ESSEonlineが注目する60代のひとり暮らし。YouTubeチャンネル「bonbons」で小さく暮らす方法を発信している60代のナツさんは、30代で離婚してひとり暮らしに。50代後半になって正社員を辞めて気持ちも体もラクになったといいます。暮らしを小さく、ラクにするコツについて伺いました。

仕事:細く長く働くために50代で転職へ

歳を重ねてみて、体力、気力が驚くほど衰えました。40代半ばあたりから、ムリをすれば不調も一緒についてくる体質に。にも関わらず、若い頃と同じ働き方でだましだましがんばり続けていたら、案の定、限界が…。

【写真】朝日がさんさんと注ぐリビング。都内の物件では叶えられなかった暮らしです

そんなわけで、50代後半以降は、仕事と暮らしの負荷を軽くして、細く長く生きる練習を始めました。

●積み上げてきた仕事を手放したら気持ちがラクに

やっぱり限界、もう無理。56歳になる夏、私は長年続けてきたウェブ業界の仕事を、やっと辞めました。やっと、というのは、既に5年も6年も前から考えていたことだったから。

進化スピード爆速のネット業界、関連事業に携われば、日々知識を更新し続けるのも仕事。常に新しい領域で働くことは、刺激的ではあるものの、十分な体力と気力が必要です。同業界で何度か転職を重ねてたどり着いた会社も、長時間労働や持ち帰り仕事で土日もないことも珍しくありませんでした。

「いつまで続けるつもりなんだ」と自問自答は毎日のように続きます。一方で積み上げてきた職歴、悪くはない給料、正社員という立場を手放すこともできず、悶々としながらも、ずるずると辞められずにいました。

気づけば、好きなことにも興味がなくなり、なにを食べたいとも思えず、目の前に映る街路樹も空も街も、色が抜けてしまったよう。私、生きていないみたい…。このときやっと、もういいやと思いきれた気がします。

●50代後半からの派遣は思ったほど悪くなかった

56歳無職。さて、これからどうする。次こそは、体力、気力を振り絞らずとも、細く長く働ける職種を。できれば事務職とか…。方向性は明確だが、自分の経歴をさかのぼれば、数年の営業職と、販促業務やウェブ関連の制作のみ。50代、未経験での事務職、これは圧倒的に不利、というか無理です。

ここは、多くを望まずが吉。そう自分に言い聞かせ、非正規、勤務場所、時間、なんなら少々クセのある職場もOK領域に設定。とりあえず、ハローワークで失業登録をしつつ、なるべく早いうちに職を得ようと思い、就活を始めました。精神の安定を確保するためにも。

数社、派遣会社に登録をし、エントリーしてはスルーされること数十回。ある日、急募(だれでも採用モード)の事務職に引っかかりました。3か月更新の契約でしたが、1年以上の長期雇用前提という条件。それが一般的なのか否かも分からぬまま、さっそく働いてみることに。

仕事内容が決まっていて、定時に帰れて、多少の残業はあれど、土日祝日は完全休み。派遣契約での事務の仕事は、私にとっては最高にホワイトでした。もちろん、給料が少ないのは承知のうえ。それよりも、細く長く働き続ける希望の入口に立てた気がして、ホッとしたのです。

それに、うれしいおまけも。失業保険給付前に就職したことで、就職お祝い金がいただけました。就職条件が合えば、正規も非正規も給付対象になるのは、なんてすばらしい仕組みなのでしょう。もっともそれは、ずっと雇用保険を納めている、当然の権利ではあるのだけれど。

住まい:都内から郊外へ、収入に見合った暮らしに

派遣社員になり、時間に余裕がもてるようになったものの、収入は前職よりも大幅ダウン。そうでなくとも賃貸ひとり暮らしの身、早急に現収入に見合う収支設計を見直す必要がありました。

そこでまずは、いちばん大きな固定費の削減から。それまで住んでいた都内から、通勤が可能な郊外へ引っ越しました。

●家賃を下げて、年間60万円のコストダウンを実現

都内まで電車で30分、最寄り駅から徒歩12分、5階建て住宅の3階角部屋。築30年を超えた古い賃貸物件にあきがあり、即、入居の契約を進めました。内見したとき、リフォーム済で清潔な感じがしたし、なにより、それまで暮らしていた都内の物件よりやや広くなって、家賃が5万円安かったというのが決め手に。

エレベーターがないというのは気になったけれど、そこはお手頃賃料を実現する、チャームポイントともいえます。実際、エレベーターつきの物件は、1階でも相場が1万円程高くなる傾向に(私調べ)。

そもそも古い賃貸物件につき、終の棲家にはなり得ないし、今回は細く長く働きつつ、小さく暮らす一歩を踏み出すことが目的。家計の見直しには、申し分ない部屋でした。

それに年間60万円のコストダウンは、大きな成果。稼がなくちゃ、がんばらなくちゃの緊張を大いにゆるめてくれる、ありがたい要素にもなりました。

●郊外で気づいた「陽当たり」という贅沢

現在の部屋に引っ越してきて予想外によかったことは、窓がたくさんあって、室内に陽がたっぷり注がれることでした。早朝と夕方はリビングに、お昼から午後にかけては寝室兼PC作業部屋に。晴れていれば、日中は自然光のみで十分明るく過ごせます。

過去に7回の引越しをしていますが、ここまで陽当たりのいい部屋に巡り合ったことはありません。過去イチ安い物件に秘めたサプライズ、大拍手です。

思えば、新築のきれいで狭い部屋も、築浅の設備が整った部屋も、交通の便が抜群の都内の部屋も、窓が一方向なら、陽当たりは時間限定の恩恵にとどまるところ。人気の南向きの物件とても同じです。となると、なんという贅沢を手にしているのだろう、と改めて思えます。

郊外の部屋、小さな暮らしの第一歩で見つけた、陽当たりという最高の贅沢。安上がりで魅力的ななにかは、ほかにもあるかもしれません。暮らしながら見つけていけたらと思います。