サッカーや野球などのスポーツの試合結果にお金を賭ける「スポーツ賭博」に深く携わってきたというツヴィ・モウショヴィッツ氏が、スポーツ賭博の合法化は大きな間違いであり、社会に想像以上に悪影響を及ぼすと解説しています。

The Online Sports Gambling Experiment Has Failed

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スポーツ賭博が人々の経済面にどのような影響をもたらすか研究した調査はいくつかあります。アメリカでは2018年に最高裁判所が「州がスポーツ賭博を禁止することはできない」という判決を下したことで、それ以来38州がスポーツ賭博の合法化に踏み切っています。スポーツ賭博が合法化してから5年間で消費者の財務状況がどのようなに変化したのかを調査したデータによると、スポーツ賭博を行う人々は急増しており、2018年に起こったスポーツ賭博市場は2023年初頭には1兆ドル(約150兆円)規模にまで拡大しています。

以下のグラフは「Handle」がスポーツ賭博に賭けられた金額、「Number of Legalized States(スポーツ賭博が合法化された州)」、右の縦軸が横軸が時間軸です。



700万人の消費者信用データセットを分析し、オンライン賭博が消費者の経済面にどのような影響を与えるかを調査した論文によると、あらゆる種類のギャンブルが合法化されている州では、平均信用スコアが4年で0.3%低下するそうです。特にオンライン賭博のみが合法化されている州の場合、平均信用スコアは4年で1%も低下していました。他にも、オンライン賭博が認められている州では、3〜4年後に破産申請する可能性が25〜30%増加することや、未払い債務の回収率が約8%増加することも明らかになっています。さらに、オンライン賭博が合法化されている州では特に低所得な若い男性が破産率が高く、無担保ローンの利用が多く、クレジットカードの滞納率も高く、経済的苦境に陥りやすいことも指摘されました。

オンライン賭博はギャンブラーの経済状況を悪化させる、特に低所得の若い男性で顕著 - GIGAZINE



さらに、モウショヴィッツ氏はスポーツ賭博が脆弱な世帯に与える影響について調査した論文にも注目しています。この論文では23万世帯以上の消費者取引データを分析し、クレジットカード残高、クレジットカード負債、当座貸越などの金融安定性の尺度を比較しています。

分析の結果、スポーツ賭博が合法化されると消費者はギャンブルや消費の減少を犠牲にすることなく、スポーツ賭博を行う数が大幅に増加することが判明しました。つまり、ギャンブラーはそれまで行ってきたギャンブルの代わりにスポーツ賭博を行うわけではなく、従来のギャンブルを行いながらさらにスポーツ賭博にも手を出すようになるそうです。株式投資の代わりにスポーツ賭博を行うことも明らかになっており、スポーツ賭博で1ドル(約150円)を賭けると株式投資が約2ドル(約300円)減少することも明らかになっています。

モウショヴィッツ氏は「もしもこれが完全に現実だとしたら、それはとんでもないことです。純家計投資化はスポーツ賭博の合法化により14%も減少していることになります。これはあまりにも大きすぎる影響であり、これほど大きな影響が出ているとは考えたくありません」「スポーツ賭博が消費者が楽しむための通常の消費財であれば、これほど大きな影響は出ないでしょう。消費の配分を変えるどころか貯蓄を大幅に減らし、従来のギャンブルを減らすことにもつながらないということは、消費者が明らかに合理的にスポーツ賭博に反応することができておらず、自分が行っている選択を正しく理解していないということを意味します」と語りました。

さらに、スポーツ賭博の合法化により家庭内暴力(DV)が増加するという結果も明らかになっています。過去の研究では、NFLのホームチームが逆転負けすると男性がパートナーに暴力を振るう可能性が10%増加することがわかっていましたが、この影響はスポーツ賭博が合法である州だとさらに大きくなります。この数字に基づくと、アメリカでは毎年1000万人がDV被害に遭っているということになります。

スポーツ賭博の合法化は低所得層に悪影響を及ぼしDVの増加も引き起こす「大きな誤り」だったという指摘 - GIGAZINE



なお、同調査では調査に参加した人のスポーツ賭博への参加率は39%でした。別の2023年に実施された調査では、これまで1度でもスポーツ賭博を行ったことがあると回答した人の割合は34%だったそうです。

モウショヴィッツ氏はスポーツ賭博の参加率がかなり高くなっており、DVがもたらす影響は非常に大きくなっていると指摘し、「この調査データはスポーツ賭博をする人々が合理的で賢明な消費決定を下すことができていないことを示す大きな指標でもあります」と語りました。

加えて、スポーツ賭博製品がひどく略奪的なものである点もモウショヴィッツ氏は問題視しています。特に、スポーツ賭博におけるオッズについて、モウショヴィッツ氏は「オッズの幅広さには吐き気がします」「スポーツ賭博におけるオッズの計算は狂っており、勝利予想確率からかけ離れており意味を成していません」と批判しています。また、テキストやメール、アプリ通知などさまざまなアプローチでユーザーに無料のベットプロモーションなどを行うスポーツ賭博サービスの略奪的な戦略にもモウショヴィッツ氏は苦言を呈しました。

なお、プロのスポーツ賭博師はこういったスポーツ賭博の略奪的な習性を利用し、毎日スポーツ賭博サービスのアカウントにログインしギャンブル中毒者のふりをするなどして、サービスからベットプロモーションやボーナスマネーなどを引き出しているそうです。

こうした現状を踏まえ、モウショヴィッツ氏は「合法化されたオンラインスポーツ賭博は終わらせるべき」と主張。合法的な賭けを行うには「特定の場所に足を運ぶ必要がある」や「人間とやり取りする必要がある」といった、コストやリスクを負う必要がある行為にすることで、賭博で苦しむ人々を減らすことができると主張しました。さらに、「最低限、スポーツ賭博を悪名高いものとしている広告やダークパターンを止めさせる必要があります。アメリカ政府はできる限りのことをすべきです。州はスポーツ賭博が自分たちに何の利益ももたらしていないことを認識し、この金儲けに抵抗するか、取り消すかすべきです」と語っています。

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