平手友梨奈「事務所社長から拘束」プロモの危うさ
女優の平手友梨奈さんをめぐるSNS投稿が話題になっている(写真:平手友梨奈さんのXより)
アイドルグループ「欅坂46」の元メンバーで、女優の平手友梨奈さんをめぐるSNS投稿が話題になっている。所属事務所と契約終了となり、その去就が注目されるなか、別の芸能事務所の社長が、平手さんを「拘束」したと、写真付きのSNS投稿を行った。
筆者はネットメディア編集者として、これまで幾多もの「匂わせ投稿」を見てきた。その感覚からすると、短期的なインパクトを与えても、中長期的なブランディングには寄与せず、むしろネガティブイメージが作り出されてしまうのではと心配になる。
そこで今回は、投稿内容や、そこに至る背景を振り返りつつ、なぜ得策ではないのかを考察したい。
「拘束」という表現と、体を縛り付けられている写真
まずは平手さんのプロフィールを見てみよう。
2015年から「欅坂46」1期生として活動し、グループで「NHK紅白歌合戦」に出場するなどの活躍を経て、2020年に脱退、ソロ活動へ転身した。その後は女優活動を中心に、2021年の「ドラゴン桜」(TBS系)、2022年の「六本木クラス」(テレビ朝日系)などのドラマに出演。2022年末に前所属事務所である「NAECO(ネイコ)」へ移籍する。
NAECOは、韓国の芸能事務所「HYBE(ハイブ)」の日本法人傘下にある。HYBE系列のアーティストには「BTS」や「LE SSERAFIM」「NewJeans」といった昨今のK-POP人気を引っ張るグループがいるため、平手さんの世界展開を期待したファンは少なくない。
しかし2024年8月8日、NAECOは平手さんとの専属契約終了を発表し、「弊社は新たな環境での飛躍を引き続き応援して参りたいと存じますので、皆さまにおかれましてもこれまで以上のご声援を賜れますと幸いです」と呼びかけた。
そんな平手さんの「今後」に注目が集まるなか、話題になったのが、芸能事務所「クラウドナイン」社長の千木良卓也氏による8月16日のX投稿だ。
「私が知る平手友梨奈は待ち合わせの10分前には必ずいるし、他人を大切に出来る子です。ただ、今後を考えドタキャンされたら困るので拘束しておきました。彼女はいま健やかに拘束されながら次の準備をしていますので、もうしばらくお待ちください」(千木良氏のXポストより)
この投稿には、写真も添えられている。白い壁に囲まれた、部屋の隅で、白い服に身を包んだ平手さんが、首と胴体をベルトで縛られている。平手さんはいすに腰掛けているようだが、両手は袋で覆われ、その表情はどこか諦めを帯びているような印象を受ける。
(写真:千木良氏のXより)
クラウドナインは、「歌い手」のAdoさんをはじめ、アーティストを多く抱える事務所だ。そんな新進気鋭のプロダクションを率いる千木良氏の投稿とあって、クラウドナインを新天地とするのではないかとの予想が続出した。
一方で、「拘束」という表現と、実際に体を縛り付けられている写真が掲載されていたことから、プロモーションとしては「やりすぎなのでは」といった指摘も相次いだ。
本人のインスタグラムにも「拘束」写真
臆測が広がるなか、8月20日、平手さんのインスタグラムに、いすに座り「拘束」されている様子の写真が投稿された。
斜め下を見つめる平手さんは、舌を出しており、千木良氏のX投稿とは、同じシチュエーションながら、別ショットである。
(写真:平手友梨奈さんのインスタグラムより)
そして8月28日には、平手さんのXに1枚の写真が投稿された。そこには、ベルトが結ばれている1脚のいすが写る。この写真だけを見れば、何のことやらといった印象だが、これまでの経緯と照らせば、対をなすようなものと思える。
(写真:平手友梨奈さんのXより)
インスタもXも、文章なしの写真単体で投稿された。しかしNAECOを離れてから、初となるSNS投稿とあって、「拘束から解き放たれた」と考えるファンの期待は高まっている。しかしながら8月30日午前時点で、クラウドナイン社の公式サイトには、平手さんが所属したとの情報は載っていない。
