文・写真=山粼友也 取材協力=春燈社(小西眞由美)

旧小田急電鉄ロマンスカー10000形を使用した長野電鉄1000系の特急「ゆけむり」。編成は短いがその存在感は格別だ


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第2の人生を歩んでいるロマンスカー

 東京の新宿と神奈川の箱根や江ノ島などを結んでいる特急が、小田急電鉄のロマンスカー。その名称は同社の代名詞ともなっており、国内のみならずインバウンドの観光客などにも多く利用され人気を博している。そのロマンスカーが長野県を走っていることはご存じだろうか。

 長野県の北部を走る長野電鉄は、県庁所在地である長野と、露天風呂に入るサルでも有名な温泉地の湯田中とを結ぶ私鉄である。この路線に、かつて1987年〜2012年まで小田急電鉄のロマンスカーとして活躍していた車両が特急として走っているのである。その車両とは、小田急電鉄時代に「HiSE(ハイエスイー)」という愛称で呼ばれていた10000形だ。

「HiSE」とは「high decker(ハイデッカー)」や「high grade(ハイグレード)」、「high performance(ハイパフォーマンス)」などを表す「Hi」と、「super express(スーパーエクスプレス:特急)」の頭文字「SE」を組み合わせたもの。このロマンスカーが長野電鉄1000系として生まれ変わり、特急「ゆけむり」などで第2の人生を歩んでいるのである。

眺めの素晴らしい展望席は、おとなも子どもも憧れの的


「HiSE」の特長は車両の先頭部に眺め良い展望席を備えていること。運転席が2階に設けられているため邪魔なものがなく、大きな窓越しからは運転士目線の景色が存分に楽しめる。

 展望席以外の座席も、「HiSE」デビュー当時に観光バスなどで流行っていたハイデッカーの構造にして、一般の車両よりも眺望を向上していることが人気の理由だ。もちろん小田急電鉄から長野電鉄に車両が譲渡された後でもそれらの設備はそのままで、座席のモケットも小田急時代と変わっていない。まさに「HiSE」そのものなのである。

車両の連結部に台車が配置される形の連接台車。小田急ロマンスカーの伝統とも言われていたが、現在ではこの方式を採用している車両はごくわずか


 加えてロマンスカーの魅力といえば、日本では珍しい連接台車を使用していること。通常は1つの車両に2つの台車が取りつけられているが、連接台車は前後2両の車両の連結部分に1つの台車を取りつける方式である。そうすることで車両の軽量化が計られ、急カーブの通過性や乗り心地も良くなるというメリットがある。

12月10日まで全席自由・特急券100円で乗車可能

 さてこのように古き良きロマンスカーのスタイルを伝承している1000系だが、さすがに小田急電鉄時代のままで走るわけにもいかず、11両だった編成は4両と随分短くなってしまった。塗装もラインの色が長野電鉄のカラーに変わっているのだが、塗り分け自体は昔のままなので、こちらはよく見ないと分からない程度。

 全国では、大手私鉄で古くなった車両を地方の私鉄が譲り受けて走らせている例がたくさんあるが、このように特急車両が走っているというのは富山地方鉄道や富士山麓電気鉄道など数える程度。

 しかも現在の小田急ロマンスカーでは先述した連接台車は採用されておらず、他の連接台車の車両というと三岐鉄道の一部や、江ノ島電鉄、東急世田谷線といった路面電車で走っているのみなので、長野電鉄の1000系は国内でもかなり貴重な車両ということになる。

シートや床は往時のまま。車内に入ればロマンスカー時代にタイムスリップ


 そんなレアな存在の特急「ゆけむり」だが、現在は土休祝日のみの運転となっている。展望席のある先頭車両も通常は座席指定券の購入が必要なのだが、12月10日までは全席自由席となっているので、特急券の100円のみで乗車が可能。そのため競争率も高いことが予想されるので、展望席に乗りたい人は早めにホームで待っておいた方がよいだろう。

元JRで「成田エクスプレス」として走っていた車両も、特急「スノーモンキー」として活躍している(現在は平日のみ)


 また各駅停車と同じくらいの時間をかけてゆっくりと走る観光案内列車「特急ゆけむり〜のんびり号〜」や、日にちは限られるが長野県産のワインが飲み放題の「北信濃ワインバレー列車」も走っている。長野県といえば日本のワインの4大産地で、今はちょうどブドウの収穫時期でもある。フレッシュなワインを味わいながら旧ロマンスカーで善光寺平の乗り鉄旅もおつなもの。

筆者:山粼 友也