頚椎症

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監修医師:
眞鍋 憲正(医師)

信州大学医学部卒業。信州大学大学院医学系研究科スポーツ医科学教室博士課程修了。日本スポーツ協会公認スポーツドクター、日本医師会健康スポーツ医。専門は整形外科、スポーツ整形外科、総合内科、救急科、疫学、スポーツ障害。

頚椎症の概要

頚椎症は、首の骨である頚椎が変形し、神経や脊髄を圧迫することで生じる疾患です。頚椎は7つの椎骨から構成されており、これらの椎骨は椎間板や靭帯により連結しています。頚椎症は、主に加齢による変性が原因で、椎間板の膨隆や骨棘(骨のとげ)の形成、靭帯の肥厚などが進行することで発症します。この変性により、神経根や脊髄が圧迫され、しびれや痛みなどの症状が出現する可能性が高いです。

頚椎症は、頚椎症性神経根症と頚椎症性脊髄症の2つに大別されます。頚椎症性神経根症は、脊髄から分かれて上肢へ向かう神経根が圧迫されることで、肩や腕、手に痛みやしびれが生じる疾患です。一方、頚椎症性脊髄症は、脊髄自体が圧迫されることで、手足のしびれや運動障害、さらには排尿障害などが生じます。

頚椎症は、40歳代から変性が始まり、年齢とともに進行します。特に高齢者に多く見られますが、若年層でも発症することがあります。日常生活における姿勢の悪さや長時間のデスクワーク、スマートフォンの使用などが頚椎症のリスクを高める要因となります。症状が進行すると、日常生活に支障をきたす可能性があるため、早期の診断と適切な治療が重要です。

頚椎症の原因

頚椎症の主な原因は加齢による頚椎の変性です。頚椎の椎間板は、徐々に変性が始まり、年齢とともにその変性が進行します。椎間板の変性が進むと椎間板が膨隆し、骨棘(骨のとげ)が形成されます。これにより、神経根や脊髄が圧迫され、頚椎症の症状が現れます。

加齢以外にも、頚椎症の発症にはさまざまな要因が関与しています。例えば、長時間のデスクワークやスマートフォンの使用、不良姿勢、重い荷物を持つことなどが頚椎に負担をかけ、頚椎症を引き起こすことがあります。また、スポーツや交通事故などによる外傷も頚椎症の原因となることがあります。

頚椎症の発症には、生活習慣も大きく関与しています。例えば、運動不足や肥満、喫煙などは頚椎症のリスクを高める要因となります。これらの生活習慣は、椎間板や靭帯の変性を促進し、頚椎に負担をかけるためです。したがって、頚椎症の予防には、適度な運動や体重管理、禁煙などの生活習慣の改善が重要です。

頚椎症の前兆や初期症状について

頚椎症の前兆や初期症状は、首や肩甲骨周りの痛みやしびれ、肩こりから始まる場合が多いです。これらの症状は、頚椎の変性が始まったばかりの段階で現れることが多く、手や腕を動かした際に痛みが増強することがあります。この段階では、手のしびれはまだ現れないことが一般的です。

初期症状としては、首の動きが制限されることや、首を動かすときに痛みを感じることがあります。また、肩や背中の上部にかけての痛みやこりが生じることもあります。これらの症状は、長時間同じ姿勢を続けると悪化することが多く、特にデスクワークやスマートフォンの使用が多い人に見られます。

さらに、頚椎症の初期症状として、頭痛やめまいが現れる可能性があります。これは、頚椎の変性によって血管が圧迫され、脳への血流が悪くなるためです。これらの症状は、頚椎の変性が進行するにつれて悪化することがあります。

頚椎症の初期症状は、他の疾患と似ていることが多いため、自己判断で放置せず、早期に整形外科で専門の医師による診察を受けることが重要です。特に、手や腕にしびれや脱力感が現れた場合は、神経根や脊髄が圧迫されている可能性が高いため、早急に医療機関を受診することが必要です。

頚椎症の検査・診断

頚椎症の検査・診断時には問診や身体診察、画像診断、神経学的検査などが行われます。
検査の結果によって重症度が判断するため、適切な治療を選択する重要なプロセスです。
全てを理解する必要はありませんが、自身が受けるであろう検査を大まかにでも把握しておきましょう。

問診・身体診察

問診と身体診察が行われます。問診では、患者さんの症状や発症時期、生活習慣などについて詳しく聞き取ります。身体診察では、首の動きや痛みの部位、神経症状の有無を確認します。これにより、頚椎症の可能性を判断します。

