【日本株】「人工原油」、合成燃料(e-fuel)への関心が高まる

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合成燃料(e-fuel)はカーボンニュートラルな燃料

日本は2050年に温室効果ガスの排出量と吸収量を均衡させる「カーボンニュートラル」を目指している。こうした中で、環境にやさしくエネルギー密度の高い合成燃料(e-fuel)への注目度が高まりつつある。

合成燃料とはCO2(二酸化炭素)とH2(水素)を原材料として製造する石油代替燃料のこと。石油と同じ複数の炭化水素化合物の集合体で、ガソリンや灯油など、用途に合わせて自由に利用できる「 人工的な原油」とも呼ばれている。

合成燃料(e-fuel)は、再生可能エネルギー由来の水素(グリーン水素)と、発電所や工場から排出されるCO2や大気中のCO2を使って製造することから、従来の化石燃料と違い、ライフサイクル上で大気中のCO2を増やすことがない、カーボンニュートラルな燃料といえる。

合成燃料(e-fuel)の4つのメリット

独立行政法人エネルギー・金属鉱物資源機構(JOGMEC)によると、合成燃料のメリットは下記4つが挙げられる。 

(1)エネルギー密度が高い

長距離を移動する飛行機やトラック、船舶は水素や電動化するハードルが非常に高い。液体燃料と同じ体積から得られるエネルギー量が大きく劣るため、水素燃料や電動化では実用化が困難。液体の合成燃料(e-fuel)ならば、これをクリアできる。

(2)従来の設備が利用できる

従来のガソリンやジェット燃料の代わりに合成燃料(e-fuel)を使うとき、これまでの設備をそのまま活用できる。ガソリンを燃料とするトラックや自動車は、今までのガソリンスタンドを使える。飛行機も同様だ。

(3)資源国以外でも製造できる

原油など化石燃料の産地は、中東や北米、ロシアなどにおおむね限定される。H2とCO2で製造できる合成燃料(e-fuel)なら、どこでも製造できるうえ、枯渇リスクもない。日本でもガソリンや灯油を製造できる可能性がある。

(4)環境負荷が化石燃料より低い

合成燃料(e-fuel)は原油に比べて硫黄や重金属の含有量が少なく、環境への負荷がより小さい。

メリットが多く挙げられる合成燃料(e-fuel)の課題は価格の高さにあり、現在の製造コストは1リットルあたり300円~700円程度かかる。

合成燃料は世界でも注目され、さまざまな動きが始まっている。EU(欧州連合)は2023年3月に、実質的に温室効果ガスを出さない合成燃料を使う場合に限り、2035年以降も内燃機関車の新車販売を認めると発表。IMO(世界海事機関)は2050年までに船舶由来のCO2排出を実質ゼロにする目標を掲げる。IATA(国際航空運送機関)もCO2の排出量を2050年に実質ゼロとする目標を賛成多数で採択した。

また、経済産業省は2023年6月に合成燃料(e-fuel)の商用化目標を2040年から2030年代前半に前倒しすることを明らかにし、2025年に製造を開始するというロードマップを示した。

報道によれば、合成燃料(e-fuel)をガソリンに5%混合すれば、EV(電気自動車)新車約300万台相当のCO2削減効果と同等になるという。今後、合成燃料がさらに注目されそうだ。

合成燃料にまつわる関連銘柄をピックアップ

ENEOSホールディングス(5020)

2024年9月28日に、同社中央技術研究所に建設していた合成燃料実証プラントが完成したと発表。NEDO(国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構)「グリーンイノベーション基金」の支援を受けて建設し、同日に実証実験を開始した。実証プラントは、原料から合成燃料を一貫製造できる日本初のプラント。製造した合成燃料は2025年4月から開催される大阪・関西万博での大型車両実証などに活用される予定。

【図表1】週足チャート(移動平均線 緑色:13週、橙色:26週) 出所:マネックス証券ウェブサイト(2024年10月17日時点)

出光興産(5019)

2024年3月に同社と商船三井、合成燃料製造を手掛ける米HIF社とCO2の海上輸送を含む合成燃料のサプライチェーンを共同開発することで合意したと発表。2024年5月にはHIF社に1憶1400万ドル(178憶円)を出資すると宣言し、合成燃料の原料である合成メタノールの製造に向けたサプライチェーン構築を本格化させる。

【図表2】週足チャート(移動平均線 緑色:13週、橙色:26週) 出所:マネックス証券ウェブサイト(2024年10月17日時点)

日揮ホールディングス(1963)

2023年7月に2030年までに合成燃料の生産に使う触媒を量産すると発表。国内の2工場で生産し、石油元売りなどに販売する。新潟県や福岡県で事業用地についての売買契約を締結。2024年度から順次操業する予定である。

【図表3】週足チャート(移動平均線 緑色:13週、橙色:26週) 出所:マネックス証券ウェブサイト(2024年10月17日時点)

千代田化工建設(6366)

2023年7月にENEOSから合成燃料実証設備建設工事を受注したと発表。1日当たり1バレル規模の実証プラントの設計・調達・建設を行う。2021年にはドイツ企業と、e-fuelをはじめとした協業に関する覚書を締結したと発表している。

【図表4】週足チャート(移動平均線 緑色:13週、橙色:26週) 出所:マネックス証券ウェブサイト(2024年10月17日時点)

三菱電機(6503)

2023年12月に、液体合成燃料製造に向けた「SOEC共電解実用化の共同開発」をNEDO受託事業として日本特殊陶業などと共同で開始したと発表している。SOEC共電解は水蒸気(H2O)とCO2を電気分解して、H2とCOを生成する技術。高効率で低コスト生産ができるようだ。

【図表5】週足チャート(移動平均線 緑色:13週、橙色:26週) 出所:マネックス証券ウェブサイト(2024年10月17日時点)

東洋エンジニアリング(6330)

合成燃料技術に展開している企業。会社説明資料によると特にFT合成反応などを手掛けている。FT合成とは、合成ガスから合成粗油(合成燃料のもと)を作ることを指す。合成粗油は加工することでガソリンや灯油などを自由に製造できる液体である。

【図表6】週足チャート(移動平均線 緑色:13週、橙色:26週) 出所:マネックス証券ウェブサイト(2024年10月17日時点)

和島 英樹 経済ジャーナリスト