ベンチ前で中山(手前)を指導する川相コーチ=10月21日

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 巨人は4年ぶりにリーグ優勝を遂げた。CSファイナルSではDeNAに敗れたが、常勝軍団の再建を予感させた1年。強固な投手陣を中心にした守り勝つ野球を展開した中、川相昌弘内野守備コーチ(60)の存在が阿部慎之助監督(45)の背中を押した。よみがえった超積極野球。分岐点になった“魔法の言葉”と、常勝チームを知る職人コーチの献身が勝敗を分けた。

 リーグ優勝を遂げたが、日本一にはあと一歩届かなかった。シーズン後の調整期間の難しさから、失った流れと止められなかった相手の気勢。阿部監督は「(優勝の)何十倍も負けた悔しさがある。ただ、これが現実」と受け止めた。短期決戦に課題を残したが、143試合で頂点に立ったのは事実。敗戦の中で収穫もある。

 新風で逆風を押し返した。CSファイナルSは悪夢の3連敗スタート。戸郷、菅野、グリフィンと3本柱を立てての敗戦は、数字以上のダメージを感じさせた。リーグ優勝した14年は阪神に4連敗で敗退。悪夢再びか…。試合前練習からどこか暗いムードが漂った10月19日、阿部監督に川相内野守備コーチが歩み寄った。

 「短期決戦なんだからもう、どんどん選手も代えていきましょう」

 ハッとした。知らず知らずのうちに受け身に回っていた。六回、ここまで1安打1失点と好投の先発・井上に代打起用。「後の投手を信頼して攻撃に転じる」と迷いなく継投を決めた。小刻みな継投で攻め、代打、代走と次々にカードを切った。エンドランにセーフティースクイズ、重盗と阿部野球を凝縮させ、シーズン143試合を制した本来の姿で勝ちきった。

 「失敗を恐れずどんどん動いていくぞ、と。川相さんから助言をいただいてね。なかなか動けなかったけど、もうバンバン代えていこうとね」

 「新風」を掲げた昨秋の就任当初、積極野球を方針に2月から徹底した多様な作戦。流れを変えたのが“魔法の言葉”なら、連勝を呼んだのも川相コーチの献身性だ。いまや名物になったのが、ベンチ前での川相塾。門脇や中山らがミニグラブを手に、文字通り膝を突き合わせての個別ノック。名手の極意を伝えた。

 20日の第5戦。1点リードの七、八回に門脇、増田大の好守で失点を防いだ。阿部監督も「あの二つで勝ったようなものだ」と絶賛したビッグプレー。チーム58失策はリーグ最少。9月には腰痛で足がシビれ、歩行もままならなかった。阿部監督は感謝を言葉にする。「満身創痍(そうい)で毎日しつこいぐらいやってくれた。しつこいな、すごいなと。もう本当にその成果だと思う」。指揮官は一流と二流の差を「継続力だ」と言う。

 「俺がよく言うけど、やっぱりそれが一番できないよ、今は。ああいう人がいたからこそだね」

 地道な基礎練習の反復。成功に近道がないことを、痛む体にむち打って伝えた。そんな姿を知るからこそリーグ優勝決定時の涙に、岡本和が「川相さんを見たら、もらい泣きしてしまった」と目を真っ赤にした。視線の先にあった2人の姿に丸も「ウルッとしちゃった」と、あふれる感情をこらえきれなかった。短期決戦の流れを読んだ勝負眼に、鉄壁の守備力をつくり上げた我慢の指導。来季は2軍野手総合コーチに肩書を変え、若手育成に主眼を置いて戦力の底上げを図る。リーグ優勝の自信、CS敗退の悔しさを共有し、常勝軍団を築いていく。(デイリースポーツ・田中政行)