攻守の両局面でエネルギッシュに戦った守田。鎌田の先制点もお膳立てした。写真:梅月智史(サッカーダイジェスト写真部/現地特派)

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 5万6000人超の大観衆に、すり鉢状で風の通らないキング・アブドゥラー・スポーツシティ・スタジアム特有の暑さ、21時で32度という高温...。あらゆる面で困難な要素が積み重なった現地10月10日の2026年北中米ワールドカップ・アジア最終予選のサウジアラビア戦。

 それでも日本は14分の鎌田大地(クリスタル・パレス)の先制弾で好発進を見せ、1点をリード。相手が攻撃のギアを上げてくるなか、最終ラインやボランチ陣が身体を張った鬼気迫る守備を見せる。

 後半に入ってからは「引いてブロックを作る」という意思統一を図ったこともあり、サウジに主導権を握られたが、粘り強く守り抜く。そして81分に小川航基(NEC)が値千金のダメ押し弾をゲット。最終的に“鬼門”と言われた因縁のジッダで2−0の歴史的勝利を飾ることに成功したのである。

 アジアサッカー連盟(AFC)の公式データを見ると、ボール支配率はサウジの56.7%に対し、日本は43・3%。デュエル勝利数は57対43、シュート数13対7とことごとく相手に上回られており、どれだけ苦戦したかがよく分かる。

 それでも動じなかったのは、想定された3−4−2−1ではなく4−1−4−1で来たサウジの出方を冷静に見極め、臨機応変に対処したことが大きいはずだ。

 最大の功労者の1人と言えるのが、ボランチの守田英正(スポルティング)ではないか。

「僕たちがボールを持ちたいと思っても、相手に持たれる時間もあるだろうし、疲弊してブロックを組まされて、プレスに行くけど剥がされてまた戻る...というシチュエーションも起こり得る。

 そうであっても、どこで割り切って持たせるか、アジアカップの時に課題として出たロングボールの処理、蹴られた時のセカンドボールの対応や配置は、あそこからすごく反省して今も意識している。仮に持たれても相手の狙いをちゃんと見ることが大事だと思います」と、彼が試合前に語っていた通り、やはり日本は苦境に直面することになった。
 
 アグレッシブにサウジが出てきた序盤と後半は特にそう。最初は蹴られてしんどい思いをしたというが、アジアカップで負けていた1対1のバトルで何度か踏み止まり、先制点に持ち込んだ。

 その14分のシーンを振り返ると、守田がハーフウェーライン手前の位置から南野拓実(モナコ)に配球。堂安律(フライブルク)から三笘薫(ブライトン)へのサイドチェンジが入るなか、背番号5は約50〜60メートルの距離を一目散に上がり、三笘の折り返しをヘッドで落とす。鎌田の一撃をお膳立てしてみせた。

「別に天狗にならないですけど、やるべきこと、ボランチの仕事をちゃんとやったうえで出ていっているし、数字も取れている。数字を取りたいからアンバランスに前へ行っているわけではない。そこは自分を評価したいと思います」

 守田は独特な言い回しで自己評価をしていたが、そんな発言から確固たる自信や風格が窺える。9月のバーレーン戦での2得点もそうだが、今の彼は攻守両面のかじ取り役を担いつつ、デュエルで勝利し、さらにはボックス・トゥ・ボックスの走りでゴールに絡めるダイナミックさを示している。

 27分の相手のシュート3連続ブロックの場面でも、自陣ペナルティエリア内に下がって身体を投げ出しており、そういった強さとタフさにも磨きがかかっている。森保一監督も「今の代表に絶対に欠かせない人材」だと位置づけているはずだ。

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 相棒の遠藤航が今季のリバプールで出番を減らしていることもあり、キャプテンをしのぐ存在感と重要性を見る者に印象づけている守田。この最終予選に入って一気に成長曲線を引き上げているのも、本人も言及する通り、アジアカップの苦悩と失敗が大きいのだろう。

「艱難汝を玉にす」という言葉もあるが、人間は逆境があってこそ、次なるステップに行ける。今の守田は代表における第2章がスタートしたところなのかもしれない。

「アジアカップの敗戦とか、僕が言ったこともそうだし、過去があって今があると思っている。監督もすごく話を聞いてくれるようになりましたし、間違いなくあれがあって今がある。今後はより一層、良くなっていくと思います」と本人も前向きにコメントしていた。

 ここから全勝でW杯出場権を獲得できれば、守田は二度目の大舞台に力強くフォーカスできる。2022年カタールW杯は怪我がちでフル稼働できなかった悔しさもあっただけに、充実した状態で2年後を迎えられれば理想的。
 
「まだ先を見るのは早すぎる」と言われるかもしれないが、守田がどこまで高い領域に突き進むか本当に楽しみになった人は少なくないはず。

 世界基準を熟知する長谷部誠コーチの助言も力にして、守田には過去の代表にはいなかった高度なボランチ像を形成してほしい。

 まずは15日のオーストラリア戦をその一歩にしたいもの。森保監督も田中碧(リーズ)のボランチ抜擢を考えるかもしれないが、主軸の守田はそのまま使うはず。中盤のリーダーは4連勝のけん引役として再び異彩を放ってくれるはずだ。

取材・文●元川悦子(フリーライター)