日本を指揮した森保監督。オーストラリアとドローで勝点1を獲得した。写真:金子拓弥(サッカーダイジェスト写真部)

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 日本代表は10月15日、北中米ワールドカップ・アジア最終予選でオーストラリア代表と埼玉スタジアム2002で対戦。1−1のドローに終わった。

 前半はまるで日本だけがプレーをしていた。

 主に守田英正が最後尾まで降り、CBの板倉滉と町田浩樹を広げる形で全体が押し上げ、右から久保建英、左からは三笘薫が仕掛けていく。

 なかなか決定機には到達できないものの、すかさずセカンドボールを回収して再び攻撃に入る。その繰り返しで、オーストラリアがペナルティエリア内に侵入したのは、左サイドでジョーダン・ボスが久保から奪ったボールをドリブルで運んだ1度だけだった。

 ただし、5−3−2で構えるオーストラリアも、個々は勤勉にプレッシャーをかけ続けたので、日本はジャブを積み重ねるように相手の体力を奪い、それが後半の大量得点へのプロローグとなってもおかしくはなかった。

 オーストラリアのトニー・ポポヴィッチ監督が「11人全員が欧州のトップリーグで活躍」する日本を最大限に尊重し、もはや両国の間に対等なライバル意識は存在しなかった。ただし「相手のロングボールやエアバトルがキーになる」という試合前の守田の予測は外れた。
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 後半に入ると、オーストラリアはゴールキックからも丁寧に繋ぎ始める。日本と比べてしまえば、あえて課題克服に取り組むかのように不器用に映ったが、かつてアンジェ・ポステコグルー監督が植えつけた流れは引き継がれていた。

 オーストラリアが決して得意とは言えないポゼッション重視で勝負してきてくれたわけだから、本来なら流れは日本へと加速するのが自然だった。ところがたったひとつのアクシデントを分岐点として、改めてサッカーが心理戦であることを浮き彫りにする。

 58分、右サイドからルイス・ミラーが長身を折り曲げるようにして送ったクロスは、味方ではなくゴールに向かいかけた谷口彰悟の足もとへと流れてオウンゴールを誘う。崩されたわけでも、相手にシュートを打たれたわけでもなかったが、これまで最終予選の3試合で14ゴール無失点と快進撃を続けてきたチームには、少なからず焦燥をもたらしたようだ。実際に森保一監督も「崩れてもおかしくない展開」と認識していたという。

 あくまで先制点は偶発的な事故に過ぎない。しかしオーストラリアにとっては値千金で、この1点は彼らを勇気づけた。ここから交代出場の中村敬斗が同点ゴールを演出するまでの時間帯は、質はともかくオーストラリアも互角に攻撃を表現し続けた。
 
 リードされた森保監督は、まず右ウイングバックを堂安律に代えて伊東純也。そして8分後には、シャドーの久保と南野拓実を下げ、中村と鎌田大地を送り込む。要するに右サイドで左利きの久保と右利きの伊東が絡んだのは、わずか8分間だけだった。

 そもそも左利きの堂安のウイングバック起用が疑問だが、さらにシャドーの久保が再三、サイドにポジションを替えて1対1の仕掛けに回るのも効率的には見えない。4バックの時なら右利きのサイドバックが縦に仕掛けられたが、右サイドが揃ってカットイン狙いでは分厚い守備網は崩し難い。それは左サイドを抉り切り、同点弾を導いた中村のプレーからも一目瞭然だ。

 一方で久保の特性を考えても、サイドに出る頻度を高めるよりは、ラストパスからフィニッシュまで選択肢の広がる中央付近でプレーさせる方が得策ではないだろうか。
 
 また森保監督は、今回、アウェーのサウジアラビア戦のメンバーをほぼ踏襲したことについて、こう語った。

「コンディション的には、大幅なターンオーバーをした方が正解なのかもしれない。でもこれまでの経験から、メンバーを替えずに確認事項を減らして積み上げていくほうが勝利の確率が高まると判断した」

 しかし反面、「個々が世界との競争の中で選手層が厚くなり、ありがたい状況で監督をやらせてもらっている」と語り、「誰が出ても同じように強いチーム作り」を目ざしているという。

 確かにこの10月シリーズは重要な連戦で手堅い采配に傾くのは理解できる。だが招集し、帯同している選手を起用できない理由が、それで確認事項が増えてしまうからだとしたら大きな矛盾になる。

 日本代表への招集メンバーは、日本サッカー界の貴重な財産だ。招集の仕方も含めて、監督の重要な采配になるのは言うまでもない。

取材・文●加部究(スポーツライター)