高齢ドライバーによる逆走事故がいま、社会問題となっています。今年の8月には栃木県の東北自動車道で69歳の男性が逆走し、2人が死亡する痛ましい事故が。さらに、その2週間後には80代の男性が東海環状道を愛知県から岐阜県まで30km以上にわたって逆走するという信じられない事案も起こっています。現在、2日に一度は起こる逆走事故。NEXCOの発表によると2023年に起こった高速道路の逆走は224件、その7割が65歳以上の高齢ドライバーです。もし高齢の家族が逆走してしまったらどうすればいいのか? また、もし自分が助手席に乗っていた場合はどう対処すればいいのか? NPO法人 高齢者安全運転支援研究会に逆走のメカニズムと対策を聞きました。

高齢者逆走の原因は「過信」と「衰え」

「加齢とともに、運転に必要な身体能力と判断能力は徐々に衰えていきます。人によって程度に差はありますが、能力の低下は確実に起こります。これは生き物として自然なことですし、避けることはできません。この「衰え」を自覚できなかったり、自分はまだ大丈夫と思ってしまう「裏づけのない自信」が、逆走に限らず、多くの高齢者による事故の特徴的な要因です」(以下、すべてNPO法人 高齢者安全運転支援研究会)

では、この「衰え」が、どうやって逆走につながっていくのでしょうか。

「信号や標識などの視覚情報を脳で処理しながら手足で自動車を操ることは、年をとればとるほど難しくなっていきます。とくに高速道路の出入口や接続点付近などは車線も複雑で標識も多く、なおさら間違いやすい鬼門にあたります。現に、逆走の約6割がインターチェンジおよびジャンクションで発生しているといわれています。ここで道路標識の情報を認識しきれず高速出口に進入し、そのまま気づかず逆走してしまったり、本来は上り線に乗るつもりが誤って下り線に入ってしまい、無理やり元に戻ろうとして逆走にいたってしまうケースがよく見られます」

小さなミスが大きな事故につながる

こういった逆走を防ぐにはどうしたらよいのでしょうか。

「私たちもふだんから安全運転講習会などで高齢ドライバーの方々と触れ合っていますが、体感として、せっかちな方が非常に多く、とくに男性はプライドを高く持ってしまう方も多く見受けられます。せっかちでは判断ミスももちろん増えますし、プライドの高さゆえ、そのミスを認めることができず開き直ってミス自体を無かったかのようにふるまったり、言い訳をして取り繕ってしまいがちです。開き直りや取り繕う時間が増えれば増えるほど、小さなミスが大きな事故につながる可能性も高まりますし、起こってしまった事故の被害もより深刻になっていきます。ですから、普段から『自分も間違えることはある』『心身の能力が衰えていくのはしかたない』という自覚をもって運転に望むのがいちばんの逆走防止の心がけになります」

逆走してしまったときの対処法

反対方向の高速道路に乗ってしまったとき、その場でUターンして逆走をしてしまうケースも多々あると聞きますが、そのときはどう対処すればよいのでしょうか。

「目的地と逆方向の高速に乗ってしまったら、そのまま次のインターまで行ってください。次のインターの料金所で係の人に相談すれば、きちんと目的の方向に誘導してくれますし、料金も余計にはかかりません」

助手席にいる人も決して焦らず、「次のインターまで行こう」と言ってあげましょう。また、このときに運転者の方を決して責めないでください。

では、実際に逆走をしてしまったらどう対処すればよいのでしょうか。

「逆走に気づいたり、逆走をしているかも知れないと思ったら、まずはそれを認めて落ち着いてください。助手席にいる方も一緒にパニックにならないよう落ち着いてください。そして、絶対に運転者を責めないでください。世のなかには逆走していることにまったく気づかない高齢ドライバーも数多くいます。気づいた時点で早めに対処できればできるほど事故の可能性は低まります。そして、気づいたらまず近くの安全な場所に停車し、ハザードランプを点灯して車が止まっていることをほかの車に知らせてください。停車したら自動車から離れ、ガードレールの外などに退避してください。その後に近くの非常電話や自分の携帯電話から110番通報をします」

運転技能検査でもチェック!逆走を防ぐ運転習慣のすすめ

自らの衰えを自覚してその能力に合わせた運転をするのがいちばんのようですが、普段より習慣にするとよい逆走防止運転のポイントはなんでしょうか。

「逆走を防ぐために推奨している運転習慣は以下の2つです。

1:キープレフト(左端走行)・右折より左折を

2:Uターン禁止

高齢ドライバーにとって、右折のハードルは年々上がっていきます。それは、左折に比べて右折時はやることが格段に多いからです。高齢者が運転免許の更新時に受検することもある運転技能検査においても、右折は減点になりやすい課題の1つです。さらに、一般道では右折時に進入する車線を間違え、逆走に至るケースも多く見受けられます。ですので、目的地までなるべく左折が多い道筋を選び、なるべく道路の左端を走行するのが高速道路・一般道を問わず逆走や事故を防ぐポイントです。極端な話、左折だけでも目的地にほぼ到着します。最近のカーナビでは設定で左折優先の「運転しやすいルート」を選ぶこともできます。ぜひ活用してみてください。

また、高齢ドライバーはUターンを極力回避しましょう。ついついものぐさになって、ちょっとした進路変更でもせっかちにUターンをしてしまうと、逆走や事故につながりやすくなります。急がば回れの精神で右折やUターンをなるべく避けましょう。とくに高速道路ではもってのほかで、本線への合流でもUターンにならないよう注意が必要です。逆にいえば、右折とUターンさえしなければ、逆走にはほぼつながらないのです」

高齢者が自身の判断能力や身体能力を自覚し、能力に合わせた運転をこころがけるのが肝心です。ぜひ、高齢のご家族にも教えてあげてください。