井上が37歳の挑戦者・ドヘニーにKO勝ちする予想が大勢を占める photo by Kyodo News,Jiji Press

 "モンスター"がリングに戻ってくるーー。

 今では全階級を通じても世界最高級のボクサーとして認められるようになった井上尚弥が9月3日、東京・有明アリーナで元世界王者のテレンス・ジョン・ドヘニー(アイルランド)を迎え撃つことになった。

 ドヘニーももう37歳という高齢とあって、バンタム級に続き、スーパーバンタム級でも4冠王者になった井上がやはり絶対優位という予想が一般的。ただ、ここにきて3連続KO勝ちを続けるドヘニーもパワーと経験を兼備しており、侮れないパンチャーではある。

 5月6日、東京ドームでの前戦では1回にルイス・ネリ(メキシコ)の左パンチで不覚のダウンも喫したものの、最終的に6回KOで勝った井上は、今回、どんなパフォーマンスを見せてくれるのか。ドヘニーが大波乱を起こすとすれば、どういった流れが考えられるのか。軽量級に精通する3人の在米ベテラン記者に今戦に関する4つの質問をぶつけ、試合の行方を占ってみる。

【タイトルマッチ概要】
WBA 、WBC、IBF、WBO世界スーパーバンタム級タイトルマッチ12回戦

9月3日@有明アリーナ

◆世界スーパーバンタム級4団体統一王者
井上尚弥【大橋/31歳/27戦全勝(24KO)】

◆挑戦者/WBO世界スーパーバンタム級2位
TJ・ドヘニー【アイルランド/37歳/26勝(20KO) 4敗】

【パネリスト】
◆スティーブ・キム(元『ESPN.com』のメインライターで現在、フリーランスとして活躍。カリフォルニア在住の韓国系アメリカ人 X(旧Twitter): @SteveKim323)

◆エイブラハム・ゴンサレス(『FightsATW』のライター、エディター。ニューヨーク出身、ノースカロライナ在住 X(旧Twitter): @abeG718)

◆フランシスコ・サラサール(『リングマガジン』や『Boxingscene.com』などで執筆するフリーランスのボクシングライター。カリフォルニア在住)

1. 井上対ドヘニーのマッチアップのどこを楽しみにしているか?

キム : エリートレベルのボクサーの試合頻度が少なくなった現代において、井上のような選手の試合を9カ月間に3度も見られるのは貴重なことだ。最高級のマッチアップとは言えないものの、井上の試合には常に重要性がある。

ゴンサレス : ここで井上がドヘニーを対戦相手に選んだのは興味深いことだった。5月の前戦ではネリの左を浴びて自身初のダウンを喫し、ドヘニーはそのネリと同じサウスポー。近い将来、同じくサウスポーのMJ・アフマダリエフ(ウズベキスタン)との対戦に向けた準備の趣もあるのかもしれない。だとすれば、賢明な選択だと思う。

サラサール : 井上のやることであれば、私は何でも興味を持つ。真のスーパースターであり、パウンド・フォー・パウンド(PFP)でもトップ3に入る世界最高級のボクサーだ。とてつもないパワーで相手をKOするだけではなく、アウトボクシングもできる選手。ダウンを経験しても回復し、その後に相手を仕留められることを前戦のネリ戦で証明してみせてくれた。

2. ドヘニーが大番狂わせを起こすには何をする必要があるのか?

キム : ドヘニーはキャリア最高の出来、井上が最悪の状態でなければならない。ドヘニーは悪い選手ではない。元世界王者であり、依然として『リングマガジン』の階級ランキングではスーパーバンタム級のトップ10に入っている。そんな選手と対戦しても一部から"物足りない"と思われてしまうことは、ある意味で井上の素晴らしさを物語っているのだろう。

ゴンサレス : 37歳のアイリッシュ(アイルランド人)ボクサー、ドヘニーは今回がラストチャンスだと気づいているに違いない。その事実はモチベーションになるはずで、現時点での最高のコンディションで臨んでくるだろう。そのうえで、リング上でよく動き、井上が入ってくるところに左ストレートか、右フックを狙うべき。戦いが長引いたら井上が安定感を誇示する展開になるだけに、序盤が勝負になる。

サラサール : これまで以上に規律正しく戦う必要がある。フェイントを使って罠を仕掛け、カウンター作戦が井上相手にも機能することを願うしかない。ボディ攻めも必須だろう。やはり不利は否めず、リング中央で井上とパンチを交換しようものなら、早いラウンドで決着がついてしまうと思う。

3. 結果予想は?

キム : 中盤以降まで長引くことはないと見る。井上の破壊力は飛び抜けており、サウスポーも苦にしないことは、最近の戦歴が示している。

ゴンサレス : ドヘニーの左手が下がりがちなのにつけ込み、井上が右ストレートか右アッパーを打ち込む展開が想像できる。"モンスター(井上)"が4回に強烈なKO勝ちを飾るだろう。

サラサール : ドヘニーには元世界王者だっただけの底力があり、序盤は悪くない戦いをするのではないかと見ている。ただ、井上が油断するとも思わない。特にモンスターの行く手に、より魅力的な報酬が得られる試合が何戦か待ち受けているのであればなおさらだ。井上はドヘニーを徐々に痛めつけ、6〜8ラウンドにフィニッシュすると予想する。

4. 今戦も井上が勝ち抜くと仮定し、次戦で対戦するには誰か?

キム : IBFの指名挑戦者サム・グッドマン(オーストラリア)との対戦が有力に思える。ただ、個人的にはWBA指名挑戦者のアフマダリエフと戦ってほしい。現在のスーパーバンタム級において、井上がまだ倒していない選手のなかではアフマダリエフが最強の相手であり、フェザー級に昇級する前に対戦してほしいと願う。それをこなせば、もうこの階級でやるべきことは残っていない。

ゴンサレス : グッドマンは次戦で井上に挑戦できると信じているようだが、ここでは井上がアフマダリエフとの指名戦をこなし、そのあとにフェザー級に昇級すると予想しておきたい。もっとも、WBC世界バンタム級王者・中谷潤人(M.T)と東京ドームで激突するスーパーファイトがスーパーバンタム級で実現に向かうのであれば、そのシナリオは変わり得るかもしれない。

サラサール : 故障か顔面のカットなどがない限り、井上は12月にも試合を行なうのだろう。次戦はグッドマン、来春にアフマダリエフと戦うと見る。近い将来、井上が中谷と対戦すれば大注目の一戦になる。もっとも、中谷にとってはバンタム級に止まり、ジェシー・"バム"・ロドリゲス(アメリカ)がスーパーフライ級から上がってくるのを待つという選択肢も魅力的ではあるのだろうから、どうなっていくかはわからない。