オーケー「関西初進出」で見逃される"本当の強敵"
メディアでは「vsライフ」という報じ方が多いが、実際に現地を訪れてみると、"真の強敵"がいることがわかる(筆者撮影)
ディスカウントスーパーのオーケーが関西に進出する。2024年11月26日、大阪府東大阪市の高井田に誕生する予定だ。しかし、ここは半径1キロ圏内に7軒ものスーパーがひしめく激戦区である。
スーパーマーケットの進出はしばしば「戦争」に例えられ、これまでも千葉県の「津田沼戦争」や、東京都の「赤羽戦争」など、数々の戦いが繰り広げられてきたが、高井田をめぐる今の様相は「高井田戦争」と言った状況だ。
今回は現地レポートをお届けしながら、高井田戦争の行く末、そして「オーケーの真の敵」の正体を明らかにしたい。
「vsライフ」と報じられているが…
オーケーにとって、関西進出は悲願と言えるだろう。2021年には関西スーパーマーケットの買収を画策していたが、エイチ・ツー・オー・リテイリングとの競争に敗れ、進出計画は止まったままだった。
【画像19枚】東大阪・高井田に11月にオープンするオーケー。「ライフ」「万代」など、地元に密着するスーパーがしのぎを削るエリアで今、「高井田戦争」が起きようとしている
そんな中、オーケーが出店を決めたのは、スーパー密集地の高井田だ。
近くにあるJR高井田中央駅。これから起こる戦いに備えているようだ(筆者撮影)
オーケーの出店は多くのメディアが報道しているが、筆者が見たところだと、特に「ライフ」との戦いが強調されている。これには、ライフが10月にオーケー襲来に向けてリニューアルオープンしたことが大きい。
ライフ高井田店。王者の風格を漂わせる(筆者撮影)
もちろん、オーケーにとってライフは強いライバルだろう。だが、現地を歩いていると、「こっちのほうが、真の敵じゃないかな?」と思わせられるスーパーがあった。万代(mandai)だ。2024年9月現在、167店舗を展開する、関西人にはおなじみのスーパーだ。
ライフ・オーケーを迎え撃つ万代(筆者撮影)
なぜ、ライフではなく、万代がオーケーの真の敵になりそうなのか。以下、実際に高井田周辺を歩きながら、そのことを説明したい。
それぞれのスーパーに行ってみた
高井田中央駅から駅前の通りを歩くこと数分。工事の音が聞こえてくる。目に入ってきたのは、真っ白い建物。「OK」という、おなじみの看板が確認できる。ここが、オーケーの関西初出店の地だ。大通りから近く、駅からも近いから、電車でも車でも簡単に来ることができる。実際、5階建ての建物の2〜4階は広大な駐車場になる。
徐々に陣営が整えられつつあるオーケー。5階はオーケーの関西事務所を構える。「ここからバチバチいくぜ!」という気合いを感じるのは筆者だけだろうか(筆者撮影)
ちなみにオーケーはこの建物の地下1階に入り、1階は100円ショップのダイソー、5階はオーケーの関西事務所を構える。
工事の様子を横目に見ながら道路を歩いて行くと、大きな四葉のクローバーのマークが目に入る。ライフだ。オーケーから本当に近い。確かにこれは激戦の予感をびんびん感じる。
横の白い建物がオーケー。その200m先にはライフが見える。なお、そこからさらに同じくらいの距離のところに万代がある(筆者撮影)
横の白い建物がオーケー。その200m先にはライフが見える。なお、そこからさらに同じくらいの距離のところに万代がある(筆者撮影)
中に入ってみよう。先ほども書いた通り、ライフは10月にリニューアルオープンしたばかりで、中は非常に綺麗だ。入ってすぐは他のスーパー同様、青果売り場が目に入るが、気付くのは「BIO-RAL」というオーガニック食品のコーナー。
ライフが誇る、オーガニック食品「BIO-RAL」のコーナー。高級スーパー感が漂う(筆者撮影)
これ、ライフのオーガニックスーパーのブランドで東京・大阪に実店舗がある。そこで扱われている商品が売られているのだ。
品質の良さで、中価格帯では圧倒的な強さのライフ
こうした売り場構成からもわかるように、ライフはスーパーマーケットの中でも「中価格帯」のスーパーになっている。実際、売られているものの値段はイオンやその他スーパーと比べるとライフのほうが高い。しかしその分、ライフは売り場の演出や商品の並べ方などが工夫されている印象だ。
