綾瀬はるか、高い身体能力を封印し新境地 10代の頃の“むき卵”のような感覚に懐かしさ
デビュー以来、さまざまな作品で観る者を魅了し続けている綾瀬はるか。コメディーやアクションに定評のある彼女が新作に選んだ『ルート29』は、不思議な味わいを持つロードムービーだ。同作で綾瀬は『こちらあみ子』で高い評価を得た森井勇佑監督に導かれ、これまで見たことのない表情と存在感を解き放つ。30代ラストイヤーを迎え、さらなる挑戦を続ける綾瀬に、本作に込めた思いを聞いた。
【写真】作品では封印した笑顔がかわいすぎる綾瀬はるか
◆作品の現場から離れた1年弱を経て、新作では「演じる意識をそぎ落とす」作業を
本作は、姫路と鳥取を結ぶ国道29号線を舞台にした、綾瀬はるか主演のロードムービー。詩人・中尾太一の『ルート29、解放』に着想を得て、他者とのコミュニケーションが必要以上にできない女性が、風変わりな少女と絆を築いていく。『こちらあみ子』の森井勇佑が監督を務め、同作でさまざまな映画賞に輝いた13歳、大沢一菜が共演する。
――『ルート29』は、ロードムービーでありつつ、生と死、現実と幻想の狭間のような不思議な味わいの作品ですね。映画やドラマの撮影が約1年ぶりとなる作品に、『こちらあみ子』の森井勇佑監督の2作目となる本作を選んだ決め手は何ですか。
綾瀬:『ルート29』はセリフがすごくたくさんあるわけでなく、何かを見せていくお芝居より、心の声を聞いてくるお芝居で。それはそれで難しいんですけど、そういう自分の内面と向き合っていく作品をやりたいと思っていた頃だったんです。
――1年弱の間、撮影をされていなかったのは珍しいのでは。何か心境の変化などあったのでしょうか。
綾瀬:その前の撮影がアクションが多く、身につけていくことが多い作品が続いたんですね。そういうこともあって、ただそこに存在している感覚を味わいたい、日々の生活の中でこれまでと違う視点で自分自身と向き合ってみたいという思いがあった気がします。
――綾瀬さんの大きな強みであるアクションも笑顔も封じたお芝居は、新鮮でした。難しさはありませんでしたか。
綾瀬:最初はどうなるんだろうと思いましたし、戸惑いもありました。でも、監督が「相手にセリフを伝えようとしなくていいです」と言ってくれて、想像していた以上に「演じる」という意識をそぎ落としていく作業が必要なんだなと思い、手探りで進めていった感じです。
――演じる意識をそぎ落とすというのは、具体的にどんな作業なんでしょう。
綾瀬:私が演じた中井のり子という女性について、監督が「僕は、綾瀬さんはのり子に似てると思う。だから、そのままそこにいてくれればいい」とおっしゃったんですね。もちろんセリフもあるわけですが、なるべく考えず、空っぽになろう、と。監督は「のり子は、自分の中にすごく大きな宇宙がある人なんです」「ご自分の中のたくさんの余白をもっともっと感じてください」と言われて、思考をとにかくストップさせて、その場にあること・起きていることをそのままに感じるようにしました。
――撮影は鳥取で1ヵ月半ぐらい行われたそうですね。どんな風に過ごしたのですか。
綾瀬:鳥取の自然に囲まれながら、1ヵ月半かけて、ほぼ順撮りで撮影は進んだんですね。自然に時間が流れる中、ハルちゃん(大沢一菜)と一緒に過ごす時間をただ感じていました。
――監督はのり子と綾瀬さんが似ているとおっしゃったそうですが、綾瀬さんの明るい笑顔のパブリックイメージと、淡々としていて他者に対して閉ざしているのり子はちょっと遠いイメージです。ご自身ではのり子に親近感を覚えるところもありましたか。
綾瀬:そうですね。1人でいるとき、誰かと会話していないときの私はのり子みたいな感じかなと思います。私はのり子みたいにできるだけ人とコミュニケーションをとらない人ではないですが、家にいるときの感じは似ている気がします。
――外で見せる顔とは違う、1人でいるときの雰囲気を監督はなんとなく感じたんですかね?
