気管支拡張症

写真拡大

監修医師:
居倉 宏樹(医師)

浜松医科大学卒業。初期研修を終了後に呼吸器内科を専攻し関東の急性期病院で臨床経験を積み上げる。現在は地域の2次救急指定総合病院で呼吸器専門医、総合内科専門医・指導医として勤務。感染症や気管支喘息、COPD、睡眠時無呼吸症候群をはじめとする呼吸器疾患全般を専門としながら一般内科疾患の診療に取り組み、正しい医療に関する発信にも力を入れる。日本呼吸器学会 呼吸器専門医、日本内科学会認定内科医、日本内科学会 総合内科専門医・指導医、肺がんCT検診認定医師。

気管支拡張症の概要

気管支拡張症とは

気管支拡張症は、気管支が拡張してそのまま戻らない病気です。慢性的に咳と粘ちゅうな痰があり、増悪を繰り返し少しずつ病状が進行してしまいます。慢性下気道感染症に分類されます。
炎症の持続により解剖学的に気管支が異常に拡張し 、咳と痰だけでなく倦怠感、 胸部不快感、喀血、体重減少などが慢性的な症状として現れます。拡張した気管支は元に戻りません。
ひとつの疾患ではなく、 さまざまな疾患や病態によって引き起こされる症候群です。

気管支拡張症の病態

気管支拡張症の病態として、古くから「悪循環(vicious cycle)モデル」が提唱されています。
慢性感染で好中球による炎症がおこり、気道の壁が破壊され、気道粘膜にある線毛の機能が損なわれ、気道の病原性微生物や有害物質のクリアランスが低下して気管支が破壊され拡張、慢性感染がさらに悪化する、という悪循環を繰り返し気管支拡張症の病態が進行するという説です。

しかし慢性感染を抑制するための抗菌薬治療だけでは気管支拡張症の病態が進行するのを食い止めることができないという治療経験より、新しく「悪性渦巻 (vicious vortex) モデル」が提唱されました。
悪性渦巻モデルでは、悪循環モデルの4つの要因(慢性感染,好中球性炎症,粘液線毛クリアランスの低下,気道壁の傷害)それぞれが相互に影響し合うことにより気管支拡張症の病態が進行するとする説です。
ひとつの要因だけにアプローチしても治療が奏功しないことが示されています。

病態が整理され治療に応用されてきていますが、気道の拡張がおこるメカニズムは詳細に解明されておらず、いまだ治療の難しい病気です。

気管支拡張症の原因

table {width: 100%;border-collapse: collapse;}th, td {border: 1px solid black;padding: 10px;text-align: left;width: 33%; /* 全ての列の幅を均等にする */}

眼瞼皮膚炎前部眼瞼炎後部眼瞼炎

感染性眼瞼皮膚炎

ウイルス感染(単純ヘルペス、伝染性軟属腫ウイルス)

細菌感染(ブドウ球菌)

眼瞼縁炎感染性後部眼瞼炎

麦粒腫(急性化膿性炎症)

霰粒腫(慢性炎症により起こる肉芽腫性炎症)

非感染性眼瞼皮膚炎

接触性皮膚炎

アトピー性皮膚炎

眼角眼瞼炎非感染性後部眼瞼炎

イボーム腺炎

マイボーム腺機能不全

日本医科大学医学会雑誌 2018; 14(2)齋藤好信 著より引用

気管支拡張症の原因は、原因不明の特発性のほか、感染後、免疫不全症、気管支壁や線毛の異常、膠原病などの炎症性疾患、COPDなどの繊維症などが挙げられます。
このうち特発性が 約1/2を占めています。
原因として特に頻度が高いのは特発性と感染後の2次性変化ですが、他国と比べ日本で多いとされるのは、びまん性汎細気管支炎を含めた副鼻腔気管支症候群です。

感染後に発症する気管支拡張症

気管支拡張症のうち、原因不明の特発性を除くと、抗酸菌感染 や小児期の肺炎などによる感染後の気管支拡張症が最も多いです。結核治療後の患者の35-86% に胸部CTで気管支拡張を認めたという報告があります。
一方、日本では非結核性抗酸菌感染症(nontuberculous mycobacteria : NTM)と非嚢胞性線維症性気管支拡張症(non-cystic fibrosis bronchiectasis : NCFB)の合併が多いとされています。

炎症性疾患に合併する気管支拡張症

関節リウマチ(rheumatoid arthritis;RA)などの 膠原病、炎症性腸疾患などの炎症性疾患に気管支拡張を合併することがあります。
中でも気管支拡張症がよく見られる膠原病は RA と シェーグレン症候群です。

気管支拡張症の前兆や初期症状について

気管支拡張症は、症状の安定している時期と急性増悪の時期を繰り返す疾患です。
増悪は死亡率の上昇、肺機能障害、生活の質の悪化と関連しています。
また、増悪をより頻繁に繰り返せば繰り返すほど、増悪時の症状が重症であればあるほど、その人の気管支拡張症の治療が難しいという指標になります。
したがって、増悪を繰り返さない初期の段階で効果的な治療を開始し増悪を避けることが必要です。

