1999年公開映画の『シックス』は大ヒットを記録

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当時11歳から36歳に。長い停滞が続くもハリウッドで25年もの間生き残ってきた(写真:Getty Images)

『シックス・センス』が公開されて、四半世紀になる。北米公開は1999年8月6日、日本公開は同年10月30日。公開当時、ブルース・ウィリスは44歳、子役ハーレイ・ジョエル・オスメントは11歳。監督兼脚本家のM・ナイト・シャマランは29歳だった。

期待されていなかった小作品が大ヒット

決して話題作とは言えなかったこの小粒なホラー映画は、アメリカで堂々の首位デビュー。公開10週目までトップ10圏内にとどまり、『スター・ウォーズ エピソード1/ファントム・メナス』に次いで、この年2番目のヒットとなった。

アカデミー賞にも、作品、監督、脚本、助演男優(オスメント)、助演女優(トニー・コレット)、編集の部門で候補入り。アワードで軽視されがちなホラーというジャンル、メジャースタジオの娯楽映画においては、大きな快挙だ。シャマラン、オスメント、コレットのキャリアで、オスカーに候補入りしたのは、今のところこの時だけである。

皆さんも覚えていらっしゃるだろうが、物語の中心人物は、死んだ人が見える9歳の少年コール(オスメント)と、彼の治療に挑む児童精神科医マルコム(ウィリス)。

コールは自分の秘密を母(コレット)にも明かしていない。幽霊が出てくるので怖さはしっかりあるが、とりわけラストのあたりでは人間ドラマとしての感動もたっぷり。何より最後のオチがすばらしく、この後しばらく「サプライズのオチ」はシャマランのトレードマークになった。

この映画の成功は、オスメントの名演技なしにはありえなかった。撮影当時10歳だったオスメントは、それまでにも『フォレスト・ガンプ/一期一会』や『シカゴホープ』『アリー・myラブ』などのドラマに出演していたが、ウィリスとほぼ共同主演ともいえるこの映画で大ブレイク。

翌2000年にはケビン・スペイシー、ヘレン・ハントと共演する『ペイ・フォワード 可能の王国』が公開され、2001年には、スタンリー・キューブリックが実現させられなかったプロジェクトをスティーブン・スピルバーグが引き継いだ注目作『A.I.』で、主人公のロボット、デビッド役に大抜擢された。

人間そっくりだが人間ではないデビッドを演じるオスメントの微妙な演技は、今見直しても感心させられるばかりだ。しかも、彼は、2時間半近いこの映画のほとんどのシーンに登場するのである。

天才子役の立場を確立

この映画は日本で大ヒットしたのに対し、アメリカではまずまず。アカデミー賞にも音楽と視覚効果部門にしか候補入りしなかった。それでも、オスメントが「天才子役」の肩書に十分ふさわしい実力の持ち主であることは、あらためて証明されたといえる。

そして2003年には、『ウォルター少年と、夏の休日』で、大ベテラン俳優マイケル・ケイン、ロバート・デュヴァルと共演。15歳だったオスメントは、声を含め、体が変化していたため、撮影は脚本の流れ通りに行われた。人間としての彼の成長が見られる作品である。

一般人の記憶にある彼の映画は、おそらくここまでだろう。日本での公開作は、この次は、2015年に開催された「未体験ゾーンの映画たち」で上映された2013年の『タイム・チェイサー』まで、1本もないのだ。その間、彼は何をしていたのか。なぜあまり姿を見なくなったのか。

ひとつには、2007年からニューヨーク大学で学んでいた。しかし、大学に入る直前、オスメントは飲酒運転をして事故を起こし、違法ドラッグを所持していたことから、3年間の保護観察処分と罰金1500ドル、アルコール依存症更生、教育プログラムを受けることを命じられている。

これらはアメリカでかなり報道された。マネージャーを務めていたオスメントの父は、当時、この事件のせいでキャリアに影響が出ることはないとメディアに語っていたものの、良い子のイメージで愛されていただけに、多少のダメージはあったかもしれない️。

成年以降のキャリアは下り坂に

在学中はほとんど仕事をしなかったが、2014年にはコメディ映画『SEXエド チェリー先生の白熱性教育』に主演。結果は今ひとつぱっとせず。同じ年に出演したケビン・スミス監督の『Mr. タスク』も大コケした。

翌2015年には、HBOのドラマの続きである『アントラージュ★オレたちのハリウッド:ザ・ムービー』に出演。元となるドラマが大人気だったため期待されていたにもかかわらず、8シーズンで終了した後4年も空いたことでファンも興味を失っていたのか、4000万ドル弱の製作費に対し、世界興収はわずか4900万ドルに終わった(日本では劇場公開されていない)。

この作品のドラマ版と映画版で主演を務めたエイドリアン・グレニアーは、『A.I.』に小さな役で出演しており、オスメントとはその時からの知り合いだ。

2016年には再びケビン・スミスから声がかかり、コメディ映画『コンビニ・ウォーズ〜バイトJK VS ミニナチ軍団〜』に出演。リリー=ローズ・デップが出るとあって父ジョニー・デップも出演するなどキャストには良い顔ぶれが揃ったが、これまた結果はまるでダメだった。

しかし、最近は、テレビで良い作品に恵まれるようになっている。2019年には、Amazonプライム・ビデオの『ザ・ボーイズ』にゲスト出演。バイオレンスもたっぷりあるこのユニークなスーパーヒーロードラマは、すでに4シーズン作られ、アメリカで大ヒットしている。

マイケル・ダグラスが主演するNetflixの『コミンスキー・メソッド』にも出演した。プライムタイム・エミー賞をはじめ、栄誉ある賞にノミネートされた成功作だ。

今月Amazonプライム・ビデオで配信開始になったばかりのアニメーションシリーズ『バットマン:マントの戦士』にも、声優としてゲスト出演。声の仕事は、ビデオゲームも含め、ほかにもたくさんこなしている。

さらに、Netflixのヒットシリーズ『ウェンズデー』の第2シーズンにゲスト出演するという話だ。つまり、話題の映画の主演からは遠のいても、着実に仕事は続けているのである。

復活の芽は残されている

キャリアは長いが、彼はまだ36歳。これからすばらしい作品に巡り合い、大復活する可能性も、十分ありえるだろう。ハリウッドで、それは決して珍しいことではない。

また復活までの間も、彼は十分やっていけるはずだ。アメリカでは、過去の出演作が再放送されたりするたびにレジデュアルと呼ばれる印税が入るのである。彼の総資産は、現時点で600万ドル(現在の換算レートで8億7000万円)と推定されている。

一方で、シャマランも、着々と仕事を続けてきているものの、『シックス・センス』とその直後のようなヒットは長いこと生み出せていない。今月北米公開になった新作『Trap』も、rottentomatoes.comで57%と、評価はいまいちだ。

とはいえ、競争の激しいハリウッドで25年も生き延びてきたというだけでも、すごいことである。このふたりのこれからを見守っていきたい。

(猿渡 由紀 : L.A.在住映画ジャーナリスト)