趣のある築150年のお屋敷。しかし、中には何十年前からそこにあったのかもわからない大型家具やゴミなどでいっぱいだった(画像:「イーブイ片付けチャンネル」より)

一見、押し入れのように見えるふすまを開けると、そこには急勾配の狭い階段があった。身をかがめて登ると、上には屋根裏の大空間が広がっている。

大阪府郊外にある築約150年の忍者屋敷のような家。4世代分のゴミが溜まった部屋に一人で住んでいたのは、90歳を超える高齢の男性だった。

本連載では、さまざまな事情を抱え「ゴミ屋敷」となってしまった家に暮らす人たちの“孤独”と、片付けの先に見いだした“希望”に焦点をあてる。

ゴミ屋敷・不用品回収の専門業者「イーブイ」(大阪府)を営み、YouTube「イーブイ片付けチャンネル」で多くの事例を配信する二見文直社長に、“広すぎる”ゴミ屋敷清掃の顛末を聞いた。

動画:娘から父に大掃除のプレゼント「築150年 片付けを通して思い出の歴史をたどる」前編

   「父が断捨離出来るか心配」片付け中止になりそうも娘が説得 後編

4世代分のゴミが溜まる忍者屋敷

大阪府の某郊外――。駅から離れた場所にある住宅街を進むと、塀で四方を囲んだ瓦屋根のお屋敷がある。外から中の様子をうかがい知ることはできないが、敷地に足を踏み入れるとすぐにこの屋敷が抱えている問題が見えてくる。

中庭の先に見える納屋がゴミやモノであふれているのだ。築約150年という古い家とあって、母屋には土間がある。そして、台所と4つの和室。生ゴミといった生活ゴミの類いはないものの、広い屋敷の中もゴミやモノでいっぱいになっていた。


母家と離れ、納屋がある広い邸宅(写真:「イーブイ片付けチャンネル」より)


中庭の一角にあるスペースには山のようにモノが積み上がる(写真:「イーブイ片付けチャンネル」より)

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この家で生まれ育った90代の男性は、働きに出た後、今から20年前に再びこの屋敷へ戻ってきた。男性の両親もこの家で生まれ育ち、亡くなるまで暮らしていたという。

今回、イーブイに依頼をした男性の娘まで入れると、実に4世代分のゴミやモノが溜まっていることになる。現場にいた二見氏も、「この家はホンマにモノの量が尋常ではなかったです」と振り返る。なぜ、これほどまでに物量が増えてしまったのか。

「自分がこの家に戻ったときに、古いモノは捨ててしまえばよかったんだけど、家が広いもんだから“押し込め、押し込め”というふうになってしまったんです。そのとき方々に住んでいた兄弟たちの家も狭くてね。『荷物を置く場所がないから、置いておいてくれ』と言うもんだから、さらに量が増えてしまった」(住人の男性)

納屋に押し込まれているモノはほとんどが不要品だ。かろうじて手前にあるモノには手が届くが、奥にあるモノに関してはもう何十年も放置されたままだ。男性ですら一体何が眠っているのかわからない。

納屋のとなりにある2階建ての離れは、床にもホコリがかぶっていて、長年使われていないようだ。1階、2階ともに、使わなくなった大型家具がホコリをかぶった状態で並べられている。


離れの1階の様子と間取り(写真:「イーブイ片付けチャンネル」より)


離れの2階には大型家具が詰め込まれている(写真:「イーブイ片付けチャンネル」より)

「隠し扉」の先にあったもの

玄関の扉を開けて家に入ると、土間には土のかぶった壺やスーパーマーケットのカゴが積み上がっていて、その中にも不用品が投げ入れられている。台所には大きな食器棚が3つ。そのぶん使っていない食器類も相当な量で、おせち用の食器まで一式しっかり揃っている。

和室はふすまで仕切られていて、すべて開放するとかなり広い空間になる。布団や座布団の数がとにかく多く、ちょっとした旅館くらいある。

作業を進めていると餅つき器まで発見した。昔は親戚中がこの屋敷に集まって、正月などのイベントごとを祝っていたという。しかし、今はその機会もすっかりなくなり、モノだけが残ってしまった。


母家の1階にある和室の様子と間取り(写真:「イーブイ片付けチャンネル」より)

もっとも奥にある和室に、一見、押し入れのように見えるふすまがある。開けるとそこには急勾配の狭い階段がある。身をかがめて登ると、上には屋根裏の大空間が広がっていた。作業に同席していた娘が、高齢のため屋根裏に登れない父に代わって説明してくれた。


一見、押し入れのようだが……(写真:「イーブイ片付けチャンネル」より)