綾瀬:不思議ですよね。でも、寂しそうというか、世間に「個」として出ている感じがしたと言われました。
――『こちらあみ子』や『ルート29』のような映画を撮る監督ならではの感性ですね。
綾瀬:「テレビに出ているのを見て、悪い意味じゃなくて、ちょっと変わっている人だなと思っていました」みたいに言われたんですよ(笑)。
――(笑)。以前インタビューさせていただいたときも、廊下ですれ違う人みんなと親しく話をされて、誰にでもフレンドリーで、“コミュ力の塊”“友達作りの天才”だと感じました。それこそテレビのイメージ通りだったので、意外です(笑)。
綾瀬:よく知っている人とは仲が良いですし、のり子ほど壁を作るタイプではありませんが、友達作りは全然得意ではないんです(笑)。
――綾瀬はるかというパブリックイメージに息苦しさを感じたこともありましたか。
綾瀬:昔は何を言っても「天然」みたいになってしまって、「私、失言したかな」といつも落ち込んでいたんですよ。でも、大人になってからは何を言われてもあんまり気にならなくなりました(笑)。
◆ハル役・大沢一菜から学ぶところが多かった
――監督が綾瀬さんの一人のときの素顔を見抜いたように、のり子を演じていく中でご自身も気づいていなかった一面を発見した部分もありますか。
綾瀬:のり子がなぜ他者に対して壁を作るようになったかという話を監督がされたとき、「たぶん良かれと思って言ったことが、相手に違う感じに受け取られてしまったりということを繰り返していくうち、自然に人と積極的にコミュニケーションを取らなくなったんじゃないかと思う」とおっしゃったんですね。私はそれ、すごくあるなと思ったんです。
――綾瀬さんにも同じようなご経験や思いがあったのでしょうか。
綾瀬:そうですね。ハルみたいに、どんな人が現れても、その人たちを決めつけたり否定したりするのではなく、自然にその人たちをそのままに受け入れる人ってなかなかいないと思います。だからこそ、そんなハルといることでのり子も心も開けたんだろうなと思います。私はハルみたいな人になりたいという憧れがあるんですよ。
――ハルを演じる大沢一菜さんには唯一無二の存在感がありますね。もともと大沢さん主演の『こちらあみ子』がお好きだったそうですが。
綾瀬:一菜ちゃんがとにかく魅力的で。実際に会ったときも「あみ子!」と思ったんですが、実はすごくシャイで、めっちゃ可愛いんですよ。最初は人の後ろに隠れていたくらい恥ずかしがっていて、可愛かったんですが、お芝居になったら急に目つきが変わるの。
――カメラが回ると、スッと入り込む感じなんですか。
綾瀬:そうなのかな。実際にこういう子がいるんだなと思うような、お芝居に見えない、力の抜けた自然なお芝居なんですよ。でも、思った以上に恥ずかしがり屋さんだったり、すごい気遣い屋さんだったりで。
――大沢さんに学ぶところが多かったとおっしゃっていましたね。例えばどんなところでしょう。
綾瀬:監督の世界観にすごくハマる女優さんなんですよね。クランクインが迫る頃、監督が伝えようとしなくていいし、もっと自分を感じてくださいと言った意味も、一菜ちゃんを見ていると「こういうことなんだろうな」とわかる気がしました。
――今までやってきたどのお芝居とも、アプローチの仕方が違っていましたか。
綾瀬:違いましたね。役者としていろいろ演じていく中で、稽古して積み上げていって、見せたり演じたりという経験を20年以上やってきました。でも、1周して1回それを全部そぎ落として、むき卵になったような懐かしい感じもあるんですよ。
――むき卵ですか。
綾瀬:はい。10代の頃とかって、たぶんそんな感じだったんです。でも、いろいろ経験を積むにつれて、演技していくことや経験の中で自然と身につけてきたものがあるんですよね。それをリセットするのは新鮮でした。
◆「監督が『なんか動きが機敏だ』と(笑)」 高い身体能力を封印
