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迫る米大統領選。世論調査ではZ世代女性の約7割がハリス氏支持の一方、男性では約6割がトランプ氏支持でした。背景には、社会に居場所がないと感じる男性たちによるネット上のコミュニティ「マノバース」の存在が…。
アメリカ政治外交を専門とする三牧聖子准教授に、大統領選をめぐる“男女差”に注目して話をききました。(10月31日収録)

■“マノバース”で広がるトランプ氏支持…Z世代男性の約6割に

国際部 飯塚真代記者:
アメリカ大統領選挙をジェンダーの観点から見て、どういうところが注目ポイントになりそうですか?

同志社大学大学院 三牧聖子准教授:
Z世代女性は7割近くハリス氏支持なんですが、男性になると6割近くがトランプ氏支持ということで、“若い層ほどリベラルで多様性を大事にしてハリス氏支持”というわけではないのが今回の選挙の特徴の1つになっています。

飯塚:一般的に若い人が民主党寄りとされていましたが、世論調査で見てみると男性がかなりトランプ支持に動いていると。

三牧:少し前までは、若者がどんどん多様でリベラルになって、民主党の黄金期が来るんじゃないかとも言われていましたが、かなり違う選挙戦になっています。

アメリカは女性の方が大学の進学率が高いなど、女性やマイノリティがだんだん社会に進出してきていて、男性たちは“自分たち男性の居場所がなくなっている”と感じている。そうした男性層に訴えかけるようなメッセージをトランプ氏も発してきたんですね。Xとか、Facebookとか、Instagramとか、みんなが多く使っているメディアというよりはもう少しコアな、Z世代男性に人気のPodcastやTikTokerに戦略的に働きかけています。

飯塚:SNS上でそうした動きになっている背景はありますか?

三牧:トランプ氏は非常に分析していて、例えばハリス氏を支持しているような、多様なバックグラウンドの女性たちに働きかけても全く効果がないとわかっています。そのため、かなり特化した視聴者、「マノバース」という、「マン=男性」と「ユニバース=宇宙」を足した、SNS上の男性コミュニティに働きかけてきました。

例えば、若い世代のPodcastのインフルエンサーを私邸に招いて、自家用車や飛行機に乗せて、そこで話していることを配信します。みんなが見るところで口走ったら女性蔑視的とか、マイノリティー蔑視と言われかねないちょっと踏み越えた発言も、限られた聴衆との間ではうけて、盤石のトランプ氏支持を作り出してきました。

飯塚:マノバースは実際どれほどの影響力がありますか?

三牧:ケーブルテレビの討論はみんな見ますが、これでどちらの候補にするか決める人は10%台かそれ以下と言われています。時間も限られていますし、見ている人が多様なので、当たり障りのないことしか言えないところがありますよね。対して、ターゲットを絞ったPodcastは人となりが見え、再生回数が1000万回を超えるものもあるので、結構無視できない拡散力があります。

■ハリス氏が獲得できない黒人男性票

飯塚:最近黒人男性の中でハリス支持が伸び悩んでいるという報道も出てきています。

三牧:バラク・オバマ元大統領がハリス氏のキャンペーンに動いています。黒人男性の票が伸び悩んでいるところに駆けつけ、「あなたたちは黒人でありながら、黒人女性大統領見たくないのではと疑ってしまう」「黒人男性として、黒人女性のハリス氏を後押ししよう」というふうに訴えていたんですが、その訴えかけは逆効果だったのではとも言われています。

黒人男性がハリス氏をなかなか支持できない背景には、黒人女性に対するまなざしもあるかと思いますが、不法移民問題、経済対策に関して、この4年間のバイデン政権を見て、「やっぱりトランプ氏に託したい」という人もいるので、民主党ももう少し、黒人男性がなぜ離れているのかについての分析やメッセージングが必要だったと思います。

飯塚:トランプ氏はそうしたことがうまいですよね。

三牧:「数々の裁判を抱えて、司法を武器化されて犠牲者になっている」「そうした警察や司法によって痛めつけられてきた黒人の気持ちがわかる」と言うのは、メッセージ自体の妥当性はさておき、心に刺さるところはあるようです。

■“白”を着ないハリス氏の狙い…“ガラスの天井”「みんなに気付かれたくない」?

飯塚:“男らしさ”みたいなものを求めているところもあるんですか?

