【光る君へ】惟規、ついに退場なのか…?まひろ(藤式部)の弟・藤原惟規の”らしさ”あふれる最期がコチラ
NHK大河ドラマ「光る君へ」皆さんも観ていますか?
第1回放送「約束の月」からずっと登場してきた藤原惟規(高杉真宙)。まひろ(藤式部。吉高由里子)の弟として活躍し、飄々としたキャラクターが多くの視聴者から愛されてきました。
これからもずっと観ていたい惟規ですが、残念ながらそろそろ退場です。
第39回放送「とだえぬ絆」では、まひろが名前を連呼しながら泣いている場面があるので、ここらで亡くなるのでしょう。
果たして藤原惟規はどのような最期を遂げるのか、紹介したいと思います。
越後国で亡くなる
「世のすきもの(十訓抄)」として知られた?藤原惟規(イメージ)
時は寛弘8年(1011年)、藤原惟規は父・藤原為時(岸谷五朗)の越後守任官にともない、越後国(現代の新潟県)へ赴きました。
老齢の父が心配だったのでしょうか。ちょうど都で官職がなかったので、かえって都合がよかったのかも知れませんね。
藤式部は今回同行していません。藤原彰子の女房としての勤めがあったからです。
藤式部にとって、これが弟との永別となったのでした。
惟規は越後国で帰らぬ人となってしまいます。その様子を記した『十訓抄詳解』を読んでみましょう。
都にも恋しき人の数多(あまた)あれば……。
四五 藤原惟規は、世のすきものなりけり。父越後守為時に伴ひて、彼國へくだりける程に、おもく煩ひけるが、
都にも恋ひしき人のあまたあれば、なほこの度はいかんとぞ思ふ。
とよみたりけれども、……
※『十訓抄詳解』上巻より
【意訳】藤原惟規は世に知られた女好きである。父の越後守任官にともなって越後国へ下った時、重病を患ってしまう。
「都にはまた会いたい人がたくさんいるんだ。だから此度(こたび)の旅は、生きて行こう(京都に帰ろう)と思う」
なんて詠んではみたが……。
僧侶を呼んで、極楽浄土への行き方を指南
呼んできた僧侶(イメージ)
……いとゞ限りにのみ見えければ、父のさたにて、或山寺より善知識をよびたりけるが、中有(ちうう)の旅のありさま、心ほそき様などいひて、これにやすらはで、直ちに浄土へ参り給ふべき様はなど、いひ聞かせけり……
※『十訓抄詳解』上巻より
【意訳】いよいよ生命が危なそうなので、為時はとある山寺から僧侶を呼び寄せて、惟規が成仏できるよう法話を聞かせた。
僧侶は冥途(冥土への道中)が大変心細いため、ただちに極楽浄土へたどりつくためのノウハウなどを指南する。
惟規の素朴な疑問「あの世って、どんな所?」
……「中有とは、いかなる所ぞ」と病人問ひければ「夕ぐれの空に、ひろき野にゆき出でたるやうにて、志れる人もなくて、たゞひとり、心ほそくまどひありくなり。倶舎には「欲往前路無資糧、求住中間無所止」なと申したる」といひけるを……
※『十訓抄詳解』上巻より
【意訳】話を聞いた惟規は、僧侶に「あの世って、どんなとこ?」と質問する。
僧侶は「夕暮れ空の下、荒涼たる平野をさまよい歩くようなものだ。知り合いもおらず独りぼっちで、心細い思いをするだろう」と答えた。
加えて「欲往前路無資糧、求住中間無所止(どこへ行っても食糧はなく、どこまで行っても安らぐ場所はない)」という法語を教える。
僧侶に呆れられる
あの世がこんな風流なとこだったらいいのに……(イメージ)
……聞きて「其の野には、あらしにたぐふもみぢ、風になびく尾花がもとに、まつむしも鈴むしも鳴くにや。さたにもあらば、何かくるしからん」といふ。これを聞きて、あいなく、心づきなくておほえければ、此の僧にけ去りにけり。……
※『十訓抄詳解』上巻より
【意訳】僧侶の話を聞いた惟規は、つまらなそうに言う。
「あーあ、あの世にも嵐に舞い散る紅葉や、風になびく尾花(ススキ)があればいいのに。それと松虫や鈴虫の声も欲しいな。そんな風雅な場所なら、一度行ってみたいけどね」
いよいよ死にそうだと言うのに、この期に及んでジョークを飛ばす惟規。僧侶は呆れて席を立つ。
為時「ちょっと、息子を看取って下さいよ」
僧侶「息子さんのノリには付き合いきれません。私は帰ります。ごきげんよう、よい旅を」
為時「やれやれ、行ってしまわれた……惟規?」
惟規は先ほど詠んだ和歌をしたためながら、事切れていた。
最期の一文字「ふ」
……此の歌のはてのふ文字をば、えかゝざりけるを、さながら都へもて帰りてけり。おやとも、いかにあはれにかなしかりけん。
※『十訓抄詳解』上巻より
【意訳】為時「まったく、お前と言うヤツは最期の最期まで……」
見ると、惟規は途中で力尽きており、和歌の最後一文字が欠けている。
都にも恋ひしき人のあまたあれば、なほこの度はいかんとぞ思……
為時「旅先は 越後の国に 飽き足らず 中有(ちうう)の途(みち)に たぐふ紅葉(もみぢば)」
惟規の言っていた旅とは、越後国だけでなく、中有の紅葉や尾花も観にいくようだ。
こんな時までアイツらしい。ちゃんと帰って来るんだぞ……。
為時は涙ながらに、最後の一文字を書き足してやったのであった。
終わりに
今回は『十訓抄』が伝える藤原惟規の最期を紹介しました。
あの世にまで風雅を求めてやまない姿は、生来のジョーク好きなのか、あるいは父たちを悲しませない健気さだったのかも知れませんね。
果たしてNHK大河ドラマ「光る君へ」では、どんな最期が描かれるのか、高杉真宙の終演に注目です!
NHK大河ドラマ「光る君へ」第39回「とだえぬ絆」は、10月13日(日)放送予定です。
※参考文献:
石橋尚宝『十訓抄詳解』国立国会図書館デジタルコレクション