韓国文化で知った「腐敗社会」=正恩氏、情報拡散に危機感―元北朝鮮公安関係者が証言
【ソウル時事】北朝鮮が平和統一路線の放棄を表明したことに続き、韓国につながる陸路を爆破するなど、物理的にも南北を遮断する動きを見せている。
背景として、金正恩朝鮮労働党総書記が、韓国文化の流入による体制の動揺に危機感を持っていることがあるとされる。韓国で暮らす北朝鮮の元公安関係者の男性は4日までに時事通信の取材に対し、自らが韓国文化に触れたことで「北朝鮮が腐敗した社会だと気付き脱北を決意した」と証言した。
◇韓国番組で知った「祖国」
男性は西部・南浦市の公安機関幹部だった鄭義聖さん(仮名)。2010年ごろに北朝鮮から韓国に渡った。その後、北朝鮮に関する研究で博士号を取得し、現在は国際関係の専門家として活動している。
鄭さんが北朝鮮の体制に疑問を抱き始めたのは、韓国のテレビ番組を見たことがきっかけ。北朝鮮の実情を分析したドキュメンタリー番組は、それまで知らなかった「祖国」の姿を映し出していた。鄭さんは「経済難に見舞われても、指導者は住民を顧みず、自分と家族のためだけに行動していると分かった」と話す。
韓国の番組を初めて見たのは、「苦難の行軍」と呼ばれる危機的な食料難が起きていた1997年ごろ。韓国と北朝鮮では地上波の放送方式が本来異なるが、この時期から韓国が北朝鮮で受信できる方式で北朝鮮向けに放送するようになったという。鄭さんは韓国文化を取り締まる側だったが、こっそり視聴していた。故金正日総書記の側近だった黄長※(※火ヘンに華)元書記が97年に韓国に亡命したことは、韓国の番組を通じて知った。
2000年の南北首脳会談を経て、融和ムードの下で北朝鮮への韓国文化の浸透が進んだ。鄭さんによると、正日氏は03年に住民が韓国の番組を見ていることを知り、統制強化の指示を出した。それでも「韓流」の勢いは止まらなかった。当時は韓国の歌を歌って捕まった人も「『延辺(中国の朝鮮族自治州)の歌だと思っていた』と言えば無罪で釈放されていた」といい、取り締まる側の警戒心は薄かったと明かす。
◇住民の反発
しかし、北朝鮮は近年、韓国ドラマの視聴を厳しく禁じ、最高で死刑の適用を定めた「反動思想文化排撃法」を20年に制定。韓流の排除に本腰を入れるようになった。鄭さんは、未成年者も処罰の対象となるため「あまりに衝撃的で住民の反発が起きている」と説明した。
韓国側からの情報発信では、ビラや拡声器による宣伝放送に対しても、北朝鮮は神経をとがらせている。鄭さんは「今の住民はもう忠誠心がない。(北朝鮮を批判する情報が広がり)体制崩壊につながる恐れがあるから正恩氏は敏感に反応している」と語った。