――『ルート29』の中では、ただ立っているだけ、歩いている、走ってるだけでも、綾瀬さんに見えないんですよね。身体能力がすごく高くて、運動神経の良い方は、立ち姿や歩き姿がどうやってもサマになってしまう。でも、映画の中では、いつもの身体能力の高い方には見えませんでした(笑)。
綾瀬:ああ、確かに! 最初、走って振り向くシーンを何回も撮ったんですね。監督が「なんか動きが機敏だ」と言って(笑)。監督と2人でモニターを見て、「もうちょっと顔を動かすの、ゆっくりの方がいいですよね」とか、何回もやりました。
――身体能力をそぎ落とすのは大変そうです(笑)。のり子とハルの間に流れる、共鳴し合った空気や関係性もこの作品の魅力ですが、綾瀬さんご自身にもハルのような存在はいますか。
綾瀬:いますね。例えば昔からの友達などは、言葉で言わなくても、調子が悪いことにすぐ気づいたり、何かあったことが必ずバレたり。お母さんもそう。もう言葉じゃないところでつながっているのを感じます。
――鳥取の自然の中でのり子として過ごした1ヵ月半は、綾瀬さんの人生においてどんな時間になりましたか。
綾瀬:ただただ楽しかったです。監督が同い年だったことも大きくて。同じ年月を生きてきた人が、こういう考えで今を生きているんだと知ることができたのも面白かったです。
――監督と共鳴するところもありましたか。
綾瀬:あった気がします。監督の指示の仕方はすごく感覚的なんですよね。「もうちょっとここを強く」みたいな具体的な指示じゃなく、説明もなく、自分も聞くわけでもなく、でも監督もきっと同じ感覚なんだろう、みたいな。言葉にするのはすごく難しいけど、感覚として通じるというか。生きてきた時間が重なっているからか、好きな物とか物事のとらえ方が意外と似ている気がしました。私は監督ほど思慮深くはないですけど(笑)。
――生きてきた時間で言うと、30代も残りわずかですね。30代のうちにやっておきたいことはありますか。
綾瀬:うーん、なんだろう……やり残したこととか特にないんですよね。でも、ここでこれまでの経験を一度全部そぎ落として、むき卵のようになれたことで、また新たな時間に進んでいける気がします。
(取材・文:田幸和歌子 写真:松林満美)
映画『ルート29』は公開中。
◆作品の現場から離れた1年弱を経て、新作では「演じる意識をそぎ落とす」作業を
本作は、姫路と鳥取を結ぶ国道29号線を舞台にした、綾瀬はるか主演のロードムービー。詩人・中尾太一の『ルート29、解放』に着想を得て、他者とのコミュニケーションが必要以上にできない女性が、風変わりな少女と絆を築いていく。『こちらあみ子』の森井勇佑が監督を務め、同作でさまざまな映画賞に輝いた13歳、大沢一菜が共演する。
――『ルート29』は、ロードムービーでありつつ、生と死、現実と幻想の狭間のような不思議な味わいの作品ですね。映画やドラマの撮影が約1年ぶりとなる作品に、『こちらあみ子』の森井勇佑監督の2作目となる本作を選んだ決め手は何ですか。
綾瀬:『ルート29』はセリフがすごくたくさんあるわけでなく、何かを見せていくお芝居より、心の声を聞いてくるお芝居で。それはそれで難しいんですけど、そういう自分の内面と向き合っていく作品をやりたいと思っていた頃だったんです。
――1年弱の間、撮影をされていなかったのは珍しいのでは。何か心境の変化などあったのでしょうか。
綾瀬:その前の撮影がアクションが多く、身につけていくことが多い作品が続いたんですね。そういうこともあって、ただそこに存在している感覚を味わいたい、日々の生活の中でこれまでと違う視点で自分自身と向き合ってみたいという思いがあった気がします。
――綾瀬さんの大きな強みであるアクションも笑顔も封じたお芝居は、新鮮でした。難しさはありませんでしたか。
綾瀬:最初はどうなるんだろうと思いましたし、戸惑いもありました。でも、監督が「相手にセリフを伝えようとしなくていいです」と言ってくれて、想像していた以上に「演じる」という意識をそぎ落としていく作業が必要なんだなと思い、手探りで進めていった感じです。