売り場には「Healthy」の文字(筆者撮影)
また、高井田店のリニューアルの要点として、「惣菜売り場コーナー」と「冷凍食材コーナー」の拡充が押し出されている。実際、それらのコーナーを見ていると、確かに広い。これは、高井田周辺が大阪都心部のベッドタウンであり、20〜40代のファミリー・単身世帯が多いためである。
ライフの、巨大な冷凍食品コーナー(筆者撮影)
惣菜も充実しているのがライフの強みだ(筆者撮影)
ただ、ライフは全体として食品に注力しているため、ある意味、ライフの特徴が際立つ店舗だとも言えるだろう。
これらの惣菜を見ても、安さを売りにしているというより、素材や品質にこだわっている、という感じ。全体として商品の質や売り場の雰囲気に力を入れ、中価格帯ぐらいの店を目指している。
ピザだってちょっとおしゃれだ。そして、他のスーパーと比べると、少しだけお高めになっている(筆者撮影)
「安さ」が売りの万代
さらに、ライフから200mほど歩くと、関西圏のローカルスーパー「万代」が現れる。平日の午後に訪れたのだが、かなり人が入っていた。入り口を通るといきなり目に入ってくるのはうずたかく積まれた商品の山。その上には「安売り」という張り紙がしてあって、これでもかと言わんばかりに安売りが押し出されている。
庶民派スーパーのイデアのような万代(筆者撮影)
この段階でライフとはまったく違うスーパーだ。店内には安売りやイチオシ商品のアナウンスが流れる。私が訪れたときは「北海道フェア」をやっていて、北海道のいろいろな商品が売られていた。
北海道のうまいもんを集めた「北海道フェア」(筆者撮影)
この感じも含め、「安価なスーパー」という感じである。実際店内をめぐっていると、300円の弁当などもあって、全体的に商品の値段は安い。
万代名物「店内鉄板焼き焼鳥重」(税込322円)。やすい〜(筆者撮影)
チラシには関西弁が多用されていて、おもわず笑ってしまいそうになる。ある種の関西らしい商魂のたくましさがあるというか、東京のスーパーでは良くも悪くもあまり感じられない雰囲気だ。
「何これ!!嘘やん」「冷凍庫に入れとくべき」。万代の店内は、良い意味で商魂のたくましさを感じさせる(筆者撮影)
さて、ここまで見てきたらお分かりいただけるように、高井田周辺にあるスーパーは、「中価格帯のライフ」と「低価格帯の万代」となる。この2つは10年以上にわたって高井田の地にあり(万代が後からできた)、共存している。
ここにオーケーが乗り込む場合、その敵となるのは、万代ではないか?
オーケーの売りは言うまでもなく「安さ」にある。万代の300円弁当と同じ感じで、名物弁当の「299円弁当」もある。特にオーケーでは「競合店対抗値下げ」なんて政策を掲げていて、他店のほうが高い商品があった場合、その価格を他店よりも下げるのだ。そこには「他店よりも安いです」というPOPが掲げられる。ちなみにオーケーのサイトにはこの「競合店対抗値下げ」の仕組みが力説されていて、マジな感じが伝わってくる。
また、「特売日」などを設けず、毎日低価格である「エブリデイ・ロー・プライス(EDLP)」を掲げる。こうした戦略の背景には、仕入れの商品種類を絞り、安く提供する独自の仕組みがある。
建設中のオーケー。2〜4階が駐車場だ。東大阪市から土地を購入しており、売り場面積はオーケーとしてはそこそこの広さになりそうだ(筆者撮影)
現状の万代・ライフにオーケーが割り込む場合、ライフとの共存は可能だが(もちろんさまざまな取り組みが必要であることは言うまでもないが)、万代とは正面衝突になる可能性が高いのだ。
11月にオープンした店の商品に「万代よりも安く〜〜」といったPOPが貼られる日も近いかもしれない。
オーケーvs万代の戦いを予想してみよう
オーケーと万代の戦いはどのようなものになるのだろうか。
先ほども述べた通り、オーケーは「EDLP」を掲げるが、万代はいわゆる典型的なスーパーで「特売日」や「安売りの日」がある。ここで差が付くだろうか?
