北アメリカでは冬眠中のコウモリに致死的な真菌が感染する「白い鼻症候群(White-nose syndrome)」が流行しており、さまざまな地域でコウモリの大量死が発生しています。奇妙なことに、そんなコウモリの大量死と「乳児死亡率の上昇」が関連していることが新たな研究で判明しました。

The economic impacts of ecosystem disruptions: Costs from substituting biological pest control | Science

https://www.science.org/doi/10.1126/science.adg0344



The Collapse of Bat Populations led to More than a Thousand Infant Deaths | EPIC

https://epic.uchicago.edu/news/the-collapse-of-bat-populations-led-to-more-than-a-thousand-infant-deaths/

Mass Die-Off in Bats Across US Linked to Over 1,000 Human Infant Deaths : ScienceAlert

https://www.sciencealert.com/mass-die-off-in-bats-across-us-linked-to-over-1000-human-infant-deaths

白い鼻症候群は低温を好むPseudogymnoascus destructansという真菌がコウモリの口や鼻、耳の周りに生えることで起きる感染症です。コウモリにとっては致命的な感染症であり、2006年に初めてニューヨーク州の洞窟で発見されて以降、アメリカ各地でコウモリの大量死を引き起こしています。

昆虫食であるコウモリは作物に害を及ぼす昆虫の数を抑制してくれるため、農家にとっては有益な動物といえます。ところが、白い鼻症候群が発生したコロニーの致死率は70%以上に達し、さまざまな地域でコウモリによる害虫駆除効果が弱まっています。

農家はコウモリによって駆除されなくなった害虫に対抗するため、農薬の量を増やさざるを得なくなっています。シカゴ大学の生態経済学者であるエヤル・フランク氏は、コウモリの大量死による農薬使用量の増加が乳児死亡率とどのように関連しているのかを調査しました。



フランク氏はまず、白い鼻症候群によってコウモリが大量死した郡とそうでない郡で、農薬の使用がどのように変化したのかを調べました。すると、コウモリの大量死による影響を受けた郡では、農薬使用量が31%増加し、作物の販売収入が29%近く減少したことがわかりました。

また、コウモリの大量死が確認されている郡では、事故や殺人といった外部的な要因による死亡を除いた乳児死亡率が7.9%増加しました。これは郡ごとに1334人の乳児死亡件数の増加に相当し、農薬の使用が1%増えるごとに乳児死亡率が0.25%増加した計算になります。

フランク氏は、「コウモリは特に新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の起源と関連している可能性が報告された後、恐ろしいものとして悪評を得ています。しかし、コウモリは天然の農薬としての役割で社会に価値をもたらしており、今回の研究はコウモリの減少が人間に害を及ぼす可能性があることを示しています」とコメントしました。

また、収益の減少と農薬の費用を合わせると、コウモリの大量死を経験したコミュニティの農家は、2006年〜2017年に269億ドル(約4兆円)もの損失を出した計算になります。これに乳児死亡率の増加による損害124億ドル(約1兆8400億円)を加えると、トータルの社会的損失額は396億ドル(約5兆8800億円)に達するとフランク氏は推定しています。



フランク氏は、「コウモリが昆虫駆除をしなくなると社会へのコストは非常に大きくなりますが、コウモリの個体数を保護するコストは、おそらくもっと小さくて済むでしょう。この研究はより広い意味でいえば、野生生物が社会に価値を与えることを示しています。野生生物を保護するための政策を周知するためには、その価値をよりよく理解する必要があります」と述べました。