かつてバナナは絶滅したことがある
子どもからお年寄りまでみんなに愛されるバナナですが、かつて壊滅的なパンデミックに襲われたことがあります。
バナナの不作の原因は、フザリウム属の真菌「フザリウム・オキシスポルム f. sp. Cubense(Foc)」という菌によって、パナマ病または萎ちょう病が引き起こされることによりました。この病原菌がバナナの木に感染し、ダメージを与え葉を黄色く変色させ、枯れさせるのだそう。
パナマ病は1870年代に発見され、1950年代になるとパナマを中心に世界中のバナナ栽培地域に影響を及ぼしました。「今日私たちが食べているバナナは、あなたの祖父母が食べていたものと同じではない」とマサチューセッツ大学アマート校の生化学教授、リージュン・マー氏はプレスリリースにて述べています。
絶滅してしまったバナナ
「かつて食べられていたグロスミシェルバナナは機能的に絶滅した」とマー氏。
現在、スーパーで見かけるバナナはキャベンディッシュと呼ばれる品種です。1950年代に流行したパナマ病によってグロスミシェルバナナがほぼ絶滅してしまったため、栽培者は病気に強い品種であるキャベンディッシュに目を向けました。
それから何十年もの間、バナナの栽培は順調でしたが、1994年に台湾で栽培されたバナナにも新系統の「TR4(トロピカル・レース4)」と呼ばれるパナマ病が現れ始めました。それ以来、この新パナマ病は再び世界的に広がっています。バナナが穫れないということはスムージーも飲めなくなってしまう…。
しかし、マー氏らは最近、朗報を発見しました。
Nature Microbiology誌に掲載された研究で、キャベンディッシュバナナに影響を及ぼすフザリウム菌の亜種は、グロスミシェルバナナを絶滅させた菌とは進化の起源が異なることが明らかになりました。研究者らは、グロスミシェルバナナにとって致命的だったものを含む、36種のフザリウム菌の遺伝子の配列を解析し比較しました。
そして研究者らは「TR4がグロスミシェルバナナを壊滅させた種から進化したものではない」ことを発見。「TR4のゲノムには、一酸化窒素の生成に関連する補助遺伝子がいくつか含まれており、これがTR4の毒性の重要な要因であると思われる」とマー氏は述べています。
バナナにも多様性を
朗報としては、一酸化窒素の生成を制御する2つの遺伝子が遮断されると、TR4の毒性が大幅に低下するということがわかりました。「これにより新パナマ病の拡散を緩和、あるいは防ぐための戦略的手段が開かれます」と、この研究を率いたマサチューセッツ大学アマート校の元博士課程学生、ヨン・チャン氏は述べた。
なおマー氏は、これはキャベンディッシュ種にとって救済となるかもしれないが、生産者は主に単一の品種に頼るのではなく、病原菌に対する防御力を高めるために栽培するバナナの種類を多様化すべきだと警告しています。