気管支拡張症の初期症状は多様です。
典型的な症状としては慢性の咳嗽や毎日の痰などがあり、疲労感があったり、聴診で肺雑音(coarse cracklesやsquawk)が認められたりする人もいます。

不安な症状がある場合は呼吸器科、循環器科などを受診しましょう。

気管支拡張症の検査・診断

慢性的に咳や喀痰が出ていて、それが若年、非喫煙者で認められる場合は気管支拡張症の可能性を考えます。
喀痰培養検査は非常に重要であり、NTM症やその他一般細菌の検出を確認することは今後の治療にも関わります。

気管支拡張症の画像診断

画像診断のポイントは以下です。

気管支壁の肥厚

気管支径減少の消失

随伴する血管径よりも気管支径が増大(silent ring sign)

胸膜下1cm以内で気管支がみられる

粘液が充満している(mucoid impaction)

気管支拡張症の画像診断では、胸部 CTで気管支の内径と並走する肺動脈径の比(bronchoarterial ratio)が 1 を超えれば気管支拡張があると判断します。この値の正常値は0.7程度です。
気管支が高度に拡張し、囊胞のような形になってしまう場合もあります。

ほかに気管支の形態学的な異常を認めて診断に至る場合もあります。
例えば、通常気管支は末梢に向かうにしたがい細くなるはずですが、それが欠落していたり、通常胸膜直下から1cm以内の末梢気管支は画像で描出できないはずですが、それを認めると診断確定です。

合併症と重症度に対応した検査・診断

ただし、画像だけでなく背景疾患や合併症に留意することが必要です。
例えば幼少期より慢性の気道症状がある場合、先天性あるいは遺伝性疾患の可能性に留意します。
先天性疾患が疑われる際には遺伝子検査が必要になる場合があります。
また、免疫不全症が背景に疑われる場合には血液検査で免疫グロブリンなどの測定をします。

また、重症度を評価するためには呼吸機能検査が有用です。進行とともに閉塞性換気障害、混合性換気障害を認めるようになります。
また、慢性気道感染症に対して、喀痰検査で病原菌を検出することも重要です。
気管支拡張症の初期における持続感染菌はH.influenzae(インフルエンザ菌)やS.pneumoniae(肺炎球菌)が多く、気道破壊が進むとP.aeruginosa(緑膿菌)が検出されやすくなります。
緑膿菌の検出は予後不良と考えられ、この点を意識して喀痰検査を行います。

気管支拡張症の治療

治療の目標は、①急性悪化 (acute exacerbation:AE)の頻度を減らす、 ②咳,痰などの症状を軽減し患者のQOLを改善する、③疾患(特に閉塞性肺障害)の進行を食い止めるの3つです。
ただし、原因疾患がある場合はその治療も優先的に行います。

慢性期には、上記の②である症状の軽減のため、痰を出すための理学療法(体位 ドレナージ、様々な呼吸法、咳嗽など)を行います。

ほかに、エリスロマイシンやクラリスロマイシンによるマクロライド療法がびまん性汎細気管支炎の予後を大きく改善し、他の気管支拡張症へも応用されることもあります。
マクロライド療法により、気道粘膜の過剰分泌の抑制、好中球性炎症の抑制、気道上皮の線毛運動亢進作用、緑膿菌由来の毒素やバイオフィルムの抑制などの効果があります。
注意点としては、マクロライド薬の長期間投与は急性増悪や入院を有意に減らすと報告がある一方で、耐性菌の出現も増えます。
急性増悪を繰り返す場合には考慮されますが、安易な長期間投与は避けるべきと考えられます。
また、マクロライド薬による有害事象として消化器症状、心電図のQT延長(特にAZM)などがあります。
増悪時には、インフルエンザ菌、緑膿菌などに感染している場合が多く、その菌に対する抗菌薬投与が必要です。

気管支拡張症になりやすい人・予防の方法

気管支拡張症は年齢が上がれば上がるほど有病率が上昇し、女性が 57~79% と女性優位 の疾患です。
予後不良となる危険因子として

高齢

呼吸機能検査で%FEV1<50%の気流制限がある

CTで複数の肺葉に気管支拡張像を認める

緑膿菌を検出する

低体重

頻回の増悪

などが挙げられます。

参考文献

日本呼吸器学会呼吸器感染症に関するガイドライン作成委員会 編:日本呼吸器学会「呼吸器感染症に関するガイドライン」成人気道感染症診療の基本的考え方.日本呼吸器学会,東京,2003

Bronchiectasis-A Clinical Review( Review Article) 著者 Anne E. O’Donnel, M.D., Georgetown University Medical Center, Division of Pulmonary, Critical Care, and Sleep Medicine, Washington, DC.
Eur Respir Rev. 2024 Jul; 33(173):240085

日本内科学会雑誌 111 巻 9 号気管支拡張症の病態と治療菊地利明著

日本医科大学医学会雑誌 2018; 14(2)気管支拡張症齋藤好信 著

呼吸臨床2017年第1巻3号(12月号)気管支拡張症revisited -今,欧米を中心に研究の大きなうねり 第2部:診断,治療 徳田均