行動力を高めるにはどうすればいいか。心理学者の内藤誼人さんは「たまたま目にした文字や映像などが、その後の行動に影響を与えることを心理学では『プライミング効果』と呼ぶ。この効果を使って、フットワークを軽く、スピーディに行動したいときには、『競馬のレース』『チーター』などの素早い動きをする動物の映像や動画をしばらく眺めてみるのは良いアイデアである」という――。

※本稿は、内藤誼人『考えすぎて動けない自分が、「すぐやる人」に変わる本』(明日香出版社)の一部を再編集したものです。

写真=iStock.com/Freder
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■やりたくないことも片づけられるようになる食べ物

やらなければならないことは重々承知しているのに、それでもやりたくない仕事をするためには、セルフ・コントロール能力が高くなくてはいけません。

「やりたくない」というサボり心をねじ伏せるのがセルフ・コントロール能力と呼ばれるものです。

では、生まれつきセルフ・コントロール能力が低い人は、どうにもならないのかというと、そんなことはありません。一時的ではあっても、だれでもセルフ・コントロール能力を一気に強化できる魔法のような秘薬があるのです。

「えっ、それってアスリートがドーピングに使うステロイド剤じゃないですよね⁉️」と思われる人もいるかもしれませんが、違います。

どこにでも売っていて、だれでもごく普通に摂取しているものです。

じらさずに正解を言うと、その秘薬とは「砂糖」。「なあんだ」と安心しましたでしょうか。

砂糖を口にすると、血中のグルコース濃度(血糖値)が上がって、本来ならやりたくないことでもやれるようになる、つまりセルフ・コントロール能力が高まるのです。

■「ここぞ」という場面で用いてセルフ・コントロール能力を高める

サウスダコタ大学のX・T・ワンは、65名の大学生のうち、32名を実験群に、33名を比較のためのコントロール群に割り振って、実験群のほうには砂糖が入っている「スプライト」を飲んでもらいました。

コントロール群には、人工甘味料が入っているので甘さは感じられるものの、血糖値はまったく上がらない「スプライト・ゼロ」を飲んでもらいました。

それから、どちらのグループにも、「明日120ドルもらうのと、1カ月後に450ドルもらうのでは、どちらがよいですか?」といった選択課題をやってもらいます。

たいていの人はセルフ・コントロール能力が低いので、こういう選択課題をやらせると、必ず早く報酬が得られるほうを選びます。

報酬を遅らせたほうがたくさんもらえるので、そちらのほうが確実におトクだとわかっていてさえ、遅らせるほうを選ばないのです。人は我慢できないのですね。

ところが、事前に糖分をとって血中のグルコース濃度をアップさせると、報酬を遅らせて「我慢する」という選択が増えることがわかりました。

砂糖は私たちのセルフ・コントロール能力を高めてくれるのです。

もちろん、しょっちゅう甘いものを食べていたら太ってしまいますので、このテクニックは「ここぞ!」というときまでとっておいたほうがいいでしょうね。

やりたくもない仕事なのに、それでも本日中にどうにか片づけないといけないときなど、本当に切羽詰まったときには砂糖を摂取してください。

10分ほどで血中のグルコース濃度は高まりますので、やる気を引き出して一気に終わらせてしまうといいでしょう。

■部屋の壁に「絶対に○○大学合格」は心理学的に効果あり

受験生は、「絶対に○○大学合格!」などと書いた紙を部屋の壁に貼りつけておくことがありますが、心理学的に言うと、これは悪くありません。

「合格」という文字を目にすると、自分でも知らないうちに勉強しようという意欲が生まれるからです。

たまたま目にした文字や映像などが、その後の行動に影響を与えることを心理学では「プライミング効果」と呼んでいます。

プライミングとは「点火剤」や「起爆剤」という意味です。

ドイツにあるポツダム大学のステファン・エンゲザーは、212名の大学生に、10×10マスにアルファベットの文字が並んでいる表を見せ、その中に隠された単語を見つけ出すという作業をしてもらいました。

まずは練習してもらうのですが、あるグループでは見つけ出す単語は「成功」「勝利」といった単語になるようにしました。

さりげなく、達成意欲をプライミングするような単語になっているわけです。

別のグループでは、見つけ出す単語は「植物」「ランプ」「緑」など、どうでもいいようなものにします。こちらはコントロールグループです。

これを何回かやってもらい、十分にプライミングができたところで、「さて、みなさん。今までは作業に慣れてもらうための練習でしたが、ここからが本番ですよ」と告げ、同じ10×10のマスで、名詞か動詞の単語を見つけ出してもらいました。

すると、練習で「成功」などの達成意欲にかかわる単語を見つけてプライミングを受けたグループでは、発見した名詞は12.4個、動詞は12.3個でした。

練習で達成意欲に関係ない単語を見つけたグループでは、名詞11.1個、動詞11.3個でしたので、プライミングを受けたグループのほうが成績は良くなったことになります。

