コロナ以降は「空気質」を重視する家庭も増え、パワフルな空気清浄機が求められてきました。ただし、空気清浄機はパワフルになるほど本体サイズが大きくなりがち。最近はデザイン性を重視した空気清浄機も増えていますが、それでも「家電感」「機械感」があることは否めません。

そんななか、空気清浄機のトップメーカーであるシャープが発表したのが、世界的建築家である隈研吾氏(隈研吾建築都市設計事務所)とコラボレーションし、本物の木材を使ったプラズマクラスター空気清浄機「FU-90KK」です。発売日は10月21日、希望小売価格は55万円です。

一見すると家電に見えない、本物の木材を使った上質なデザインが魅力のFU-90KK。ひとめで隈研吾氏が手掛けたとわかるアイコニックなデザイン。本体サイズは幅374×奥行374×高さ656mm、質量約14kg

新製品発表会に登壇した建築家の隈研吾氏。じつは家電デザインは今回がはじめてだそう

家電では通常使われない「本物の木材」を採用

FU-90KKの最大の特徴は、全体を木材で覆った特徴的なデザイン。本体上部の天板と側面を木製のカバーで囲むことで、360°どの方向から見ても「家電」と感じさせない見た目を実現しています。

縦格子が目立つ特徴的なデザインは、竹を割いて格子状に並べた建築意匠である簾虫籠(すむしこ)や障子など、日本の伝統意匠がモチーフ。一見すると行燈のような照明にもみえる見た目です。存在感のあるサイズですが、木製の格子のためか軽やかな印象があります

本体の足元を照らすフットライト機能も搭載。照明は消して使うことも可能。写真の本体右下に見える点状の明かりは空気清浄機への設置が義務付けられている動作ライト。家電として必要な機能も目立たないようデザインされています

本製品でとくに、目を引くのが本体側面を囲う格子。これは厚さ5mm×幅1cmの木材にさまざまな角度をつけて配置したもので、遠くから見たときに格子全体が「のっぺりとした面」に見えないよう、あえてランダムな角度で配置されています。また、木は色や木目などがすべて異なるため、木工職人が木の個性を考えたうえで一本一本配置する位置などを考えながら手作業で組み上げています。

上部の木材天板は本体に乗せているだけ。縦格子部分は一度手で押しこむとロックが外れ、つながっているチェーンを外せば格子パネルを丸ごと外せます

外装天板を外すと操作面がでてきます。「SHARP」やプラズマクラスターのロゴは天板を外すまで見えないうえ、ロゴ自体も小さく控えめ。国産メーカー製品でここまでロゴを目立たせない家電はかなりレアです

最近は温かみを感じる木目調デザインの家電も増えていますが、これらはあくまでも木目「調」。じつは樹脂などに木目を印刷したものがほとんどです。家電は精密な寸法精度が要求されるうえ、温度や湿度といった環境もユーザーによってそれぞれ。それに対して木は時間経過や湿度によってサイズが変化したり、反りなどの変形が起きやすい素材であるため家電とは相性が良くありません。そんなか、FU-90KKはあえて「本物の木材」にこだわり木目も美しいホワイトオーク材を採用。本物の木材なので経年による色変化なども楽しめます。





広い面をもつ天板はとくに反りが起きやすいパーツ。そこで、最終的に0.6mmの薄さに削り出した板を、木目方向を変えて6枚積層させています。本物の木を使うためにかなりの手間とコストをかけているのがわかります

本物の木材を採用したことで、じつは格子1本1本の色もすべて微妙に異なります。多くの木材から色の組み合わせを考えるのも職人によるもの

空気清浄機としてもしっかりパワフル

デザインが特徴の本製品ですが、シャープ空気清浄機だけあり空気清浄性能もしっかりしています。空気清浄機として特徴的なのが、1つのファンで両サイドから同時に吸引するWフィルター構造を採用していること。

本体の左右にそれぞれ吸気口とフィルターを配置しているため、外装で囲われているにもかかわらず空気清浄適用床面積は40畳、風量は強モードで8.7立方メートル/分と比較的パワフルです。

フィルターにはホコリなどを捕集するプレフィルターのほか、0.3μmの微小な粒子を99.97%以上捕集する静電HEPAフィルター、ニオイに対応するダブル脱臭フィルターという、3種類のフィルターを内蔵。もちろんシャープの除菌・除臭機能をもつ独自空気浄化技術「プラズマクラスター」も搭載しています。

写真は右側のフィルターを外した状態。左側にも同じフィルターがセットされています。本体両側から吸気するため、2台の空気清浄機が動いているような構造です

キレイにした空気は格子と天板の間から360°に排気します

静電HEPAフィルターとダブル脱臭フィルターの交換目安は約10年ですが、左右の格子カバー裏にある黒いスポンジ状のフィルターは約1カ月に1回交換する必要があります。シャープの一般的な空気清浄機よりメンテナンスの手間は増えそうです

運転モードは強(風量8.7m3/分)、中(風量5.1m3/分)、静音(風量2.2m3/分)のほか、部屋の状態にあわせて風量を自動調整するAUTOモードを搭載。本体で操作するには天面のカバーを外す必要がありますが、FU-90KKはスマートフォンからの操作ができるうえ、空気清浄機は基本的に365日24時間運転する家電なので「操作パネルが天板で隠れている」という点がデメリットになることはあまりなさそうです。

天板カバーを外すと露出する操作パネル。右から電源ボタン、無線ブタン、フットライトボタン、お手入れリセットボタン、風量ボタン。ボタンのデザインもかなりシンプルなので初見では操作に迷うかも

希望小売価格55万円という価格でもわかるように、FU-90KKはホテルやレストランなどの業務用途での使用を想定しています。とはいえ、いままでにないコンセプトの製品だけにインテリアにこだわりたい家庭でも需要はありそう。

実際、新製品発表会の短時間触っただけですが「本物の木」の質感や手触りの良さには、なんともいえない心地良さを感じました。そんなこだわりのある個人消費者のため、シャープは同社オンラインストアにて個人購入にも対応する予定とのこと。

価格とメンテナンスの手間が少し増えることを気にしなければ「インテリアを損なう家電は置きたくないけれど、パワフルな空気清浄機が欲しい」という贅沢な悩みに応えてくれる貴重な製品となってくれそうです。

新製品発表会に登壇した隈研吾氏。最初は「家電には多くの制約があるため、自分のデザインがそのまま活かされることはないだろう」と感じていたそうですが、シャープや木材加工に携わった岡粼木材工業の試行錯誤により、ほぼ思った形になり驚いたそう

発表会会場のミニバー前に設置されたFU-90KK。空気清浄機というよりオブジェのような佇まい

倉本春 くらもとはる 生活家電や美容家電、IoTガジェットなど、生活を便利にする製品が大好きな家電ライター。家電などを活用して、いかに生活の質をあげつつ、家事の手間をなくすかを研究するのが現在最大のテーマ。 この著者の記事一覧はこちら