来年6月、刑法が改正され明治時代からおよそ120年に渡って続いてきた刑罰の種類が見直されます。これまで受刑者には金沢刑務所などの刑事施設に入り労務作業がない「禁錮刑」と、働くことを義務として科す「懲役刑」が適用されてきましたが、これらは廃止されることとなります。

そして、来年6月から新たに導入さるのが「拘禁刑」です。目的は再犯の防止。「懲役刑」の漢字にあるような懲らしめるための刑ではなく、社会復帰を優先し受刑者一人ひとりにあった刑事施設の運用が今、求められています。法改正に伴い、転換期を迎える金沢刑務所を取材しました。

薬物関連3.5割、窃盗3.5割の金沢刑務所

受刑者

「周囲よし、モーターよし」

金沢市田上町にある金沢刑務所。刑期が10年未満の男性350人余りが全国からこの場所に収容されています。

犯した罪の内訳は覚せい剤や大麻など薬物関連がおよそ3・5割窃盗が同じく3・5割ほど、残りの3割が殺人や詐欺などその他となっています。

この金沢刑務所が転換期を迎えています。静かに工場に向かう受刑者たち。これまでは刑務官が足並みを合わせるため号令をかけていましたが今年から無くなりました。

刑務官

「毎回やっている気分調べから。〇〇さんはどうですか?」

受刑者

「良い気分としての60くらいです」

刑務官

「きょうは60もあるんですね」

刑務官による受刑者の呼び捨てを撤廃し、今年から「さん付け」で呼ぶこととなりました。

「呼び捨て」から「さん付け」に 受刑者の反応は…

受刑者

「威圧感が無くなったりというのは思います」

「さん付けに変わったりとか、人として見てくれているのかなと」

金沢刑務所・湯浅康一所長

「呼び捨てにすることで、彼らの人権をしっかりと保障していないのではないかという誤解を招くことがあってはいけないのでそのような呼び方に変えました。指示的命令的な刑務官の冷たい印象が少し変わってきたのかなと思います」

個人を尊重するために金沢刑務所が今力を入れて行っているのが刑務官と受刑者が対等な立場で語り合う「面接指導」です。

こちらの男性は他の受刑者の目線が気になり生活に馴染めないという悩みを抱えています。

受刑者

「運動中一緒になる方は結構話しやすいですね」

刑務官

「自分から話す人ですか?」

受刑者

「はい、結構深い所まで話します。」

刑務官

「そんな人がいるということはとても大切だと思いますよ。自分の弱さを見せることで自分を吐き出せて楽になったりもしますし」

面接を行うのは心理カウンセラーなど専門職の職員ではなく刑務官です。

金沢刑務所・湯浅康一所長

「制服を着た刑務官が改善指導をしていかなくちゃいけないという時代が来ます。刑務官というのは日々受刑者の生活ぶりを見ていて非常に洞察力観察力に優れています。だからこそ刑務官が切りひらいていける改善指導が見えてきました」

受刑者

「自分の思っていることを言えてすっきりしています。褒められたりとかして、この先どうしようとか先のこと考えられるようになるので自信は湧きます」

刑務官

「厳しくやっても中の人たち=収容者からは反発しか出てこないので、ちょっと緩くなればもっと指導に前向きになる収容者も増えて良いのではないかと僕は感じています」

さらに、改善指導の一環として行われている年に一度の取り組みがあります。金沢刑務所で年に一度開かれる工場対抗の「運動会」

工場対抗「運動会」趣向を凝らした“応援”も

さらに、改善指導の一環として行われている年に一度の取り組みがあります。金沢刑務所で年に一度開かれる工場対抗の「運動会」

リレーでは受刑者たちが懸命にバトンを繋ぎ優勝を目指します。コミュニケーションを取りながら力を合わせて行う綱引き。童心に返る玉入れなど5種目が繰り広げられます。

一番盛り上がるのが工場ごとに趣向を凝らした応援です。

運動会は、競技を通して団結し協調性を養うため毎年秋に行われています。

受刑者

「一日でも早い社会復帰がみんなの目的。選手も応援も一緒になって一丸となってやっていくことに意味があると思う」

刑務官

「これを通じて残りの受刑生活もしくは社会復帰にむけて前向きに取り組んでいってもらえたらと思う」

自分自身を客観的にとらえる“新たな手法”導入

薬物事犯の受刑者

「これで溶けていく、だんだんと覚せい剤が。5〜6回くらい引いていると最後までぷしゅーっと入る」

集まったのは薬物関連の罪を犯した4人の受刑者。薬物の依存から抜け出すための指導に取り入れるのは「オープンダイアローグ」という手法です。

フィンランドの精神科病院で始まったもので指導者と受刑者のほかにやりとりには加わらない聞き役を設けます。どういう時に薬物を使っていたかを振り返ると「1人の時に」「自宅で」という回答が重なりました。

聞き役の刑務官

「例えば、皆やっている仲間と飲んでいるときもやらないのか?虫が湧くということが起きないのかと疑問に思った」

聞き役は感想や疑問を述べるにとどまりやりとりには参加しません。第3者の立場である聞き役の意見から受刑者は自分自身を客観的にとらえることができます。

受刑者

「薬物を使用しない担当さんたちが自分らに思う疑問というのを聞いて、薬物を使用しない人にはわからないようなこともあると思いました。」

刑務官

「社会復帰後の再犯防止というところに受刑者と職員共に向かって歩いていくことが1番重要だと思います。そこに向かって職員も受刑者も最大限の努力をすることが必要だと感じています」

受刑者が出所後に再び罪を犯さないために。そして、新たな被害者を生まないために。改正刑法の施行を前に刑事施設の在り方が今変わり始めています。