第50回衆院選は自民、公明の連立与党が議席を大幅に減らし、過半数を割った。2012年に自公が政権復帰して以降、初めての大敗だ。

 自民は派閥の裏金事件に象徴される政治資金問題を解決しようとせず、政治不信を増幅させた。国民の憤怒が選挙を大きく揺るがしたと言えよう。

 対照的に「政治とカネ」を前面に戦った立憲民主党をはじめ、野党の多くは与党への批判票を吸収し、議席を大きく伸ばした。

 国会はこれまでと違い、与野党の勢力が拮抗(きっこう)する。野党を圧倒する議席を持っていた与党が数の力で押し切ることはできない。

 どのような政権になっても、運営が困難さを増すのは必至だ。

■言葉に行動が伴わず

 勝ちに不思議の勝ちあり、負けに不思議の負けなし。平戸藩主、松浦静山(まつらせいざん)の言葉を借りれば、自民は負けるべくして負けた。

 最大の争点は、やはり政治資金問題である。派閥の裏金が発覚してから1年近く、自民は真相を究明する調査を怠った。

 政治資金収支報告書に記載せずに、裏金を公表しなかった議員が「不正使用はない」と説明しても国民が納得するはずはない。

 再発防止策も政治資金規正法の小幅な改正に終わった。事件を起こした当事者であるのに、資金の透明化を拒む。国民の目にはごまかしと映ったに違いない。

 こうした党の体質を変える期待を背に、石破茂氏は新しい党総裁と首相に選ばれたはずだ。

 しかし、首相はぶれた。

 政党が議員に支給する政策活動費について、衆院選で「使う」と言った後、批判が上がると「使わない」と修正した。

 収支報告書に不記載があった裏金議員を非公認としながらも、当選すれば追加公認する考えを選挙前から示した。

 非公認候補が代表を務める党支部には、公認と同額の2千万円を党本部から支給した。原資は国民負担で賄う政党助成金だ。

 一連の対応を振り返ると、首相は裏金事件を甘く見ていたのではないか。それは自民幹部の発言からも伝わってくる。

 折しも国民は物価高に苦しんでいる。世論に誠実に向き合えば、政治家との金銭感覚の差を肌で感じられ、もっと違った対応ができたはずである。

 首相が「もう一度政治への信頼を取り戻す」と力説しても、言葉と行動が一致していないことを国民は看破した。

■野党にも変化求める

 衆院選は政権与党の実績を評価する機会である。就任から日が浅い石破首相は実績がなく、岸田文雄前政権の3年間が問われた。

 国会審議を抜きにした重要政策の決定、財源を後回しにして防衛費増額に走る財政運営などから見えたのは、数の力を過信した政権の緩みだ。何より、裏金の対応は岸田前政権の失態である。

 同じ与党の公明も「同じ穴のむじな」との批判を甘んじて受け止めるべきだ。裏金事件で自民が非公認とした候補を推薦したのは、政治倫理よりも自らの集票を優先したからにほかならない。

 野党はこうした与党の失点に助けられた。立民の野田佳彦代表が「政権交代こそ、最大の政治改革だ」と訴えると共感を得た。

 ただし「政権の選択肢」と位置付けるにはまだ物足りない。政権を取るためには、より優れた政策と実行力が必要だろう。

 立民や他の野党が国民の期待値をさらに高めるのに何が必要か。鍵を握るのは国会対応だ。

 各党は政策の違いがあり、衆院選の協力も限られた。一つの固まりになるのは容易でないものの、協力して与党に対案を提起する機会を増やすことは可能だ。その礎なしに政権構想は描けまい。

 国会が言論の府にふさわしい機能を発揮するため、野党も抵抗一辺倒から脱却すべきだ。

 国民は政局で混乱する国会を望んでいない。政策課題、政治改革ともに与野党で熟議を重ね、国民の信頼を得なくてはならない。