“相談悪”を打破する悩み投函ポスト「スマソウポスト」 世界メンタルヘルスデーで渋谷に…職場環境改善が個人と企業を後押し

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東京・渋谷区で10月10日の「世界メンタルヘルスデー」に、悩み事を投函できる水色のポストが設置された。これは、日本社会の「相談悪」を解消する試み。専門家は「相談すること自体への抵抗感を無くすことが、職場環境の改善に不可欠」と指摘している。

悩み相談ポストで相談への抵抗解消

10月10日、東京・渋谷区の一角に突然現れたのは、あまり見慣れない「水色のポスト」だ。

訪れた人が投函しているものは、日々の生活や仕事の中で生まれる、ちょっとした悩みだ。

保育士(40代):
書いたのはお金のこと。趣味にお金がかかるので。お金のことでなかなか人には相談できないので。

10月10日は、世界精神保健連盟が定めた「世界メンタルヘルスデー」。法人向けにカウンセリングなどの支援サービスを提供する企業が、一日限定で悩み事を投函できるポストを設置した。

株式会社Smart相談室広報・宮田有利子さん:
日本では、相談することに対して、相談すること自体が悪いと考える風潮があると、私たちは感じています。今回、相談に対する社会的な抵抗感を“相談悪”と名付けて、「スマソウポスト」を設置いたしました。

過去に内閣府が行った全国規模の調査によると、これまで悩みや困りごとを解決できず、一人で抱え込んだことがある人は、全体の6割を超える結果になった。メンタルヘルス問題は、現代社会の課題ともされている。

企業と個人の成長ギャップが不調の原因

みなさんはどんなことに日々、モヤモヤしているのだろうか。小さな子どもを連れた、子育て真っ最中の女性は、次のように語った。

ブライダル関係(30代):
夜ゆっくり寝たいなと。産後、ゆっくり寝られていないので。(こういう悩みは)職場の人には打ち明けづらいかも。

続いて、近くの飲食店で働いているという、ジャケット姿の男性は次のように語った。

寿司職人(50代):
税金が高くなる一方で、収入はそれほど高くならない。
ーー外に吐き出してみて、どうですか。
寿司職人(50代):
やっぱりすっきりする。

中には、子どもの頃から夢見ていた将来像とのギャップに悩む人もいた。

専門学生(10代):
小学校4年の時からファッションデザイナーになりたいと思っていて、夢のために上京してきたんですが、学校で学んでいることや、バイトで身に付けている接客などが、自分の将来の夢につながっているのか、自分の成長になっているか分からなくなっていて。

言ったら迷惑になる、相手を余計に不安にさせてしまうと思うが…。私みたいな人のためにこういう物がもっとあっていいと思う。

メンタルヘルスの重要性と、社会的課題にフォーカスした今回の取り組み。

株式会社Smart相談室広報・宮田有利子さん:
一般的に企業は右肩上がり(の線形)の成長を描くことが多い。一方、個人の成長はいい時もあれば悪い時もある。うねうね、波の形を描くことがあり、その間にギャップが生まれてしまう。そこが、メンタル不調者の増加につながっていると考えている。

人手不足が加速する中で、生産性を上げる面でも、生き生きと働ける人を増やしていけば、企業としても成長がより加速すると思う。

「本音言える空気づくり」で相談のハードル下げる

「Live News α」では、働き方に関する調査・研究を行っているオルタナティブワークラボ所長の石倉秀明さんに話を聞いた。

海老原優香キャスター:
悩み相談ポスト、どうご覧になりますか。

オルタナティブワークラボ所長・石倉秀明さん:
悩み自体の解消ではなく、相談すること自体に抵抗を感じてしまうことに着目したのが興味深いです。会社というのは仕事をしに来ている場所だからこそ、「本音」は非常に言いにくい場所だし、そもそも本音をいう場所ではないという価値観もあります。

ただ、それによって精神的に不調になってしまっては意味がない。だからこそ、どんなに小さなことでも相談をしやすくする、相談することを悪いと思わないようにする空気をどう作るかは非常に大事です。

海老原キャスター:
職場での相談しやすい環境づくりについて、石倉さんは、どんな工夫を行っていたのでしょうか。

オルタナティブワークラボ所長・石倉秀明さん:
全員がリモートワークの会社を経営していた際に気を付けていたのは、いかに「何でも言っていいんだ」と思える空気を作れるか。

具体的には、リモートでも雑談がたくさん起こるような仕掛けをいくつも行ったり、相談してくれた人に対して絶対に感謝を伝えるなど、小さなことの積み重ねを地道にやってきました。

もちろんそれでも、「こんなことを相談していいのかな」と感じる人はゼロにはならないかもしれないです。ただし、相談出来なかったことで、メンタルを崩したり、大きなトラブルはほとんどありませんでした。

逆に「なんでも相談していい」という空気がなくなるのは、会社にとっては非常に怖いことです。

相談しにくい環境が大きなトラブルを呼ぶことも

海老原キャスター:
相談しなくなることで、どんなリスクがあるのでしょうか。

オルタナティブワークラボ所長・石倉秀明さん:
相談しにくい空気が出来ることで、仕事で起きた小さいトラブルを報告したり、相談することが減ってしまいます。

その中には、最初は小さくても、初動を間違ったことで大きなトラブルに発展してしまうものも存在します。これは会社にとっても良くないことですし、本人にとって非常にストレスがかかることです。

そういったことを未然に防ぐ意味でも、会社としては「相談しやすい空気」を作ることに投資することは、非常に合理的な選択にもなると思います。

海老原キャスター:
いざという時に、一人で抱え込まず、誰かに相談できる環境があるのは、いいですよね。年末にかけて、つい頑張りすぎてしまいがちですが、自分の心が落ち着く時間を取ってあげたいですね。
(「Live News α」10月10日放送分より)