損保ジャパン「全社禁煙」の衝撃。社内禁煙外来、治療費の補助、禁煙ガムの配布は企業のニューノーマルとなるのか?

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横浜市や大阪市など行政を含む、全国各地で禁煙化がすすんでいる。そんな中、大手損害保険会社の損保ジャパンは2025年4月から、全社員を対象に就業時間内の禁煙を始める。なぜ、大胆な禁煙化に踏み切ったのか。 “健康応援企業”として、1999年から先駆けて禁煙を推奨してきた、損保ジャパンの担当部署に話を聞いた。

【画像】SOMPOひまわり生命「全社員における喫煙率の推移」

企業、行政…広がる全国の禁煙

日本全国で、禁煙化の波が止まらない。

損害保険ジャパン(以下、損保ジャパン)は来年4月から、全社員に向けた就業時間内の禁煙を始める。 全拠点の喫煙スペースを段階的になくし、25年度中の全面廃止をめざす。同時に、喫煙者は社内の診療所で禁煙外来を受診し、治療費の補助を受けることができる。

このニュースは愛煙家を中心に、激震が走った。

とはいっても、行政など全国的に見れば、ここ近年、禁煙化の動きは顕著だった。横浜市では全ての公園で来年4月から喫煙禁止となった。また、半年後に万博を控える大阪市では、今まで一部の地区のみ路上喫煙禁止にしていたが、来年1月からは市内全域に広げ、120か所の喫煙所を新設する予定だ。

厚生労働省によると、5月31日の「世界禁煙デー」には、全国の自治体でも禁煙化に向けたイベントが催されている(※1)。

なぜ、ここまで全国で禁煙化が進んでいるのか。

禁煙化が進む理由はWHOの「たばこ規制枠組条約」

そもそもの禁煙化の背景には、国際条約であるWHOの「たばこ規制枠組条約」がある。

たばこの消費が健康に与える悪影響を軽減することを目的として策定され、たばこの広告や包装の表示規制、受動喫煙の防止、未成年者への販売の禁止など、様々な規制が定められている(※2)。

日本も2004年に署名し(※3)2009年末までに 168 カ国が調印し、国連史上最も広く受け入れられた条約のひとつとなった(※4)。日本にとどまらず、世界各国で禁煙化の動きが進んでいるといえる。

「ガム」と「書籍」で禁煙

今回の「損保ジャパン」の全面禁煙化について、話を戻そう。SOMPOグループの中核会社である損保ジャパンでは、実は1999年から禁煙に向けた取組みを開始し、日本で先駆けて禁煙をすすめてきた。

グループのパーパス「“安心・安全・健康”であふれる未来へ」の実現には、その原動力である社員とその家族の、心と体の「健康」が大切という考えに基づき、社員の健康維持・増進を経営の重要なテーマと位置づけ、健康経営に取り組んできた。就業時間内の禁煙に関する取組みはその一環だという。

実際に、損保ジャパンでは2017年に17.4%だった喫煙率を、2023年には14.3%(▲3.1%)まで減少させている。同グループのSOMPOひまわり生命でも、2016 年度に20.8%だった喫煙率を、2021 年 1 月末時点で 11.9%(▲8.9%)にまで喫煙者を減少させた(※5)。

さぞかし厳しいルールをひいているのかと思い、損保ジャパンの健康開発を司る、人事部総務・健康開発グループに話を聞いてみた。

「2025年4月から就業時間内の禁煙をスタートしますが、就業規則には盛り込んでいません。ルールで縛るだけでは、真の浸透は難しいと考えているからです」(人事部総務・健康開発グループ、以下同)

では、これまでどうやって禁煙化を推進してきたのか。

健康保険組合の取組みとして、禁煙外来補助事業を行ってきました。社内に診療所があり、看護師がマンツーマンでメールやオンライン面談、禁煙外来でサポートをしています。徐々に喫煙者が減ってきたところで、今年度より新たに『禁煙ガム』によるサポートを導入しました」

禁煙ガムは保険適用とならず、一般医薬品となる。これを会社が支援してくれるのは、大きな助けになるだろう。

「もちろん、ずっとガムに頼るわけではありません。最もつらい時期が禁煙後3日~1週間なので、離脱症状を和らげる禁煙ガムと看護師によるサポートを実施しています」

他にも今年度より3か月間の禁煙プログラム「みんなのチャレンジ禁煙」も導入したという(※6)。禁煙を目指す仲間同士がチームを組み、禁煙補助薬を活用しながら、進捗を報告しあう禁煙プログラムだ。

プログラムには、エーテンラボ株式会社によって開発された習慣化アプリ「みんなのチャレンジ」を使用する。「今日は禁煙できたよ」というお互いに報告をし合うことで、達成感を得ることができたり、互いに監視できたりする。

他にも、あるものを喫煙スペースに置くだけで効果があったという。

「『読むだけで絶対やめられる禁煙セラピー』(ロングセラーズ)『にこニコドライブ ~ふたつの禁煙物語~』(予防医療研究所)という2冊の本を、喫煙スペースなどの場所に置きました。すると、社員より『この本を読んだら喫煙をやめられた』という報告があったんです」

SOMPOグループのパーパスは「“安心・安全・健康”であふれる未来へ」。その実現に向けて、「来年春から就業時間禁煙をスタートさせたからといって、急に喫煙率が下がるわけではないでしょう」と前置きをしたうえで、人事部総務・健康開発グループはこう語った。

「でも、社員が自身や家族、周りの社員の健康について考えるきっかけになると考えています。また、この機会に禁煙をチャレンジしてみようと思った社員には丁寧な支援を続けていきます」

――人生100年時代を安心・安全に送るには、心やからだの「健康」に気を配る必要がある。しかし、忙しい毎日で、個人では健康にまで意識が及びにくいだろう。

企業が「喫煙対策」をはじめとした健康へのきっかけさえ与えてくれれば、煙にまかずに取り組んでいけるのかもしれない。

出典元
※1 厚生労働省 「禁煙週間」における自治体の取組
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000202210_00014.html
※2 WHO FCTC (WHO Framework Convention on Tobacco Control)
https://www.who.int/europe/teams/tobacco/who-framework-convention-on-tobacco-control-(who-fctc)
※3 外務省 たばこの規制に関する世界保健機関枠組条約https://www.mofa.go.jp/mofaj/gaiko/who/fctc.html
※4 国立がん研究センター たばこの規制に関する世界保健機関枠組条約の歴史https://www.ncc.go.jp/jp/cis/divisions/tobacco_policy/project/fctc/FCTC_History.pdf
※5 SOMPOひまわり生命 『健康経営における 5 年間の禁煙推進の取組み』https://www.himawari-life.co.jp/-/media/himawari/files/company/news/2020/a-01-2021-03-03.pdf?la=ja-JP&force_isolation=true
※6 みんなのチャレンジ
https://minchalle.com/for-biz/quitsmoking/


取材・文/綾部まと