プロ野球では、10月12日から日本シリーズ出場権を争う「クライマックスシリーズ(CS)」が始まる。ライターの広尾晃さんは「ポストシーズンの充実はプロスポーツ界のトレンドだ。CSを廃止するのではなく、より拡充するために球界再編も視野に入れるべきだ」という――。
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セ・リーグの優勝トロフィーを掲げる巨人・阿部監督。左は坂本、右は岡本和=2024年10月2日、東京ドーム - 写真提供=共同通信社

■なぜ日米でポストシーズンが拡大し続けるのか

今季もプロ野球のペナントレースが終了した。これからポストシーズンが始まる。

ポストシーズンとは、リーグ戦で勝敗を争う競技で、リーグ戦の勝者、優秀な成績を残したチームが、最終の優勝を目指して雌雄を決する大会の総称だ。

30年ほど前まで、ポストシーズンはシンプルなものだった。NPBやMLBのように2大リーグ制の競技では、両リーグの勝者が短期決戦で最終勝者を目指して戦う。

NPBの日本シリーズもMLBのワールドシリーズも7回戦制でどちらかが4勝すれば優勝が決定した。期間は最大で10日間程度と短く、シンプルなものだった。

しかし、近年、ポストシーズンはどんどん複雑なものになっている。

その背景に「エクスパンション(球団拡張)」がある。MLBで言えば1968年までナショナル・リーグ、アメリカン・リーグ各10チームの2大リーグだったのが、1969年、両リーグにそれぞれ2球団が増え24球団になるとともに、両リーグが東西2地区に分かれた。これにより優勝チームが4に増え、両リーグで地区優勝シリーズが始まり、その勝者がワールドシリーズで雌雄を決するようになった。

さらにMLBは1994年にはア・ナ両リーグ各14チームとなり、各リーグは東・中・西の3地区で争われるように。各地区で1位となった3チームに加え、各地区の首位以外で最も勝率の高いチームを「ワイルドカード」としてポストシーズンに参加させるようになる。

こうして地区シリーズ、リーグ優勝決定シリーズを勝ち抜いたチームがワールドシリーズに進出した。

■10月が新たなマーケットになった

2012年からワイルドカードは各リーグ2チームとなり、この勝者を決める「ワイルドカードゲーム」が始まる。2022年からワイルドカードは各リーグ3チームとなっている。

2024年時点で、ポストシーズンに進出したチームはワイルドカードシリーズ(3戦2勝制)、ディビジョンシリーズ(5戦3勝制)、リーグチャンピオンシップ(7戦4勝制)を勝ち抜きようやくワールドシリーズ(7戦4勝制)に進むことができる。

ワイルドカード2番手(第5シード)でプレーオフに進出したレンジャースがワールドシリーズ優勝となった。(プレジデントオンライン編集部作成)

ポストシーズンは最大で22試合も戦う、壮大なものになった。

なぜ、こんなにポストシーズンは拡大したのか? それは「儲かるから」にほかならない。

これまで9月末でシーズンが終了し、ワールドシリーズが終われば10月中旬には「シーズンオフ」になっていたのが、ポストシーズンが拡大したことで11月初旬まで、野球ファンの注目を集めることができるようになった。

いわば10月が新しいマーケットになったのだ。

MLBのライバルであるNBAやNFLもポストシーズンを拡大させている中で、MLBとしても積極的なマーケティングを展開していく必要があるのだ。

■球団にとっておいしいCS

NPBでは、観客動員でセントラル・リーグより劣勢だったパシフィック・リーグが、1973年から82年まで前後期の2シーズン制を導入。前期優勝チームと後期優勝チームのプレーオフの勝者がセ・リーグとの日本シリーズに進出することとなった。しかし2シーズン制は、人気挽回策とはならなかったため、10シーズンで終了した。

その後、パ・リーグは2004年から2006年まで、ペナントレース2位、3位のチームがプレーオフを行い、その勝者が1位と対戦していた。この方式を2007年からセ・リーグも取り入れるようになり「クライマックスシリーズ(CS)」として定着している。

クライマックスシリーズは2位チームと3位チームが対戦する3戦2勝制のCSファーストステージと6戦4勝制(1位チームに1勝のアドバンテージ)のCSファイナルステージからなる。

ポストシーズンはCSが各リーグ最大9試合、日本シリーズが最大7試合の16試合にまでひろがっている。

CSは阪神とオリックスが勝ち上がった。両チームによる日本シリーズは、阪神が4勝3敗とし、38年ぶりの日本一になった。(図表=プレジデントオンライン編集部作成)

これによってMLB同様、本来早々にオフシーズンになっていた10月がもう一つの盛り上がりとなった。

日本シリーズはNPB機構の主催だが、CS各ステージは球団の主催ゲームとなる。CSの試合は連日満員になるから、CSに進出することは、球団にとっても少なからぬ増収になるのだ。

■根強いCS不要論

これに加えて、ポストシーズンに3チームが進出するようになったことで「消化試合」が大幅に減少したのも大きい。

今季のパ・リーグのように首位のソフトバンクが大きなゲーム差をつけて早々と優勝を決めると、これまでなら、あとは優勝争いに関係がない消化試合となっていた。個人記録を狙う以外は目標のない試合になる。観客も減り、味気ない試合が1カ月近くも延々と続いたものだ。

