「大人が怒鳴ってばかり」 学童体験会で衝撃…子どもも違和感抱く“野球独特の指導”
「強い言葉での指導を考え直して」…全日本軟式野球連盟発信、他競技に学ぶ動画が話題
「野球界独特の指導法についてどう思っていますか?」。野球経験者であれば、少しドキッとする言葉で始まる「JSBB指導者啓発動画」をご存じだろうか。全日本軟式野球連盟が、少年野球界に根強い“押し付け指導”を見直してもらおうと、ジュニア育成における他競技の取り組みとして、ラグビーチームの指導現場を紹介したものだ。同連盟の公式サイトで公開後、学童野球関係者から多くの反響が寄せられ、その内容が注目を集めている。
同連盟がこの動画を制作したきっかけは、事務局長を務める吉岡大輔さんが、野球に興味を持った小学生の息子とその友人と共に学童野球チームの体験会に行った際、「どうして大人が怒鳴ってばかりいるの?」と子どもたちに質問されたことに始まる。
「私自身、幼い頃から野球をしてきたので、その場の違和感はありませんでした。そのチームの指導者も本当に怒っているわけではなく、声掛け程度にとらえていましたから。しかし、“野球独特の指導法”に慣れていない子たちにとっては、大きな衝撃だったようです」
結局2人は「野球は好きだけど、楽しくなさそう」と入部せず、他競技を続けているという。子どもも違和感を抱くような、野球界に根強い、強い言葉での“一方的指導”を改善できる方法はないか。そんな時に吉岡さんが出会ったのが、動画に協力してくれた、埼玉県さいたま市にある「ケヤキッズ大宮ラグビーフットボールクラブ」だ。
このチームでは、練習中に大声を張り上げてプレーを止め、選手を怒鳴る大人はいない。指導者のやることは、プレーへの称賛や励ましの声掛けがメインで、見つかった課題に対しても、子どもが主体となって相談し合うスタイルのため、周りで見守ることが日常だ。しかもそれは、ラグビー指導においてはごく一般的だという。
「失敗してよし。怪我につながったり人に迷惑をかけたりするような危険行為や言動以外、大人に怒られることはない環境が整っているんです。信頼関係が成り立っているから、子どもが自分の意見を言えて、子ども同士で教え合うことが自然とできていました」
「なぜ怒られたのかわからない」を生まない、子どもが納得できる指導を
動画内ではそれを象徴する印象的な場面がある。いくつかの質問に対し、意見を述べる小学生の選手たちは、それぞれが感じたことを飾らず自分の言葉で堂々と話している。予め登場する人選を行っていたわけでもなく、質問事項を伝えていたわけでもない。撮り直しも一切していないというから、さらに驚きだ。
ラグビーのような展開の速いスポーツの場合、試合中は監督の指示を聞く時間が取れないため、選手による瞬時の判断や、選手間のコミュニケーションが重要になる。一方で野球には試合中に“間”があり、監督がサインを出すスタイルを忠実に守ることが重視されるため、選手が自発的にアクションを起こすことは少ないという違いは、確かにある。
この動画を見て、「野球はトップダウン型の指導が一般的だから」「選手主体が理想なのはわかるが、ラグビーだからできるのでは?」といった、否定的な意見も一部で聞かれるという。
しかし、これからの時代に不可欠な子どもたちの“主体性”を伸ばす上で、競技が異なるだけで指導環境に大きな差があるのはおかしいのではないか。勝利を目指す上でも、指導者と選手双方のリスペクトの関係性があることが重要ではないかと、吉岡さんは考えている。
「動画を見た指導者が、子どもに自分の思いや経験則だけで伝えるだけではなく、指導にもたくさんの手法・ツールがあることを知ってもらいたい。他競技の指導法が少しでも参考になってくれればと考えています」
野球に真剣だからこそ、指導に熱が入る指導者も多い。しかし、理由を説明することもなくミスをした選手に大声で叱責する、勝ちにこだわりゲームの流れを作れるよう打席で1球ごとに指示を出す……。その“良かれ”が“行き過ぎ”につながり、暴言・暴力行為にもなって、子どもたちが次々と野球から離れてしまうことにもなりかねない。
「ノーサイン野球など、子どもたちに自由度のある時間を作ってみると、何かが変わるかもしれません。信じてあげることで、子どもは自然に成長していくはずです」と吉岡さん。取材の最後に、こう締めくくってくれた。「きれいごとで構わない。この動画が、指導者の皆さんの何か気づきにつながることを期待したいですね」。(吉田三鈴 / Misuzu Yoshida)