温熱蕁麻疹

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監修医師:
高藤 円香(医師)

防衛医科大学校卒業 / 現在は自衛隊阪神病院勤務 / 専門は皮膚科

温熱蕁麻疹の概要

温熱蕁麻疹は、入浴などの温熱刺激によって引き起こされる蕁麻疹です。

蕁麻疹は血液中の血漿(けっしょう)が漏れ出して、皮膚内部の血管が膨らみ、痒みなどの症状がでている状態です。
皮膚内部の血管周囲には「マスト細胞」という顆粒を豊富に含む細胞が存在し、何らかの原因によってマスト細胞が放出されると、顆粒から「ヒスタミン」という物質が現れます。
ヒスタミンは血管や神経に作用し、血管を膨らませて血漿を漏出しやすくしたり、神経を刺激して痒みを引き起こしたりします。それにより蕁麻疹では皮膚の一部が赤く盛り上がり、痒みを伴います。

温熱蕁麻疹では、入浴時などに皮膚に温熱刺激が加わることで皮膚に盛り上がった「膨隆疹」ができたり、痒みを伴ったりすることがあります。蕁麻疹の症状は一時的なもので時間の経過とともに自然に消失しますが、他の疾患でないことを確認するためにも放置せず医療機関を受診することが重要です。

温熱蕁麻疹が疑われる場合には、原因を特定し、第一にその原因を避ける必要があります。状態によってはヒスタミンの作用を抑えたるための薬物療法が行われることもあります。

温熱蕁麻疹の原因

温熱蕁麻疹の原因は温熱刺激です。

入浴時などお湯に浸かることで発症するほか、暖かい便座に座ることで発症するケースもあります。

温熱蕁麻疹の前兆や初期症状について

温熱蕁麻疹では、原因となる温熱刺激を受けてから数時間以内に皮膚に膨隆疹や痒みを認めます。

皮膚に認められる膨隆疹は、1~2mm程度の小さなものから手足全体に広がるものまでさまざまです。なかには、一つひとつの膨隆疹がくっついて体の表面を覆うものがあったり、形状も線状や円形、楕円形、地図状、花びら状など多彩な種類があります。

蕁麻疹の症状は数時間以内で自然に消失するため、症状が長期間持続する場合は他の疾患を疑う必要があります。

温熱蕁麻疹の検査・診断

温熱蕁麻疹が疑われる場合は、原因や病型を特定するための検査が行われます。

まずは問診が行われ、どのような状況で蕁麻疹が誘発されるか、症状が繰り返し出現するかなどを確認します。膨隆疹や痒みが数時間から1日以内に消失する場合は蕁麻疹の可能性を考慮し、皮膚に温熱刺激を加えて症状が出現するかを確認する「温熱負荷試験」が行われます。

温熱負荷試験では、45℃のお湯を入れた試験管を5分間腕に接触させ、10分後に症状の有無を確認します。
問診や温熱負荷試験の結果、温熱刺激によって症状を認める場合には、温熱蕁麻疹と診断されます。

温熱蕁麻疹の治療

温熱蕁麻疹の治療は、原因である温熱刺激を避ける取り組みを心がけたり、症状を抑えるための薬物療法を行ったり、状態によっては「寛容誘導」と呼ばれる治療が行われることもあります。

適切な治療を受けていれば症状が出現しない状態を目指すことを目標に、蕁麻疹が誘発される刺激を避けるよう指導が行われます。

薬物療法

温熱蕁麻疹の薬物療法では、「抗ヒスタミン薬」が中心に用いられます。蕁麻疹は、何らかの刺激によってマスト細胞からヒスタミンが放出されることで発症します。そのため、温熱蕁麻疹を認める場合には、抗ヒスタミン薬を用いてヒスタミンの作用を抑えます。

抗ヒスタミン薬には、外用薬、内服薬、注射薬があります。外用薬は痒みを抑える程度の効果は期待できるものの、十分な効果を期待するためには内服薬や注射薬による投与が必要です。

抗ヒスタミン薬の内服薬や注射薬は、副作用として眠気が生じる可能性があるため、車の運転などをする際には注意が必要です。
また緑内障や前立腺肥大を発症している場合は、抗ヒスタミン薬の使用によって症状が悪化する恐れがあります。緑内障や前立腺肥大の治療中の人は、必ず主治医の指示に従って内服するようにしましょう。

温熱蕁麻疹の薬物療法は抗ヒスタミンのほか、補助的に免疫変調薬や漢方薬などが用いられることもあります。

寛容誘導

寛容誘導は、皮膚に繰り返し温熱刺激を加えることで刺激の耐性を作る治療法です。

温熱刺激は日常の中で多く接触する機会があり、完全に防ぐことは困難です。蕁麻疹の原因を完全に避けられない場合は、原因を避けるのではなく、あえて接触することで体の耐性を作る考え方があります。

しかし、寛容誘導は試験段階の治療法で、アレルギー反応を誘発させる恐れもあります。寛容誘導の適応判断や実施に関しては慎重に対応する必要があるほか、十分な知識と経験を有する専門医に受ける必要があります。

温熱蕁麻疹になりやすい人・予防の方法

温熱刺激によって一度蕁麻疹を起こしたことがある人は、その後も症状が出現する可能性があります。

入浴時や暖房便座の使用によって皮膚に膨隆疹や痒みを認める場合には、速やかに医療機関を受診し、適切な治療を受けることが重要です。症状が誘発されるのを防ぐため、原因となる温熱刺激を避けるようにしましょう。


関連する病気

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風緑内障

前立腺肥大

参考文献

公益社団法人日本皮膚科学会「じんましんってどんな病気ですか?」

日本皮膚科学会ガイドライン「蕁麻疹診療ガイドライン2018」

森桶聡著「蕁麻疹の診断、検査、治療」