心地よい関係を作るために大切な<言わない知性>とは?商談中、プライベートの電話に出るのは自己顕示欲丸出しの行為で…
内閣府が令和5年に行った「国民生活に関する世論調査」によると、60〜69歳の人が最も多く答えた悩み・不安の内容は「老後の生活設計について」だったそう。しかし「60代になったからといって『それらしく振る舞わなきゃ』と行動を制限する必要はない」と語るのは、SNSのフォロワーが10万人を超える71歳のプロダクトデザイナー・秋田道夫さん。今回は、秋田さんの著書『60歳からの人生デザイン - 手ぶらで、笑顔で、機嫌よく過ごすための美学』から、60歳から毎日を機嫌よく過ごすための生き方を一部ご紹介します。
【書影】毎日が「腑に落ちた日常」に変わる、最高にポジティブな60点主義のススメ。秋田道夫『60歳からの人生デザイン - 手ぶらで、笑顔で、機嫌よく過ごすための美学』
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言わない知性
友人(親しい知人、家族)との約束は、仕事の約束より大切です。
逆に言うと「仕事よりも大切に思える友人」と付き合うことです。(わたしには、ふた回り以上年下の尊敬すべき友人もいます)
たとえ繁忙期でも、突発的に忙しくなった時でも。友人との約束を優先できるよう、日頃から仕事に励んでおくべきです。
「求められているレベル以上の仕事」を重ねて信頼を高めておき、突然のお誘いにも喜んで応じられるようにしたいものです。
わたしは「友人を大事にしない人」については、少し警戒をしています。
たとえば、商談中にかかってきたプライベートの電話に「今、打ち合わせ中だから」と言ってしまう人、いるでしょう。あれは、言い訳でも優しさでもなく、ある種の傲慢さの表れのようにも思えます。
「打ち合わせ中だから」という“仕事を盾にした言い訳”をするところに、「自分は活躍をしていて偉いのだ」というマウンティング的なもの、自己顕示欲のようなものを感じてしまうのです。
本当に会話をしにくい状況ならば、着信に気づいても出ないほうがまだマシです。そしてあとから折り返す。そのほうがよほどスマートですし、相手も周りも不快になりません。
そもそも「打ち合わせ」という仕事を盾に言い訳をする人に、いい仕事ができるわけがありません。だって人の気持ちの機微に疎いわけですから……。
「今、打ち合わせ中だから」なんて言い訳は、言葉の無駄です。「言わない知性」、こんな概念を広めたいですね。
いつの時代も求められる「節度」
前向きな思いもネガティブな思いも、すべてを話す。
把握している情報の、すべてを話す。
こんな「すべてを開けっ広げに伝える」という姿勢に、わたしは懐疑的でいます。
言わなくていいことは、言わない。
伝えなくていいことは、伝えない。
話さなくていいことは、話さない。
その塩梅(あんばい)は難しいところですが、いつの時代も“節度”のようなものが求められている気がします。
余計なひとことが引き起こす事態
その理由にはいろいろあります。
1つ目の理由は「相手を傷つけたり、不安にさせたり、気分を害したりしてしまう可能性があるから」です。
(写真はイメージ。写真提供:Photo AC)
余計なひとことが、相手を無用の詮索に向かわせたりすることもあるでしょう。
そんな事態を未然に防ぐため、沈黙が“金”になるわけです。
たとえばわたしは、打ち合わせの席上で大抵のミスは指摘しません。その場に居合わせた人の、誰も幸せになりません。大事なのは話の流れでしょう。
また「話をする人が気兼ねなく思いを話せる空気」にしたいという思いもあります。よほどの間違いでなければ修正は打ち合わせの後でもできますし、ほとんどの場合本人が気づきますから。
2つ目の理由は「相手の成長を阻む可能性があるから」です。
これは、わが子や部下など「誰かを“育てる”際に当てはまるケース」です。
相手が問題や謎を解こうとしているのに、正答を提示してしまっては、いつまで経っても解法は身につきません。
相手に仮説を立てさせ、その検証を試みてもらうためにも「あえて答えは保留する」というわけです。
「言わない」という知性
3つ目の理由は「すでに関係が温かいから」です。
極端な話、よい関係が築けていれば、会話自体が“蛇足”な場合もあります。
そんな沈黙が温かい関係を「親しい間柄」と呼ぶのでしょう。
ですが、それに気づかない人も多いもの。たとえば「間が持たないのは困る」とばかりに適当な話題を口にし続け、最終的に余計なことに触れてしまう……。
そんなコミュニケーションは、非常に惜しいと思いませんか。
言う価値より、言わない価値。「言わない」という知性もあるのです。
いずれにせよ、相手の洞察力や読解力を信用して委ねることです。「言わない知性」とは、「相手を信頼できるという知性」です。
※本稿は、『60歳からの人生デザイン - 手ぶらで、笑顔で、機嫌よく過ごすための美学』(ワニブックス)の一部を再編集したものです。