――演じる意識をそぎ落とすというのは、具体的にどんな作業なんでしょう。
綾瀬:私が演じた中井のり子という女性について、監督が「僕は、綾瀬さんはのり子に似てると思う。だから、そのままそこにいてくれればいい」とおっしゃったんですね。もちろんセリフもあるわけですが、なるべく考えず、空っぽになろう、と。監督は「のり子は、自分の中にすごく大きな宇宙がある人なんです」「ご自分の中のたくさんの余白をもっともっと感じてください」と言われて、思考をとにかくストップさせて、その場にあること・起きていることをそのままに感じるようにしました。
――撮影は鳥取で1ヵ月半ぐらい行われたそうですね。どんな風に過ごしたのですか。
綾瀬:鳥取の自然に囲まれながら、1ヵ月半かけて、ほぼ順撮りで撮影は進んだんですね。自然に時間が流れる中、ハルちゃん(大沢一菜)と一緒に過ごす時間をただ感じていました。
――監督はのり子と綾瀬さんが似ているとおっしゃったそうですが、綾瀬さんの明るい笑顔のパブリックイメージと、淡々としていて他者に対して閉ざしているのり子はちょっと遠いイメージです。ご自身ではのり子に親近感を覚えるところもありましたか。
綾瀬:そうですね。1人でいるとき、誰かと会話していないときの私はのり子みたいな感じかなと思います。私はのり子みたいにできるだけ人とコミュニケーションをとらない人ではないですが、家にいるときの感じは似ている気がします。
――外で見せる顔とは違う、1人でいるときの雰囲気を監督はなんとなく感じたんですかね?
綾瀬:不思議ですよね。でも、寂しそうというか、世間に「個」として出ている感じがしたと言われました。
――『こちらあみ子』や『ルート29』のような映画を撮る監督ならではの感性ですね。
綾瀬:「テレビに出ているのを見て、悪い意味じゃなくて、ちょっと変わっている人だなと思っていました」みたいに言われたんですよ(笑)。
――(笑)。以前インタビューさせていただいたときも、廊下ですれ違う人みんなと親しく話をされて、誰にでもフレンドリーで、“コミュ力の塊”“友達作りの天才”だと感じました。それこそテレビのイメージ通りだったので、意外です(笑)。
綾瀬:よく知っている人とは仲が良いですし、のり子ほど壁を作るタイプではありませんが、友達作りは全然得意ではないんです(笑)。
――綾瀬はるかというパブリックイメージに息苦しさを感じたこともありましたか。
綾瀬:昔は何を言っても「天然」みたいになってしまって、「私、失言したかな」といつも落ち込んでいたんですよ。でも、大人になってからは何を言われてもあんまり気にならなくなりました(笑)。
◆ハル役・大沢一菜から学ぶところが多かった
――監督が綾瀬さんの一人のときの素顔を見抜いたように、のり子を演じていく中でご自身も気づいていなかった一面を発見した部分もありますか。
綾瀬:のり子がなぜ他者に対して壁を作るようになったかという話を監督がされたとき、「たぶん良かれと思って言ったことが、相手に違う感じに受け取られてしまったりということを繰り返していくうち、自然に人と積極的にコミュニケーションを取らなくなったんじゃないかと思う」とおっしゃったんですね。私はそれ、すごくあるなと思ったんです。
――綾瀬さんにも同じようなご経験や思いがあったのでしょうか。
綾瀬:そうですね。ハルみたいに、どんな人が現れても、その人たちを決めつけたり否定したりするのではなく、自然にその人たちをそのままに受け入れる人ってなかなかいないと思います。だからこそ、そんなハルといることでのり子も心も開けたんだろうなと思います。私はハルみたいな人になりたいという憧れがあるんですよ。
――ハルを演じる大沢一菜さんには唯一無二の存在感がありますね。もともと大沢さん主演の『こちらあみ子』がお好きだったそうですが。
