就活市場では"内定時期"の前倒しが更に進んでいるという

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 ホテル業界大手の星野リゾートが、「大学1・2年生もエントリー可能な通年採用」を開始し、波紋を呼んでいる。“学生の青田買い”などの声も上がったが、採用担当者は「それは意図しない伝わり方」だと話す。星野リゾートの「本当の狙い」とは――?

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衝撃を与えた「大学1年生にも内定」のニュース

 星野リゾートの打ち出した“新方針”は、10月16日に日経新聞が<星野リゾート、大学1年生にも内定 早期採用で人材確保>と報じたことで、広く知られるようになった。

 10月から新卒採用の方針を一新し、これまで選考の対象が大学4年生のみだったところを、一気に1〜4年生に拡大。選考時期も年間通して選択できるように改めた。

就活市場では"内定時期"の前倒しが更に進んでいるという

 めでたく採用となった場合、半年以内に入社の意志を伝えれば「内定」となる。応募時点での「卒業予定日」から1年以内であれば、入社時期は4・6・10・2月の4つから選ぶことが可能。仮に採用とならなかった場合も、半年後にはエントリー資格が“復活”する。志望度の高い学生にとっては、期間を縛られることなく、じっくり腰を据えて就職活動に向き合うことができそうだ。

 とはいえ報道後、SNSでは

「これは究極の青田買いだ……」
「離職率が高く人手不足に陥っているのでは」
就活時期の前倒しで学業が疎かになってしまうのでは」

 といった声も目立った。当の星野リゾートは、この反響をどう考えているのか。

形骸化する“就活ルール”への危惧

「方針を転換するにあたり大きな契機となったのは、ここ1〜2年で新卒採用市場において、事実上の“内定時期”が大きく前倒しされたという事情があります」

 と話すのは、星野リゾートの人事グループで採用を担当する責任者だ。

“青田買い”と言われる背景には、今年4月に政府が日本経済団体連合会(経団連)に対して行った、2025年卒の「就職・採用活動日程ルール」がある。採用選考を「卒業・修了年度の6月1日以降」、内定は同じく「10月1日以降」とするよう求めたものだ。ところが、この「要請」はほとんど効力を発揮していないと、担当者は考えている。

「少なくない数の学生が2・3年生の頃に、企業から将来の内定の確約、いわゆる“内々定”を受けているのが現状です」(採用担当者)

 もともと“紳士協定”的で大雑把なルールではあったが、それでも2024年卒や2025年卒予定の学生で、2〜3年時に事実上の内定を得た、というケースが急増しているのだという。背景には、2022年のインターンシップのルール変更の影響も。インターンシップで得た学生の情報を企業が採用に利用できるようになったことで、早期に学生に“内々定”を打診している実態があるのだという。「採用直結型」インターンと呼ばれるものだ。

 星野リゾートは、こうした一方的な就活の在り方への課題意識から、学生主体の採用活動へシフトしたという。

「こうした仕組みを知っていたか否かで、就活に割く時間や条件が変わってきてしまう。新卒一括採用という慣例も含め、その時々のルールに学生が振り回される今の就活の在り方を、少しずつ変えていければという思いがあり、学生主体で選考スケジュールを決められるようにしました。就活は企業が一方的に学生を“採用する”場所ではなく、学生が本当に自分の入りたい会社か“見極める”対等な機会だと考えています。こうした視点は星野リゾートの掲げる“フラットな組織文化”を体現し維持するためにも大切だと考えています」(同)

「離職率が高い」は本当か

 とはいえ、人手不足が指摘される観光業を営む星野リゾートである。結局のところ、その解消が目的ではないのか。

「日本の観光業の需要は大きく伸びており、この先10年で自動車産業に匹敵する規模にまで成長するという試算もあるそうです。そうした需要拡大に対し、日本全体の少子高齢化の問題が重なって、観光業全体での人手不足の現状は否めません。星野リゾートでも、コロナ禍明けの急速な需要回復で一時的な人手不足はありましたが、今は十分な人員で運営をできている状況です」(採用担当者)

 星野リゾートではグループ全体で例年、700〜800人の新卒を採用しているというが、採用サイトへの登録者はそれをはるかに上回っており、「定員割れ」とは程遠いほど、学生の人気就職先になっているという。

「ホテル業界は相対的に“低賃金”で“休みが取りにくい”と言われがちですが、星野リゾートでは初任給の引き上げや、既存社員の継続的な給与アップを実施しており、2024年度は約8%、2025年度は約5%の給与アップを予定しています。そうした取り組みも評価を頂いているのかも知れません」(同)

 SNSで噂される「離職率の高さ」についてはどうか。

「確かに、飲食業やホテル業を始めとするサービス業は比較的離職率が高く、近年の平均は20%前後と言われています。一方、金融業界等、比較的離職率の低い企業の基準はおおよそ8%程度というのが一般的な見方だそうです。弊社の離職率は後者の基準から大きく外れているわけではありません」(同)

早ければ年内にも“第1号”が

就活時期の前倒しで学業が疎かにならないか」という意見についても聞いてみた。

「早くから就業体験を積みたいと希望する方には、インターンシップやアルバイトの機会を提供していますが、もちろん強制ではありません。入社時期も4月、6月、10月、2月から選ぶことができ、例えば“就職前に色んな国の観光地やホテルを見に行きたい”とこの制度を利用される方も少なくありません」(採用担当者)

 ちなみに、例えば2年生の時に内定を受けたあと、3年生の時に別業界に興味が移り、内定を辞退することは可能なのだろうか。

「内定辞退は可能です。ただ、できればそうならないよう、1・2年生で応募いただいた方については、ご自身の志望や適性と星野リゾートの仕事や価値観が合っているかを、より丁寧に確認していきたいと考えています」(同)

1・2年生からの応募も徐々に増えており、早ければ年内にも1・2年生の内定獲得“第1号”が生まれる可能性もあるそうだ。

 星野リゾートの“意識改革”は就活市場の古い慣習を変える取り組みとなるのだろうか――。

デイリー新潮編集部