ここまで触れてきた経緯からすると、千木良氏と平手さん、どちらのXポストも「事務所移籍の匂わせ投稿」と考えられる。こうした「匂わせ」を駆使したプロモーションは、情報を小出しにするティザー広告の一環として、しばしば見られるものだ。しかし、今回については、あまり得策ではないと考える。
まずは文面から考えたい。千木良氏の投稿は「待ち合わせの10分前に必ずいる」「他人を大切に出来る子」と持ち上げつつも、「ドタキャンされたら困る」ため拘束したとしている。これまで一部週刊誌などの報道では、平手さんに遅刻やドタキャンといった傾向があると伝えられていた。
それを真っ向から否定する内容であるが、これによりプライドを傷つけられた各メディアが、さらなるスキャンダルを暴こうとする可能性もある。リスクを負ってまで、わざわざにケンカを売る必要があったのか、というのが、第一の疑問だ。
ネタ画像だとしても「不謹慎」指摘の恐れアリ
続く疑問が、「拘束」という表現だ。事務所社長の発言とあって、(あくまで所属発表前にせよ)タレントを「所有物」と扱っているのではないか、といった懸念が出てくる可能性はある。芸能ビジネスをめぐる、人々の目はここ数年で、極めて厳しくなっている。
とくに人権面においては、旧ジャニーズ事務所での性加害問題が話題になって以降、抵抗感も大きい。もちろん、一連の写真は「ネタ画像」であろう。しかしながら、「ネタであってもNG」「不謹慎だ」とツッコミの余地が生まれた瞬間、向けられる視線は鋭くなる。
千木良氏の投稿が、平手さん同様に写真のみだったら、まだ違和感は少なくて済んだ。しかし「拘束」の表現を入れたことで、受け手に「平手さん本人は同意しているのか」と心配させることになる。
いくら「健やかに」と前置きされていても、被写体本人と撮影者、そして投稿者の認識がイコールであるとは限らない。そもそも、仮に平手さんが千木良氏のマネジメントを受けるとなれば、完全に対等ではなく、「嫌だ」と言い出しにくい関係性になっている可能性もある。
昨今では、ドラマや映画などの性的・暴力表現について、専門の第三者を仲介させるなど、コンプライアンスに配慮した動きが盛んだ。そうした「変わろうとしている芸能界」の風潮に逆行しようとするメッセージを与えるのではないかと、心配になってしまう。
ファンの想像をふくらませ、話題になったOasisの投稿
受け手の想像をかき立てるティザー広告と、SNSマーケティングは親和性が高く、それは芸能関係も例外ではない。つい先日(8月26日)も、イギリスの人気ロックバンド「Oasis(オアシス)」が日時だけを示した動画を投稿。予告した時刻に再結成を発表し、大きな話題を呼んだばかりだ。
しかしOasisの場合は、文章は添えずに「日時を予告する動画」のみを投稿した。情報を少なくすることにより、ファンの想像はふくらみ、期待感も増す。そして、臆測があらぬ方向に行かない程度の短いスパンで、正式な発表を行う。
Oasisが「情報量を絞る、発表タイミングを記す、予告から発表まで短期間」の3条件で注目されたと考えると、平手さんのケースは、そのすべてが正反対に思える。
日付を予告する動画をあげたOasis。もちろん、彼らだからこそできるプロモーションでもある(写真:OasisのXより)
また、千木良氏の投稿は、「平手さんのプロモーション」よりも、どこか「千木良氏の意見表明」に重きが置かれていたように感じられる。感情ベースの「エモさ」を軸にしたプロモーション戦略は、たしかに理にかなう場合もあるのだが、ファンが付いているのは、あくまで平手さんであり、千木良氏ではないことを忘れてはいけない。
「拘束から解き放たれる」一連のイメージ戦略は、おそらく新天地における「これまでのイメージや報道にとらわれない活動」を意味しているのだろう。繰り返して言うが、画像のみを投稿し、ファンの考察に委ねたのなら、その方向性でも効果は発揮しただろう。
しかし、千木良氏が「ドタキャンしないための拘束」との文脈を生んでしまったために、考察の余地はなくなり、「逃げた=なにか粗相をする」予告だと曲解してしまう可能性がある。そうした意味でも、得策とは言えないのではないかと感じてしまうのだ。
(城戸 譲 : ネットメディア研究家・コラムニスト・炎上ウォッチャー)