記事のポイント

Xの広告事業は順調で、上位広告主の90%が支出を継続し、投資額も増加している。

広告主はイーロン・マスク氏の影響に不安を抱くも、広告効果が高いことを評価している。

XとGARMやWFAとの訴訟が広告主との関係を緊張させていることから、広告業界との対話が重要視されている。


大手広告主とXオーナーのイーロン・マスク氏の関係は、取引というよりもドラマだ。しかし、たとえそうであっても、大手広告主はXをまだ見限っていないようだ。

そうとでも考えなければ、9月17日にXのニューヨーク本社でまたも開かれたクライアントカウンシルに、80人ものマーケターが参加したことに説明がつかないだろう。このクライアントカウンシルは、いわばX版のアップフロントだ。広告主たちがそこに集い、Xに探りを入れて、まだそこに広告費を投入する価値があるのかを見極めようとするのだ──たとえそこに、危険な賭けになるような「ドラマ」があったとしても。

イーマーケター(eMarketer)でソーシャルメディアおよびクリエイターエコノミー部門のバイスプレジデント兼主席アナリストを務めるジャスミン・エンバーグ氏は、「支出の有無に関係なく、広告主全体に一種の好奇心が広がっているのではないだろうか。Xの状態はどうなのか、そこでどんな展開が起きているのかを確かめるために」と語る。なお、Xにもコメントを求めたが、回答は得られなかった。

広告主との対話が鍵に ヤッカリーノ氏が語るXの未来



今回のセッションに参加したある広告担当幹部によれば、ソファーと小さなテーブルのまわりに集まったのは、マクドナルド(McDonald’s)やファンデュエル(FanDuel)、レノボ(Lenovo)、NFL、NBA、WNBAなどのシニアマーケターだった。そのほかにも、ほかのスポーツリーグや大手ホールディンググループの代表もいたようだ。

彼らは、本社内のスペース「コモンズ(Commons)」で、若干高くなったステージに立ったXのCEO、リンダ・ヤッカリーノ氏の話に耳を傾けた。文化の大きな節目節目でオーディエンスとつながるブランドにとって「不可欠なプラットフォーム」──同氏はXをそのように位置付けた。このピッチは、もう何年も前からXの中核をなしている。しかし今回、ヤッカリーノ氏のそれが違ったのは、パリ五輪やWNBAの試合、米大統領選挙などのエンゲージメントデータへの言及がなかった点だ。同氏のメッセージは明確だった。どんな課題に直面しようとも、好むと好まざるとにかかわらず、Xはリアルタイムの会話を集める場所であり続ける、というものだ。そのピッチの随所には、いつものバズワードがちりばめられていた。同氏はXを「世界規模の町の広場」と呼び、いまや広告主をつなぎとめておくための基本要件となっている「ブランドセーフティ」について約束した。

前出の広告幹部によれば、ヤッカリーノ氏はこのクライアントカウンシルでの対話を「我々にとっても不可欠」と呼び、「広告主とつながる。広告主から学ぶ。広告主の言葉に耳を傾ける。そして、広告主のフィードバックを受け入れる。そうすることで、Xはよくなっていく」と述べたという。

Xの広告戦略を支える新メンバーたちと成長データ



一方、新しいところでは、マーケティング部門のグローバル責任者に新たに就任したアンジェラ・ゼペダ氏が紹介された。ヤッカリーノ氏に紹介されたゼペダ氏は、初お目見となるこの機会を利用して、ヤッカリーノ氏がすでに述べたメッセージをさらに強調した。同氏は、Xでの動画の視聴回数や月間アクティブ時間の増加に関するデータをよどみなく述べ、近々登場する決済関連の新機能や、採用に関する最新情報、XのAIツール「グロック(Grok)」の進展などについても触れた。

ゼペダ氏に続いたのは、Xのチームのほかの主要メンバーだった。コンテンツ部門トップのブレット・ワイツ氏。Xの広告主向けブランド戦略およびクリエイティブサービス部門、ネクスト[NEXT]のアレックス・ジョセフソン氏。エンジニアリング部門のシド・ラオ氏とエバン・ジョーンズ氏。ブランドセーフティ部門のカイリー・マクロバーツ氏とエバン・ジョーンズ氏といった面々だ。Xの広告ビジネスの現状についての考察で午前中を締めくくったのは、南北アメリカ地域担当責任者のモニーク・ピンタレリ氏だった。

前出の広告幹部によれば、ピンタレリ氏は次のように述べたという。「X広告主の上位100社(2023年現在)の約90%が、現在もXに支出している。また、上位100社の70%が前四半期比で、50%が前年比で支出額を増やしている」。

Xは好奇心をかき立てる存在



昼食を挟み、午後からは、同一フロア内の各個室でテーマごとのブレイクアウトセッションが行われた。前出の幹部によれば、たとえば「パートナーアウトカムを高める」や「Xにおけるコンテンツ」「ネクストがXにもたらすブレイクスルー」「エブリシングアプリになる」などのテーマが用意されていたという。

これだけの数のマーケターが参加したという事実が、すべてを物語っている。いくらの広告費をそこに投じるかはまだ固まっていないにせよ、Xは彼らの好奇心をかき立てているのだ。

しかし、その一方で、カンター(Kantar)が行った調査では、広告主の26%が来年はXに支出する広告費を切り詰めるつもりであるともいわれている。さらにはこの調査から、こんなこともわかっている。Xでの出稿はブランドにとって安全だと思うと回答したマーケターは、たったの4%だった。それに対して、Googleでの出稿にそう思うと回答したのは、39%だった。

Xでの出稿に不安を感じる理由として、公言されることが多いのはブランドセーフティだ。しかし、問題はこれだけではない。もしブランドセーフティだけが不安の種なら、広告業界のビッグネームたちがXのピッチを聞きに集まることはなかっただろう。結局のところ、ブランドセーフティは全プラットフォームに共通するリスクのひとつなのだから。

イーロン・マスク氏とXに対するマーケターの懸念



では、Xの何がほかとは違うのか、Xの何にマーケターは不快感を募らせているのかといえば、Xのオーナー、イーロン・マスク氏だ。多くのブランドは、Xをどう見ているかに関係なく、同氏のように評価が大きく分かれる人物を支持していると目されることを望んでいない。

エンバーグ氏は、「多くの広告主にとって、ブランドセーフティは不安の種のひとつだ。しかし、ブランドセーフティに勝る気がかりなことがひとつあるとするなら、それは広告の成果だ」と語る。「Xの広告は成果を上げている。Xに広告を出すことは、広告主にとって不可欠な投資だ。このことを広告主が納得してくれれば、いずれXは良い位置を占められるはずだ」。

いつものごとく、今回のイベントも、広告主とXのあいだに緊張が走るタイミングで行われた。XがGARM(責任あるメディアに向けた世界同盟)とWFA(世界広告主連盟)、CVSヘルス(CVS Health)、マース(Mars)、オーステッド(Ørsted)、ユニリーバ(Unilever)を反トラスト法違反で連邦裁判所に訴えたのは、8月のことだった。これにより、WFAはGARMの解散を余儀なくされた。広告主らはXの最新のピッチを聞きに本社に集まったわけだが、進行中の法廷闘争は無視できるものではなかった。ヤッカリーノ氏にとって、そのタイミングは理想とは程遠いものだが、広告業界との緊迫した関係は、Xにとってはもはや日常的なことになってしまっている。

[原文:X is on the hunt for more ad dollars at its latest client council meeting]

Krystal Scanlon(翻訳:ガリレオ、編集:戸田美子)