画像診断

画像診断が行われます。最も一般的な画像診断はX線検査です。X線検査では、頚椎の骨形状や椎間板の状態、骨棘の有無などを確認します。X線検査は、頚椎症の初期診断に有効ですが、詳細な神経の圧迫状態を確認するためには、さらに精密な検査が必要です。

精密検査としては、MRI検査やCT検査が行われます。MRI検査は、脊髄や神経根の圧迫状態を詳細に確認するために非常に有効です。MRI検査では、椎間板の膨隆や靭帯の肥厚、脊髄の圧迫状態などを詳細に画像化することができます。CT検査は、骨の詳細な構造を確認するために用いられ、骨棘の形成や椎間孔の狭窄などを評価します。

神経学的検査

神経学的検査も行われます。これはスパーリングテストやジャクソンテストなどの検査により、神経根の圧迫状態を確認するためです。スパーリングテストでは、首を横に曲げて頭部を押すことで、上腕に痛みやしびれが生じるか確認します。ジャクソンテストでは、首を軽く後ろに曲げて頭部を押し、上腕に痛みや痺れが生じるか確認します。これらの検査が、神経根の圧迫があるかの判断材料です。

頚椎症の治療

頚椎症の治療は、症状の程度や原因に応じて異なります。一般的には、保存療法と手術療法の2つに大別されます。

保存療法

保存療法は、軽度から中等度の症状に対して行われる治療法です。まず、痛みや炎症を抑えるために、非ステロイド性抗炎症薬(NSAIDs)や筋弛緩薬が処方されます。これにより、痛みやこりを軽減し、日常生活の質を向上させます。また、理学療法も重要な治療法の一つです。理学療法では、首や肩の筋肉を強化し、姿勢を改善するための運動療法やストレッチが行われます。これにより、頚椎への負担を軽減し、症状の改善を図ります。

さらに、神経ブロック注射も効果的な治療法です。神経ブロック注射は、痛みや炎症を引き起こしている神経の周りに薬を直接注入することで、痛みを抑えます。これにより、過敏になっている神経を落ち着かせ、痛みの悪循環を断ち切ります。

手術療法

一方、保存療法で効果が見られない場合や、症状が重度で日常生活に支障をきたす場合は、手術療法が検討されます。例えば、歩行障害、手の高地性障害などがある場合は手術適応です。手術療法には、前方固定術と後方固定術があります。前方固定術は、椎骨前方を摘出することで脊髄の圧迫を解除し、その部分に骨を移植して固定する方法です。後方固定術は、椎弓を形成して脊髄の圧迫を解除する方法です。手術療法は、症状の改善に効果的ですが、手術のリスクや回復期間を考慮する必要があります。

頚椎症になりやすい人・予防の方法

頚椎症になりやすい人には、いくつかの共通点があります。まず、加齢は頚椎症の最も一般的なリスク要因です。年齢とともに椎間板や靭帯が変性し、頚椎症のリスクが高まります。特に50歳以上の人は、頚椎症の発症リスクが高く、男性では特に多いです。

また、長時間のデスクワークやスマートフォンの使用、不良姿勢も頚椎症のリスクを高める要因です。これらは、頚椎に過度な負担をかけ、椎間板や靭帯の変性を促進します。特に、首を前に突き出す姿勢や長時間同じ姿勢を続けることは、頚椎症のリスクを高めます。

さらに、運動不足や肥満も頚椎症のリスクを高める要因です。運動不足は、筋力の低下を招き、頚椎への負担を増加させます。また、肥満は体重が増えることで頚椎にかかる負担が増え、頚椎症のリスクを高めます。

頚椎症の予防には、生活習慣の改善が重要です。まず、適度な運動を取り入れることが推奨されます。運動は、筋力や姿勢を改善する効果があります。特に、首や肩の筋肉を鍛える運動やストレッチが効果的です。また、体重管理も重要です。適切な体重を維持することで、頚椎への負担を軽減することができます。

さらに、姿勢の改善も頚椎症の予防に効果的です。デスクワークやスマートフォンの使用時には、首を前に突き出さないように注意し、定期的に休憩を取ることが推奨されます。特に上を向く動作や首を回す動作を避けるのが大切です。また、枕の高さや硬さを調整し、首に負担のかからない寝姿勢を保つことも重要です。

最後に、喫煙は頚椎症のリスクを高めるため、禁煙が推奨されます。喫煙は血流を悪化させ、椎間板や靭帯の変性を促進するためです。禁煙により、頚椎症のリスクを低減する可能性があります。


参考文献

頚椎症の診療

頸椎症性脊髄症の診療ガイドライン

頸椎めまいの重要性

頚椎症の臨床ー頸部痛の原因ー