも不倫は家庭の問題。世間に申し開きする必要はない。しかしイメージで稼ぐ商売だからこそ、会見をやらないと「問題から向き合わず逃げた」という印象が付いてしまうのだろう。2019年にタピオカ騒動を起こした木下優樹菜さんも、会見せず謝罪文のみで雲隠れしたが、ほとぼりが冷めたと思っているのは本人だけのよう。テレビ出演するたび批判が殺到し“干され”続けている。

 一方、今年に入って地上波復帰した芸能人を考えてみると、意外にも記者会見でめちゃくちゃにたたかれた人ばかりではないか。東出昌大さんと、アンジャッシュ・渡部建さんである。

渡部に東出……「記者会見」で「有名人の妻」によって「人の2倍たたかれた」嫌われ者たちは地上波に復帰

 東出さんと渡部さんといえば、記者会見でのしどろもどろな返答が話題となった。妻と愛人とどっちが好きかと切り込まれた東出さんは、「申し上げられない」という答えのまずさがさまざまなワイドショーで批判の的に。その後も懲りずに女性問題で事務所から契約解除となると、山にこもって優男イメージから脱却。今年の電撃再婚で再び注目とあきれる声を集めたものの、「バカなだけで悪い奴じゃない」と擁護する向きも出始めた。記者会見でも露呈したように、良くも悪くも取り繕えないという姿勢は、一周回って「バカ正直」という憎めなさに変わり始めているのではないか。

 翻って渡部さんといえば口が達者な印象があったが、さすがにいつもの勢いは出せない記者会見となった。多目的トイレのことだけでなく、不倫相手とのやり取り、妻の反応はどのようなものだったかなどつぶさに聞かれ、てんぐになっていたのではとまで言われる始末。それでも一つ一つ逃げることなく答え、「会見しなくても済むのではないか」と迷った心情まで、東出さん同様にバカ正直に話していた。

 彼らの会見がつるし上げのようになったのは、人気のある有名女優が伴侶だったということも大きい。不祥事は自分のタレントイメージだけでなく、妻のタレントイメージも大きく傷つけることになる。「あの人気女優に恥をかかせやがって」という、世間の声を味方につけた記者たちの追い詰め方は苛烈だった。結果、女性層を中心に「気持ちの悪い男」と「かわいそうな妻」という構図が定着した。

 ただ、ネットリンチに誘導するような記者たちの質問の下世話さにも批判の矢は向いた。記者会見に出てきたことで、そして人気有名人の妻を持ったことで、「一般的なタレントの2倍たたかれた」悪い男たち。でも悪者をたたくのは気持ちがいいが、池に落ちた犬をたたくの例えのように「覚悟を決めて会見に出てきた相手をそこまでいじめなくても」という心理的ブレーキがかかったのではないだろうか。

 もちろん、いまだに生理的に受け付けないという厳しい反応も残っている。おそらく本人たちも、そのことをよく分かっているはずだ。だからこそ地上波からは一歩引いて、Abemaなどのネット番組から地道に支持を増やそうとしてきた。東出さんはひろゆきさんと共演した旅番組が好評だし、渡部さんが出演したバラエティー動画の再生回数も非常に多い。有吉弘行さんやおぎやはぎさんが茶化していたように、「鼻につく」キャラを逆手に取り過ぎることなく、徹底してイジられながらも見せる話術に、「やっぱり渡部すげえわ」と見直し、復帰を待つお笑いファンの投稿も目立つ。蛇足だが今年地上波復帰したという点では手越祐也さんもいるが、思えば彼も軽薄な退所会見がめちゃくちゃたたかれた人だった。

 会見は決して「義務」ではないから突っぱねる自由はある。しかしむしろ注目される存在である以上は、会見を失地回復のための機会と捉え、開催する「権利」を行使すると考えた方が長い人生ではプラスといえるのではないか。

謝罪したのに炎上しがちな吉本関係者たち……芸人の自主性を尊重する社風はリスクマネジメントを手薄に?

 2011年の島田紳助さん引退会見では、紳助さんがセーフと思っていたラインは実はアウトだと、吉本興業からいさめられたというやり取りが明かされた。タレントはともかく、事務所はまともだという体裁を保つことには一役買ったのではないだろうか。ただ一方で、個人主義・実力主義の芸人の感覚を尊重して介入しないスタンスが、裏目に出たケースともいえる。ここ最近を振り返っても、吉本関係者はどこか独善的な謝罪に陥ることが多く、会社としてのリスクマネジメントがなっていないように見えるのだ。

 2019年に3年間で1億円に上る申告漏れを指摘されたチュートリアル・徳井義実さんは、「想像を絶するルーズさ」による過失だと強調したが、それ以前からも申告漏れがあったことが明らかに。同年の闇営業問題では涙ながらに会見した宮迫博之さんが、後輩の舞台復帰前日にYouTubeデビューをぶつけ総スカンを食らった。さらには当時の社長まで、芸人に対する恫喝を告発され、まさかの大炎上。つい最近では、ジャングルポケットの斉藤慎二さん自身が書類送検されたことに関して沈黙を貫くも、妻の瀬戸サオリさんがすぐにSNSで事件性を否定したことが物議を醸した。

 吉本興業は3月に過去最大規模のコンプライアンス研修を開き、「常に時代に寄り添って110年歩んできた会社」と豪語していた。研修内では、タレントの言葉の影響力と怖さを語っていた岡本昭彦社長だが、人気芸人たちの発言力で時代を寄り添わせてきたほころびが、今になって出始めていると捉えた方がいいのではないか。たけしさんのように、一人矢面に立って記者会見でたたかれまくるのは相当つらいが、「あんなに肩で風切ってたのに、会見から逃げるなんてずいぶんダサい人になっちゃったな」と思われ続ける方が、芸人にとっては致命傷では。お節介だが「ごっつええ感じ」世代の一人としては、ついそう思ってしまうのである。

冨士海ネコ(ライター)

デイリー新潮編集部