衰えを語り合える関係はいいものだ 白央篤司『はじめての胃もたれ』より

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昔のように食べられないことは、みっともないことなんかじゃない。性別とか関係なく「自分」を大事にしていこう。

フードライターの白央篤司さんが、加齢によって変化する心身をなだめながら、作って食べる日々を綴った手探りエッセイ『はじめての胃もたれ 食とココロの更新記』を、10月29日に刊行しました。

刊行を記念して、本書の一部を試し読みとして公開いたします。30年ぶりに会った高校の同級生たちと、「衰え」を語り合ったという白央さん。読者の皆さんはどんな変化を感じていますか?

 プチ同窓会に参加してきた。場所は新橋の居酒屋、高校の同級生8人と飲み会。卒業以来だから、30年ぶりだな。なんだか気恥ずかしくてしばし黙り合い、はじめて顔を合わせたときのような静けさが妙に楽しい。来年には全員50歳だが体型が大きく変わった奴はおらず、みんな気を付けてるんだなあ……と感じ入る。

「いや、太ったよ。一時は6キロも太ったけどさすがにスーツが入らなくなってきたからスナック菓子をやめて、野菜を食べるようにしてる」

 スナック菓子の代わりに、自分でぬか漬けを作ってつまみにしているらしい。ぬか漬けはあっさりしているようで、量を食べると塩分過多にもなりやすいから気をつけてなと言いそうになったが、久しぶりに会っていきなり小言もなあ……と思い、流してしまった。漬けもの類はごはんにちょっと添えるぐらいならいいけれど、つまみにするとすぐ塩分とりすぎになってしまう。などと言いつつ、私も毎日のようにキムチを食べてしまうのだが……。

「いまのところ健診で異常はないんだけど、将来を考えて血糖値対策を始めてさ。食物繊維をとるといいらしいね。炭水化物は食事の一番最後に食べるようにしている」

「あ、俺もやってる。野菜、たんぱく質、炭水化物の順に食べてるよ、数年前から」

 ベジタブルファーストなんて言葉を聞いたことがあるかもしれない。まず野菜を食べ、次に肉や魚介などのたんぱく質をある程度体に入れてから、ごはんなどの炭水化物を食べるようにすると、血糖値の上がり方が急激にならず、体にやさしい食べ方になるというわけだ。今回の参加者のうち、半分の4名がやっていた。そしてやっぱりうちら世代、健康と食への関心が高まっていることを感じる。

 私なりの簡単なベジタブルファーストの方法を書いておきたい。スーパーに行くと、小分けになった海藻のもずくやめかぶが3パック1セットで売られているが、これを食事のスターターによくしている。つるっと口当たりもよく、食欲の呼び水になってくれるのもいい。日本人が不足しがちな食物繊維の補給アイテムとしてもおすすめ。海藻は海の野菜、ベジタブルと考えて全然OKなのである。夏なら、ところてんを少々のポン酢で食べることも多い。ところてんは甘くして食べる人も多いだろうが、私はサラダ感覚でよく食べる。刻んだトマトとバジルを加えて、少々のオリーブオイルと塩で和えるなんて食べ方も好きだ。なかなかおいしいので、興味がわいたら試してみてほしい。

「野菜が好きになったなあ、味覚変わるよね。家族で月に1回農業体験に行ってるんだけど、採れたて野菜は最高にうまいよ」

「分かる、野菜食べたくなるよね。肉、特に脂身のあるのは食べなくなった。というか、食べられなくなった(笑)」

 おおー、やっぱりみんな同じか。そしてちょっと感無量に。話を聞いているうち、高校からの帰り道で買い食いしたあれこれが思い出されてならなかったのだ。甘じょっぱいたれをたっぷりまとった肉屋さんの焼き鳥。フライドポテト、ビッグマックにモスチキン。バイト代が入ったときは「キッチン南海」のカツやしょうが焼きの盛り合わせ、あるいは「桂花ラーメン」の太肉麺。

 こってりしていたなあ、どれもこれも。そして現在、目の前の卓に並ぶのは出汁巻き玉子にオクラごま和え、ささみ梅焼き、いかとねぎの酢味噌和え。

 あっさり至極。こってり嗜好のあの日から数十年の月日が流れたことを如実に感じさせる品揃えである。そんなことを考えていたら心にカーペンターズが流れ出した。なんとなく、相田みつをの「にんげんだもの」という言葉も思い出されてくる。

「カツ丼とか天丼とか、食べなくなったなあ。いまでも好きっちゃ好きなんだけどね。炭水化物が重くなったね」

「今度接待で天ぷらを食べることになって、気が重いんだよ(笑)」

「分かる。俺、カレーライスが重くなっちゃったよ。市販のカレールーで作ったのを食べて胃が重く感じたとき、年だなあって悲しくなった(笑)」

 悲しいねえなんて言いつつも、この手の話題は盛り上がる。衰えという名の自然現象をさらし合える関係って、いいものだな。個人差はあるけれど、老化は等しく誰にでも訪れる。そこがいい。

 カレーが重くなったというK君に、ハウス食品から出ているカロリーと脂質50パーセントオフの「プライムジャワカレー」が食べやすく、コクもなかなかしっかりあるよ、と伝えたらいたく喜ばれた。そこから「脂っこいものを食べた後にはあの薬がいいぞ」だの「胸やけするときに○○を飲んだら結構効いたよ!」なんて話でさらに盛り上がり、楽しくなってグビグビ飲んで翌朝は二日酔いになるという愚かな展開になってしまったが、悔いはない。

*  *  *

「あなたの胃は、もう昔のあなたの胃ではないのですよ」
そう気づかせてくれたのは、牛カルビだった。

調子にのって食べすぎると胃がもたれる。お腹いっぱいが苦しい。量は変わらないのに、ぜんぜん痩せない……老いを痛感する日々がだんだん増えているはず。

人生の折り返し地点を迎えて、いままでのようにいかないことがどんどん増えていく。でも厚揚げやみょうが、大根おろしみたいに、若い頃にはわからなかったおいしさを理解することだって同じくらいあるはず! いまこそ、自身を見つめ直して「更新」してみませんか?

『はじめての胃もたれ 食とココロの更新記』(白央篤司)は現在、全国の書店、書籍通販サイトで販売中です!

Credit:
文=白央篤司