現在公開中の三谷幸喜監督最新作「スオミの話をしよう」で、変幻自在なキャラクターを好演している女優・長澤まさみ。映画、ドラマ、舞台と圧倒的な存在感と華やかさ、そして確かな演技で、日本映画界でも稀有な存在感を発揮している。そんな長澤が自身のポテンシャルを存分に発揮しているのが、福田雄一監督とタッグを組んだ映画「50回目のファーストキス」だ。

■長澤まさみのテンポの良い芝居を堪能!

瑠衣(長澤まさみ)と距離を縮める努力をする大輔(山田孝之)

(C)2018『50回目のファーストキス』製作委員会

本作で長澤が演じているのは、山田孝之演じるハワイ在住の大人気旅行コーディネイター弓削大輔が、カフェで一目惚れしてしまう美術講師・藤島瑠衣。彼女は交通事故にあい、その後遺症で交通事故前の記憶はあるものの、その後は寝てしまうと記憶を失ってしまう短期記憶障害に悩まされる女性だ。そんな彼女に一目惚れしてしまった大輔は、あらゆる手段を使って瑠衣の忘れてしまう記憶のなかに自分をとどめるような努力をする。

こうしたストーリーだけを追うと、メロドラマ的な要素に感じるかもしれないが、そこは数々のコメディ作品を世に送り出してきた福田雄一監督作品。瑠衣にもその境遇からセンチメンタルなシーンはあるものの、作品のテイスト的にはコメディエンヌとしての資質が求められている場面も多い。

(C)2018『50回目のファーストキス』製作委員会

長澤と言えば、第5回東宝シンデレラオーディションでグランプリを獲得し芸能界デビュー後、爽やかな笑顔と健康的なルックスでファンを魅了。特に2004年に公開され、興行収入85億円を記録した映画「世界の中心で、愛をさけぶ」では、白血病におかされてしまった、儚くも健気で瑞々しい少女を好演し、強く"清純派"女優としてのイメージを植え付けた。

しかし、作品を重ねるごとに役柄の幅を広げ、2011年公開の映画「モテキ」で、コミカルかつ陽のキャラクターを好演すると、2015年公開の「海街diary」でのやや斜に構えた役、2016年公開の「アイアムアヒーロー」の弾けた感じと、作品ごとに新たな一面を見せるようになった。

そしてコメディエンヌとしての長澤を大きく世に知らしめたのが、2018年4月期の連続ドラマ「コンフィデンスマンJP」で演じたダー子だろう。本作は「コンフィデンスマンJP」の放送2か月後の公開だが、撮影は本作のほうが先であるあるためコメディエンヌとして花開く直前の長澤の演技を見ることができる非常に貴重な作品となっている。

■福田組の個性派俳優が勢ぞろい!

また、長澤を取り巻くキャスト陣も非常に豪華だ。障害にもめげず、強い愛で瑠衣を支えようとする大輔役の山田の緩急の効いた芝居は言うまでもなく、瑠衣の父親役の佐藤二朗、大輔の友人であるウーラ山崎役のムロツヨシの福田組・風神雷神コンビの安定感は抜群。

そのなかでも、飛び道具的な役割を担ったのが、瑠衣の弟・慎太郎役の太賀だ。太賀と言えば、いま最も映像界で信頼のおける俳優で、名クリエイターたちから引っ張りだこの存在だが、本作では、姉を献身的に支える弟というセンチメンタルな立ち位置ながら、常に予定調和を壊すキャラクターをフルスロットルで演じている。

全体的にはコミカルでありつつも、純愛を描いた福田雄一監督。本作は2005年に、アダム・サンドラーとドリュー・バリモアで、映画化された作品のリメイクとなっているが、テーマは同じながらも、山田と長澤のコンビで新たなロマンティック・ラブコメに仕上がっている。

本作のあと、長澤はさらにギアが上がり、映画「MOTHER マザー」(2020年)やドラマ「エルピス-希望、あるいは災い-」(2022年)などで、ガラリと違う役を演じ引き出しの多さを見せつけた。すでに日本映画界を引っ張るような俳優としての地位を着々と築いている。

そんな彼女の、シリアスとコミカルのバランスが取れたキャラクターが堪能できる作品だ。

文=磯部正和

放送情報【スカパー!】

50回目のファーストキス(2018)
放送日時:10月6日(日)19:00〜
放送チャンネル:WOWOWシネマ
※放送スケジュールは変更になる場合があります

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