限定的な安売りが強調される万代(筆者撮影)
ちなみに、同じく「EDLP」で知られるスーパーマーケットのロピアは圧倒的な価格戦略で関西進出後、4年で17店舗を広げるまでになっている。関西圏の顧客は価格に厳しい、とよく言われることだが、やはり低価格を実現し続けるスーパーが強いのかもしれない。
また、オーケーは価格だけでなく、顧客満足度も高い。日本生産性本部が発表しているJCSI 日本版顧客満足度指数 2024年度第1回調査のスーパーマーケット部門でオーケーは堂々の1位を獲得しており、14年連続の1位である。この満足度が関西でも健在ならば、オーケーに軍配が上がるかもしれない。
一方、万代の強みはやはり、これまで関西圏を中心に営業しており、地域の顧客の性質を知っていることだ。また、ダイヤモンド・チェーンストアの取材に対して、ある在阪の新聞記者は「大阪には安売りをする店が多いですが、万代は生鮮食品の鮮度や品揃えなど『低価格+α』の“総合力”があるといえるのではないでしょうか」(ダイヤモンド・チェーンストアオンライン「連載 スーパーマーケットの2020 #9 万代」)と答えている。安さだけではない強みがあるというのだ。
加えて、販売ノウハウも高く、販売力は他店に比べて1.5倍というデータも出ている。徹底して「売りこむ」という、非常に関西圏らしい売り方で、西日本でのシェアを勝ち取っており、オーケーがこの牙城を崩すのは高いハードルになりそうだ。
オーケー、関西のスーパーの勢力図を変えられるか?
ところで、オーケー高井田店のフロア構成を見ていて気付いたことがある。5階が関西事務所になっているのだ。つまり、ここが関西出店の中心地となるわけだ。よくよく考えてみれば、周囲にスーパーがひしめくこの立地、確かに他店の動向を把握するのにもってこいだと言える。
ここがオーケー関西の本拠地に?(筆者撮影)
その意味でも、高井田店そのものが苦戦したとしても、今後、関西の出店数をどのように伸ばすかの戦略を練るには、このうえない立地だとも言えそうだ。
前述したように、かつて津田沼では、百貨店や総合スーパーがしのぎを削り、「津田沼戦争」と呼ばれた。しかし、徹底した「安売り競争」で、その結果として両陣営とも体力が削がれ、駅前が寂れてしまう……という結末となった。
9月末に閉店してしまったイトーヨーカドー津田沼店。「津田沼戦争」の一角を担った(筆者撮影)
では、オーケーvs万代の戦いも同じようになるのか? なかなか予想が難しいところだが、筆者としては「そうはならないのではないか?」と感じる。何もしなくても物が売れた時代はすでに終了し、今は工夫を凝らしたり、企業努力を止めない店だけが残ることができる時代だ。
オーケーも万代も、どちらも安さだけではない、「+α」の魅力を提供しているスーパーであり、周囲の生活者の生活を今まで以上に豊かにしてくれるのではと考えている。
高井田戦争の火蓋は11月26日、切って落とされる。関東企業の関西への進出は、風土の違いや商習慣の違いもあるから一筋縄ではいかないだろうが、良い戦いになることを期待したいものだ。
(谷頭 和希 : チェーンストア研究家・ライター)