綾瀬:一菜ちゃんがとにかく魅力的で。実際に会ったときも「あみ子!」と思ったんですが、実はすごくシャイで、めっちゃ可愛いんですよ。最初は人の後ろに隠れていたくらい恥ずかしがっていて、可愛かったんですが、お芝居になったら急に目つきが変わるの。
――カメラが回ると、スッと入り込む感じなんですか。
綾瀬:そうなのかな。実際にこういう子がいるんだなと思うような、お芝居に見えない、力の抜けた自然なお芝居なんですよ。でも、思った以上に恥ずかしがり屋さんだったり、すごい気遣い屋さんだったりで。
――大沢さんに学ぶところが多かったとおっしゃっていましたね。例えばどんなところでしょう。
綾瀬:監督の世界観にすごくハマる女優さんなんですよね。クランクインが迫る頃、監督が伝えようとしなくていいし、もっと自分を感じてくださいと言った意味も、一菜ちゃんを見ていると「こういうことなんだろうな」とわかる気がしました。
――今までやってきたどのお芝居とも、アプローチの仕方が違っていましたか。
綾瀬:違いましたね。役者としていろいろ演じていく中で、稽古して積み上げていって、見せたり演じたりという経験を20年以上やってきました。でも、1周して1回それを全部そぎ落として、むき卵になったような懐かしい感じもあるんですよ。
――むき卵ですか。
綾瀬:はい。10代の頃とかって、たぶんそんな感じだったんです。でも、いろいろ経験を積むにつれて、演技していくことや経験の中で自然と身につけてきたものがあるんですよね。それをリセットするのは新鮮でした。
◆「監督が『なんか動きが機敏だ』と(笑)」 高い身体能力を封印
――『ルート29』の中では、ただ立っているだけ、歩いている、走ってるだけでも、綾瀬さんに見えないんですよね。身体能力がすごく高くて、運動神経の良い方は、立ち姿や歩き姿がどうやってもサマになってしまう。でも、映画の中では、いつもの身体能力の高い方には見えませんでした(笑)。
綾瀬:ああ、確かに! 最初、走って振り向くシーンを何回も撮ったんですね。監督が「なんか動きが機敏だ」と言って(笑)。監督と2人でモニターを見て、「もうちょっと顔を動かすの、ゆっくりの方がいいですよね」とか、何回もやりました。
――身体能力をそぎ落とすのは大変そうです(笑)。のり子とハルの間に流れる、共鳴し合った空気や関係性もこの作品の魅力ですが、綾瀬さんご自身にもハルのような存在はいますか。
綾瀬:いますね。例えば昔からの友達などは、言葉で言わなくても、調子が悪いことにすぐ気づいたり、何かあったことが必ずバレたり。お母さんもそう。もう言葉じゃないところでつながっているのを感じます。
――鳥取の自然の中でのり子として過ごした1ヵ月半は、綾瀬さんの人生においてどんな時間になりましたか。
綾瀬:ただただ楽しかったです。監督が同い年だったことも大きくて。同じ年月を生きてきた人が、こういう考えで今を生きているんだと知ることができたのも面白かったです。
――監督と共鳴するところもありましたか。
綾瀬:あった気がします。監督の指示の仕方はすごく感覚的なんですよね。「もうちょっとここを強く」みたいな具体的な指示じゃなく、説明もなく、自分も聞くわけでもなく、でも監督もきっと同じ感覚なんだろう、みたいな。言葉にするのはすごく難しいけど、感覚として通じるというか。生きてきた時間が重なっているからか、好きな物とか物事のとらえ方が意外と似ている気がしました。私は監督ほど思慮深くはないですけど(笑)。
――生きてきた時間で言うと、30代も残りわずかですね。30代のうちにやっておきたいことはありますか。
綾瀬:うーん、なんだろう……やり残したこととか特にないんですよね。でも、ここでこれまでの経験を一度全部そぎ落として、むき卵のようになれたことで、また新たな時間に進んでいける気がします。
(取材・文:田幸和歌子 写真:松林満美)
映画『ルート29』は公開中。