三牧:おっしゃる通りですね。今、アメリカを取り巻く環境を見ると、外ではウクライナ戦争に加えて、パレスチナ自治区のガザでイスラエルの軍事行動と、国外の戦争に軍事支援等の形で関係しています。国内で見れば歴史的な数の不法移民がやってきて、若い層のみならず、アメリカ全体で自分たちの暮らしをどう守るかと内向きになっているところがあります。そうした中でトランプ氏のような、“男らしさ”を全面に打ち出した強いリーダー像に対する憧れや頼りになるという感覚が生まれています。

また、「女性に国家安全保障がちゃんと担えるのか」という偏見もあり、ハリス氏もタフさをかなり出していかなければいけません。9月の討論会では、独裁者プーチンなどに融和的なトランプ氏に対して「私は融和せず、独裁者とも決然と対峙していきます」と、ハリス氏の方がむしろタカ派で強硬なことを言っています。

飯塚:ハリス氏は民主党大会の時に女性参政権の象徴である「白いスーツ」を着てくるかなと思ったら、いつもの紺のスーツでした。

三牧:2016年にトランプ氏と戦って敗北したヒラリー・クリントン氏は重要な局面では白を着用していました。そんなヒラリー氏の選挙スローガンは「I'm with her」。「私は彼女とともにある」と。「女性初の大統領の選出を女性達は後押ししてください」という選挙戦略をとりましたが、実際、白人女性はトランプ氏の方に票を入れていたという結果でした。

ハリス氏は白ではなく、紺のスーツを選んでいることから、メッセージとしてあまりジェンダーや人種を前面に押し出してない。今回、ハリス氏が大統領になれば“ガラスの天井”を破ったということになります。ただ、人種、ジェンダーについては封印して選挙戦に挑んでいますので、あまり“ガラスの天井”があるよということをみんなに気付かれたくないのでしょう。そこにこの問題の根深さがあり、まさにその状態こそ“ガラスの天井”と呼ばれるような状態かもしれないですよね。

■女性や子どもの犠牲広がる中東情勢──“タフさ”を示すか?弱者に寄り添うか?

飯塚:イスラエルによる攻撃で、ガザ地区で被害にあっている人たちの多くが子どもや女性という弱い立場にある人たちです。ハリス氏は寄り添う姿勢を示していますが、結局はイスラエルへの武器支援などの基本姿勢は変わらない。そういったところはどう評価されていますか?

三牧:今ガザでは犠牲者の数が多い中で、女性や子どもが7割ほどということで、やはり初の女性大統領として、こうした弱い者を守るというスタンスを本当はもっと支持者も期待していると思うんですね。

アメリカは非常に親イスラエル世論が強い社会ではあるんですが、民主党支持者に限ると、パレスチナ連帯は若い世代から強まっていて、ハリス氏にもう少しパレスチナの人たちの命を守る政策をとって欲しいと思っています。より直接的には、「イスラエルに武器弾薬を送るのを止めるべき」という意見は夏の数字だと7割くらいになっているんです。「口だけのバイデン政権の政策とは違い、もっとガザに寄り添う」と言いつつ、政策が全然変わってないことに幻滅している市民も少なくありません。

ここでもタフさを打ち出すのか、それとも共感的に弱者に寄り添う姿勢を示すのか。ハリス氏はレトリックでは共感を示しつつもタフな政策を続けてきました。選挙戦で最終的にどういう結果を招くのかは注目です。

飯塚:今激戦州とされる7州の世論調査ではかなり接戦で、トランプ氏が少し上回ってきているような感じも出てきていますが、果たして女性初の大統領が生まれるのかどうかというところをどう考えていますか?

三牧:4年前のトランプ政権期のマイノリティー差別的な政策や民主主義の危機を思い出して、色々不満はあるけれどハリス氏に入れるのか?この4年間で不法移民問題やインフレ問題を民主党政権が解決できなかった上、ガザの問題に関してはほとんど共和党と変わらないスタンスだったことで、もう民主党に見切りをつけて、トランプ氏に託すのか?今、アラブコミュニティにしても若者にしても、どうしようという揺らぎの中にいる人は少なくないと思いますね。

■Talk Gender〜もっと話そう、ジェンダーのこと

日テレ報道局ジェンダー班のメンバーが、ジェンダーに関するニュースを起点に記者やゲストとあれこれ話すPodcastプログラム。MCは、報道一筋35年以上、子育てや健康を専門とする庭野めぐみ解説委員と、カルチャーニュースやnews zeroを担当し、ゲイを公表して働く白川大介プロデューサー。 
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