「接触はギリギリ免れましたが、あと数センチ違えば大事故になるところでした」

「危ねえ!」と兄が声をあげて相手を一瞥し車を走らせると、相手の車も動き出したという。その車は、小林さんたちの後ろにぴったりとくっつき、あおり運転を始めたそうだ。

「バックミラー越しに、若い男が2人乗っているのが見えました。明らかに怒った表情で、執拗にクラクションを鳴らし、ビタづけ状態で追いかけてきました。兄は冷静さを保とうとしていましたが、焦りの色も見えました」

 小林さん自身も不安で胸が締めつけられる思いだったという。

 しばらく走ると、相手の車はさらに挑発的な行動に出る。小林さんたちの車を追い越し、ゆっくり走ったかと思えば急ブレーキをかけるという、危険な行為を繰り返したのだ。

「この恐怖の時間は、5分ほど続きましたね」

◆“元ヤン”の兄がとった行動とは?

 やがて、大きな駐車場に差し掛かったとき、兄は突然ハンドルを切って車を停めた。「ちょっと待ってろ!」と言い残し、車を降りていく兄。

「私は不安で震えていましたが、兄の後ろ姿は昔のヤンキー時代をほうふつさせるものでした」と小林さん。今では見た目は温厚なパパだが、実は“元ヤン”だった!

 相手の車も停車し、2人の若者が降りてきた。兄は毅然とした態度で彼らに近づき、低い声で話し始める。

「お前ら、何がしたいんだ?」

 相手は兄の迫力に押されて言葉を失っていったのだが、兄は容赦なく続けた。

「こんな危険な真似は命に関わるんだぞ! 分かったか!」

 兄の言葉と態度に、相手の表情が徐々にひきつっていった。最終的に彼らは深々と頭を下げ、謝罪の言葉を口にしたという。

「車に戻ってきた兄は、安堵の表情を浮かべていました」

 そして、「やれやれ、昔の経験が役に立ったよ」と苦笑いする兄。いまだにふとした瞬間、ヤンキーっぽさを感じさせることがあるのだとか。相手は、「兄の見た目よりも、勢いに貫禄負けして謝った」と小林さんは思ったそうだ。

「あの日の出来事は危険で不快でしたが、兄の冷静な対応と態度のおかげで、スカッとした結末を迎えることができました」

 小林さんたちは再び、穏やかな会話を交わしながら実家に向かった。

<取材・文/chimi86>

【chimi86】
2016年よりライター活動を開始。出版社にて書籍コーディネーターなども経験。趣味は読書、ミュージカル、舞台鑑賞、スポーツ観戦、カフェ。