石破茂首相が国民に審判を問う衆院選はきょう、投開票日を迎えた。

 自民、公明両党の連立政権に引き続き国のかじ取りを任せるのか否か、判断は主権者である国民に委ねられた。有権者一人一人が熟慮して1票を投じたい。

 首相は「国民に十分な判断材料を提供する」と言っていたが、この「口約」は守られなかった。所信表明演説と各党代表質問への答弁、党首討論を終えると、政権発足からわずか8日後に衆院を解散した。戦後最短である。

 日本記者クラブなどが主催する党首討論会は時間が限られ、自民の派閥裏金事件や世界平和統一家庭連合(旧統一教会)との関係について突っ込んだやりとりはなかった。

 石破政権の実績評価は困難だ。前回の衆院選から3年続いた岸田文雄前政権の施政にも評価の目を向けたい。

 選挙公約も投票の判断材料になる。どの政党も政治改革や経済政策、社会保障、外交・安全保障、教育などを網羅的に並べ、選挙戦で訴えた。

 その中からほぼ抜け落ちていたのが財政健全化だ。

 金融緩和と機動的な財政出動を進めた第2次安倍晋三政権以降、普通国債残高は増え続け、2024年度末は1105兆円に達する見込みだ。この間には新型コロナウイルス禍の緊急対策もあり、増加額は約400兆円に上る。

 財政健全化の指標である債務残高の対国内総生産(GDP)比は250%を超えた。世界の主要国で最悪の現実を直視する必要がある。

 日銀は金融政策の正常化に踏み出し、金利の上昇が見込まれる。借金頼みの財政運営を続ければ、利払い費が膨らみ、予算編成に支障が出る恐れもある。財政の持続性が揺らぐ事態は当然避けなければならない。

 こうした変化が生じてもなお、各党の政策は財政を度外視したままだ。

 自民は公約に「経済あっての財政」と記した。前政権までの路線を踏襲する首相は、経済対策として前年を上回る規模の補正予算を編成する意向を示す。

 規模ありきだ。この結果、基礎的財政収支(プライマリーバランス)を25年度に黒字化する政府目標の達成は不可能な見通しとなる。

 公約は与野党を問わず大盤振る舞いだ。家計支援のための消費税の減税や廃止、最低賃金の大幅引き上げ、児童手当の拡充、教育無償化など国民受けする政策が並んだ。

 多額の財源が要るのに、具体的に触れた公約がほとんどないのは無責任である。実現可能性は低いと見透かされて当然だ。

 与野党がばらまきを競うのは、有権者が軽く見られているからではないか。投票所では、目先の経済対策だけでなく、将来世代に残す膨大な借金にも思いを寄せたい。