何か行動をするときには、意欲を引き出すために「やる気」「根性」「元気」といった単語を頭の中に思い浮かべてみるのもいいですね。そうしてからのほうが、はるかに行動を起こしやすくなるでしょう。

出所=『考えすぎて動けない自分が、「すぐやる人」に変わる本』

■行動力を上げる「競馬のレース」「チーター」の動画

たまたま目にしたものが、その後の行動に影響を及ぼすことをプライミング効果と呼ぶことをお話ししましたね。

このプライミング効果は、文字だけでなく、映像を見ることによっても生じることが確認されています。

したがって、フットワークを軽く、スピーディに行動したいときには、素早い動きをする動物の映像や動画をしばらく眺めてみるのも良いアイデアです。

たとえば、競馬のレース。

最終コーナーを曲がったところで競走馬たちがゴールに向かって疾走する場面を見ていると、プライミング効果が起きて、自分の行動するスピードもアップするでしょう。

「サバンナ」「チーター」「動画」などのキーワードで検索してみるのもいいでしょう。全力で走っている動物を見れば、私たちの身体も同じように活性化して、身体も軽く感じて行動しやすくなると思われます。

■走っている姿をイメージするだけでもいい

ニューヨーク大学のピーター・ゴールウィッツァーは、50名の大学生を2つに分け、片方のグループには、チーター、ピューマ、ウマ、グレイハウンド(猟犬)などの「素早さ」のプライミングを行い、もう片方のグループにはナメクジ、カメなどで「スロー」のプライミングをしてから、隠された単語を見つけ出すまでの時間を測定してみました。

その結果、素早さをプライミングする条件ほど、素早く反応できることがわかったのです(図表2参照)。

出所=『考えすぎて動けない自分が、「すぐやる人」に変わる本』

グラフから明らかなように、プライミング効果は非常に効果的だということがわかりますね。

仕事に取りかかる前には、チーターやウマの動画や写真を見てみましょう。走っている姿をイメージするだけでも大丈夫です。

ほんのちょっとでもそういうことをしておくと、その後の仕事が非常にラクになるかもしれません。

■ナポレオン、野口英世…偉人の伝記を読む意外な効果

何もする気が起きず、ダラダラしてしまうと悩んでいるのなら、偉人の伝記を読んでみるのもオススメです。

どんな人でも、何かを成し遂げるためには信じられないほどの努力をしなければなりません。

俗に「天才」と呼ばれる人でも、何の努力もせずに偉人にはなれません。人の2倍も3倍も隠れた努力をしているものであり、伝記を読むとそれがわかります。

エジソンやナポレオン、野口英世、二宮尊徳などの伝記を読むと、心が震えるほどの感動があるでしょう。

文字を読むのが苦手なら、子ども向けの絵本でもかまいません。漫画で読める偉人の伝記の本などもありますので、好きなものを読んでください。

偉人の伝記を読むと、やはりプライミング効果によって、「自分も頑張ろう!」という気持ちが生まれてくるのです。意図的にやる気を出そうとしなくとも、自然に出てきます。

オランダにあるマーストリヒト大学のカロリン・マーティンは、73名の大学生を2つのグループに分け、ひとつのグループには、スピードスケート選手のヘラルド・ファン・フェルデについて書かれた話を読んでもらいました。

彼はソルトレイクシティの冬のオリンピックにおいて、500メートルのレースでは0.02秒差で銀メダルという悔しい思いをしたものの、気持ちを切り替え、1000メートルでは見事に金メダルを獲得したのです。

そういうエピソードを読んでもらうことで、「根気」や「やる気」をプライミングしたわけですね。

■自分でも信じられないほどの力が出せる

コントロール条件の人たちには、オリンピック委員会についてのどうでもいい文章を読んでもらいました。

内藤誼人『考えすぎて動けない自分が、「すぐやる人」に変わる本』(明日香出版社)

さて、この話を読む前後で、参加者がハンドグリップを握りつづける時間を測定したのですが、コントロール条件のグループは、2回目の測定では短い時間しか耐えられませんでした。1回目で疲れてしまったのです。

ところが、ヘラルド・ファン・フェルデのエピソードを読み、「根気」や「頑張り」をプライミングされたグループでは、2回目の測定でも長い時間ハンドグリップを握りつづけることができました。

偉人の伝記を読むようにすれば、マーティンの実験の参加者と同じように、「私だってやろうと思えばできる」というモチベーションが湧いてきて、自分でも信じられないほどの力が出せることでしょう。

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内藤 誼人(ないとう・よしひと)
心理学者
慶應義塾大学社会学研究科博士課程修了。立正大学客員教授。有限会社アンギルド代表。社会心理学の知見をベースに、心理学の応用に力を注ぎ、ビジネスを中心とした実践的なアドバイスに定評がある。『心理学BEST100』(総合法令出版)、『人も自分も操れる!暗示大全』(すばる舎)、『気にしない習慣』(明日香出版社)、『人に好かれる最強の心理学』(青春出版社)など、著書多数。
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(心理学者 内藤 誼人 イラストレーション=神林美生)