しかし、CSができたことで、2位、3位争いという目標が生まれた。今季のパ・リーグでも2位日本ハム、3位ロッテ、4位楽天はシーズン終盤まで激しい順位争いをした。

ポストシーズンに進出するチームが増えることで、ペナントレース全体の盛り上がりが長く持続されるようになったのだ。

しかしながらCSに関しては、根強い反対意見がある。

「3月終盤から10月初旬まで、半年以上もの長い間戦って1位になったチームが、わずか数試合のCSステージで負けたら、日本シリーズに出られないのは理不尽ではないのか?」

「CSファイナルステージでは、1位チームは1勝のアドバンテージがあると言っても、短期決戦だから負けることだってある。CSはプロ野球にとって最も重要なレギュラーシーズンの価値を貶めているのではないか?」

■明らかな敗者だったDeNAが最終決戦に

CSで2位、3位チームが1位チームを破って日本シリーズに進出することを「下剋上」という。

2010年のパ・リーグは3位のロッテがCSファーストステージで2位の西武を2勝0敗で下し、ファイナルステージでは1勝のアドバンテージもモノとせず1位のソフトバンクを4勝3敗(アドバンテージ含む)で下した。その勢いで日本シリーズでも中日を4勝2敗1分で下した。

3位のロッテが下剋上で日本一になったのは、ロッテファンには痛快なことではあっただろうが、パのペナントレースを制したソフトバンクのファンにとっては、やりきれない思いになったのは間違いないところだ。2010年のパ・リーグのケースではリーグ戦1位のソフトバンクと3位ロッテのゲーム差は2.5差だった。

CSの最大の問題点は、長大なペナントレースで「明らかに敗者になった」チームが、短期決戦で勝者に返り咲く可能性があることだ。

2017年のセ・リーグの場合、1位広島と3位DeNAは14.5ゲームもの大差があった。しかしDeNAはCSファーストステージで2位の阪神を2勝1敗で下し、ファイナルステージでも広島を4勝2敗(アドバンテージ含む)で下した。

2019年3月17日、広島市民球場(マツダスタジアム)2階スタンドより(写真=HKT3012/CC-BY-SA-4.0/Wikimedia Commons)

日本シリーズではソフトバンクに2勝4敗で敗退したが、ペナントレースで.633(88勝51敗4分)と圧勝した広島がファイナルのステージに出場できず、勝率.529(73勝65敗5分)のDeNAが最終決戦に出るのは、理不尽だという声が上がるのももっともなことではあった。

■筆者が考える改革案

こうしたことから、ファンや有識者の中からも「CSは必要ない、ペナントレースの勝者がシンプルに日本シリーズを戦う昔のスタイルが良い」という声が上がっている。

しかしビジネス、マーケティングを考えても今更CSを縮小するのは現実的な話ではない。また、ペナントレースの終盤の消化試合を減らすという意義も大きい。CSはプロ野球というコンテンツのクオリティ維持のために必要なのだ。

ペナントレースの正当性を尊重するというだけで、時代に逆行することはできないだろう。

では、どうすればいいか?

ポストシーズンの質、量を維持しつつ、ペナントレースとの「矛盾」を軽減するために、筆者はNPBの再編を考えている。

現在の2リーグ各6チーム計12チームの体制を、3リーグ(地区)各4チーム計12チームに改編してはどうか。

各リーグの優勝3チームに加え、2位チームで最も勝率の良いチームをMLB同様「ワイルドカード」としてポストシーズンに出場させる。これならワイルドカード争いという新たな興味も出てくる。

■筆者が考えた大胆なリーグ編成案

ペナントレースは同一地区と27試合×3の81試合、他地区と8試合×8の64試合、計145試合である。

仮に今季のペナントレースをもとに3地区制を地域別に当てはめるとすれば、以下のようになる。

※成績は今季のもので作成。筆者作成

この成績で行けば、東リーグの巨人、中リーグのロッテ、西リーグのソフトバンクがポストシーズンに進出。2位チームで最も勝率が高い東リーグ2位の日本ハムがワイルドカードとなる。

あるいは、ワイルドカードを2枚にして、東2位の日本ハムと西2位の阪神で3戦制2勝のワイルドカードシリーズを戦っても良いかもしれない。

その勝者と、3地区優勝チームが5戦制3勝のセミファイナルシリーズを戦い、その勝者が7戦4勝の日本シリーズを戦うという図式だ。

セ・パ両リーグはそれぞれ別の歴史を有し、互いにライバル心をむき出しにしてきた歴史がある。DH制の有無という大きな障壁もあるが、MLBのように「ユニバーサルDH(すべてのリーグでDH制を導入すること)」にして、リーグ編成を見直しても良いのではないか。

ポストシーズンはそういう大改革をしてでも維持、発展すべきものだと思う。

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広尾 晃(ひろお・こう)
スポーツライター
1959年、大阪府生まれ。広告制作会社、旅行雑誌編集長などを経てフリーライターに。著書に『巨人軍の巨人 馬場正平』、『野球崩壊 深刻化する「野球離れ」を食い止めろ!』(共にイースト・プレス)などがある。
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(スポーツライター 広尾 晃)