久保建英はアトレティコ・マドリード戦で今季3回目のフル出場を果たし、特に後半、すばらしいパフォーマンスを披露。それでもチームはまだ不調を脱したわけではない(第9節終了時で15位)。今回はスペイン紙『ムンド・デポルティボ』でレアル・ソシエダの番記者を務めるウナイ・バルベルデ・リコン氏に、今のチームを救うために久保がやるべきことを分析してもらった。

【もっと多くのゴールやアシストが必要】

 久保建英はレアル・ソシエダの今シーズンの悪い流れの影響を受け、最高の瞬間を過ごしているわけではない。


久保建英はアトレティコ・マドリード戦で見せ場を多く作った photo by Mutsu Kawamori/MUTSUFOTOGRAFIA

 チームがベストの形で機能しなければ、個人がパフォーマンスで抜きん出ることは困難だ。しかし、トッププレーヤーはチームが不調に陥っている時こそ、その流れを変えるために存在感を発揮しなければならない。

 久保は昨年のチャンピオンズリーグのグループリーグで輝き、ラ・リーガで決定的な活躍を見せた最高の姿を今年はまだ見せられていない。それはラ・レアルの低迷と密接に関係している。

 久保は自分が本来やるべきレベルのプレーができていないことを自覚している。常にボールを求め、プレーを生み出そうとしているので、存在感が薄れているとか、努力が足りないなどと責めることはできないが......。

 しかし、閃きが欠如しているため、場合によっては焦って個人主義になりすぎてしまうことがある。ペナルティーエリアに近づいた時に、適切な判断をどう下せばいいかわからなくなっているようだ。

 それが、ゴールやアシストを積み重ねられていない主な理由かもしれない。久保がさらなるスターになることを望むなら、もっと多くのゴールやアシストを記録する必要がある。

 また、イマノル・アルグアシル監督は今季、過密日程による疲労を考慮して選手のローテーション起用を増やしている。そのため、久保は特にヨーロッパリーグ(EL)での出場時間が短くなっている。それも例年よりゴールが少ない理由のひとつと言えるだろう。

【いい時と悪い時の差が顕著】

 しかし復調の兆しはある。チームの出来が悪かった試合で天才的なプレーを披露し、今季のこれまでの2勝に貢献。エスパニョール戦(1−0)では決勝ゴールでチームに勝利をもたらし、バレンシア戦(3−0)では先制点をマークした。

 久保がラ・レアルの選手としてゴールを決めた公式戦17試合、チームは一度も負けていない(16勝1分)。まさに"タリスマン(お守り)"と呼ぶべき存在になっている。久保は先日、そのデータについて聞かれると、「僕が全試合で得点を決めなければいけないだろうね」とコメントしていた。

 また、バジャドリード戦(0−0)で久保は、久々に採用された中盤ダイヤモンド型の4−4−2のトップ下でプレーした。そのポジションはよりゴールに近く、ラストパスを出し、ゴールを狙うことができるので、久保に合っていた。

 彼にはほんの数タッチで振り向く才能があるし、他の3人のMFのサポートを受けながら中央でプレーすれば、決定的な働きもできる。一方、ウイングの場合、相手のサイドバックやウイングバックと対峙しなければならないことが多いため、並外れたプレーをしない限り、選択肢はほとんど残されていない。

 ELのアンデルレヒト戦(1−2)でチームは早々に先制したが、相手のウルトラスがスタンドで問題を起こしたことで(※ラ・レアルのサポーターに物を投げ込み一時中断)、選手たちは集中力を削がれ、流れに関係ない2度のプレーで逆転を許してしまった。

 この状況を受け、ベンチスタートだった久保は後半からピッチに入り、あらゆる形でトライした。しかし、相手に守備を固められたことで、輝きを放てなかった。1対1に勝てず、ドリブルをやりすぎてしまい、仕掛けるためのサポートをチームメイトに求めなかったため、ボールを不必要に何度もロストしていた。

 また、走りながらボールを受け、コントロールしながら加速したり、止まった状態でパスを受けて突破を図るというプレーの細部において、いい時と悪い時の差が顕著だ。今年はうまくいかないことのほうが多いように感じられる。

【チームは得点力不足に悩む】

 それでも、10月6日のアトレティコ・マドリード戦(1−1)では、久保はここ数カ月で最高のプレーを見せた。「もし自分が打ったシュートのうちのどれかが決まっていたら、2024年を通じてのベストゲームになっただろう」と試合後のインタビューで認めていたほどだ。

 イエローカードが提示されるまでファウルを繰り返してきた元チームメイトのハビ・ガランやクレマン・ラングレにとって、久保は頭痛の種となった。

 しかし、彼がペナルティーエリアに近づいても、判断の悪さもあって実を結ばなかった。シュートは何度も枠を外し、カットインして左足でGKのニアポストを狙ったシーンは、好位置にいたヤン・オブラクにセーブされた。また、今季は多くのGKにその意図を読まれている。

 そのため、外からクロスをあげるシーンが何度かあったが、フィニッシャーを見つけられない。センターフォワードとしてフル出場したミケル・オヤルサバルは、久保のボールに合わせられなかった。

 ベンチにはオーリ・オスカルソンやウマル・サディクという、ラ・レアルがそれぞれクラブ史上最高額の2000万ユーロ(約32億円)で獲得したヘディングの強いストライカーがいたが、イマノルは投入を見送った。この決断はレアリスタ(レアル・ソシエダサポーター)の間で批判されている。

 アトレティコ戦を見てもわかるように、ラ・レアルは長い間、攻撃陣の得点力不足に悩まされている。チャンスを作るという点は多くの試合で問題になっておらず、複数得点が当たり前の時期もあった。

 しかし、特に最近は決定力不足を露呈している。もしボールを受ける選手の精度がもっと高ければ、久保、ブライス・メンデス、アンデル・バレネチェア、セルヒオ・ゴメスといった選手たちは、アシスト数をもっと伸ばせていたはずだ。

 こうして今季のラ・レアルと久保の出だしは低調だったが、両者は手を取り合って成長しており、緑の芽が見え始めている。クラブの誰もが、ラ・レアルは間もなくベストのレベルを取り戻すことができると確信しており、それは久保が攻撃のリーダーのひとりとして活躍した場合のみ可能となるだろう。

(郄橋智行●翻訳 translation by Takahashi Tomoyuki)