屋根裏に続く階段が出現! 忍者屋敷の隠し扉のようだ(写真:「イーブイ片付けチャンネル」より)

「戦争(太平洋戦争)のときに避難してきた親戚もここに住んだことがあるんですよ。だから前は物置ではなくて、人が住んでいたところなんです」

今は大型の棚やタンス、古い家具家電、ダンボール、不用品などの物置になっている。中には「昭和3年」と書かれた木箱まであった。西暦になおせば1928年。捨てづらいのはわかるが、古いだけではモノに価値はつかない。

それにしても、これだけのモノを一体どうやって屋根裏に運んだのだろうか。どう考えても、棚やタンスは隠し扉の先にある狭い階段には入りっこない。

すると、「私も最近まで知らなかったんですが……」と、男性が不用品の入ったダンボール箱の下を指さす。どかしてみると床が四角の形に外れるようになっていて、そこからヒモを吊るしてモノを搬入していたそうだ。


屋根裏はモノでいっぱいだった(写真:「イーブイ片付けチャンネル」より)


反対側には大型家具もどっさり(写真:「イーブイ片付けチャンネル」より)

片付けたくても片付ける術がなかった

現場に入ったスタッフは7名。屋根裏は上に2人、下に2人の計4人で、ヒモを吊るして家具を1階に下ろしていく。1日だけではすべてトラックに積み込むことができず、作業は2日目に突入した。

これだけ大量のモノがあれば、高齢の男性一人だけではどうすることもできなかったことは容易に想像がつく。何かきっかけがないことには手をつけられないほどの物量だが、思い切って片付けるに至った理由は何だったのだろう。

娘に説得される形で片付けることになったという男性が話す。

「私の健康状態が気になったし、歳も歳ですしね。もうこの際、やっておかないと。長年生まれ育った家なので古いものがそれなりにあるのはわかっているもんですから。子どもの世代になったときに片付けるのも大変だということで、片付けることにしました」


屋根裏の床の一部を外すと……(写真:「イーブイ片付けチャンネル」より)


驚くことに階下につながる入り口が現れた(写真:「イーブイ片付けチャンネル」より)

はじめは乗り気じゃなかった男性も、見て見ぬフリをできる物量ではないことに気づいてはいたのだ。これだけ大きな屋敷では借り手もつかない。子どもに相続するとなったら、売りに出すしかないだろう。しかし、この残置物の量では娘に迷惑をかけてしまう。

「私の親父も整理したかったんじゃないか」

男性は運び出されていくモノたちを見ながらそう言った。しかし、片付けたくても片付ける術がなかったのではないか。それは、ゴミ屋敷清掃という職業が今ほど普及していなかったし、認知もされていなかったからだ。


大型家具もこの隠し扉から運び出していく(写真:「イーブイ片付けチャンネル」より)

世の中にゴミ屋敷が増えた理由

高齢化、単身世帯の増加、共働き夫婦の増加などによってゴミ屋敷清掃の需要は年々高まってきているが、二見氏によればそこにはもうひとつ大きな要因があったという。


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「自治体によって時期は違うんですが、粗大ゴミの処分が有料化されたことでゴミ屋敷やモノ屋敷は一気に増えたはずです。昔は粗大ゴミの日にゴミ捨て場に出しておけば回収してくれましたが、今は自治体が指定するシールを購入して、貼って……と、工程が増えたうえにお金までかかるようになりました」

多忙で粗大ゴミを捨てる暇がない人もいれば、「手続き」というものが極端に苦手な人もいる。月々の支払いをつい先延ばしにし、口座振替の手続きも怠ってしまい、そのうち催促状が届き、それでも見なかったことにしてしまった経験はないだろうか。

そうして、粗大ゴミが捨てられなくなってしまった人が増え、ゴミ屋敷清掃の需要が高まった側面もあるのだ。

2日目の作業が終わり、ゴミとモノであふれた屋敷は見違えるようにスッキリした。

「ちょっと寂しいし、ほっとするし、昔のことを思い出す。どっちの感情もある」(男性)

3世代にわたって望んできた家の姿に、ようやく戻った瞬間だった。


荷物がすべて“隠し扉”から運び出され、綺麗になった屋根裏(写真:「イーブイ片付けチャンネル」より)


モノだけでスペースが埋まってしまっていた離れもスッキリ(写真:「イーブイ片付けチャンネル」より)

【写真】「こんなところに?」謎の隠し扉の先にあったもの…広すぎるゴミ屋敷がスッキリ綺麗になった!【ビフォーアフターを見る】(47枚)

(國友 公司 : ルポライター)