目をひく濃い蛍光色の服装に身を包み、自由奔放に駆け回るフワちゃん(写真:つのだよしお/アフロ)

タレントのフワちゃんによる、お笑い芸人のやす子さんに対するSNS投稿が物議を醸している。やす子さんの投稿を「死んでくださーい」と引用リポストしたフワちゃんは、即座に削除したものの、気づいたXユーザーが拡散し、謝罪することとなった。レギュラー番組も放送休止となり、今後の活動にも影響が出る可能性が考えられる。

ネットユーザーからは、不適切な投稿が行われた経緯として、「裏アカウントと誤って投稿したのではないか」との指摘が出ている。フワちゃん側は、投稿の過程について触れていないが、一般論として裏アカウントによる炎上は珍しくない。

それは芸能人のみならず、一般の社会人でも無関係ではない。ネットメディア編集者として、数々の炎上事案を見てきた筆者の知見をまじえて、「フワちゃん失言の抱える問題点」を考察したい。

元々のX投稿は、直後に削除されたが

きっかけとなったのは、人気芸人・やす子さんが2024年8月2日に行ったX投稿だ。「やす子オリンピック 生きてるだけで偉いので皆 優勝でーす」と、現在開催中のパリ五輪に絡めて、ポジティブになるような内容をポストした。

これに対して、4日にフワちゃんが「おまえは偉くないので、死んでくださーい 予選敗退でーす」と引用リポストしたというスクリーンショットが拡散された。元々のX投稿は、直後に削除された模様だが、現在もその画像は広がり続けている。

この投稿に対してかは不明だが、その後、やす子さんは「とっても悲しい」と投稿。フワちゃんも、何についてかは明かさない形で「本当にすみません 今ここで皆さんに報告することではないのですが、言っちゃいけないこと言って、傷つけてしまいました ご本人に直接謝ります」と謝罪した。


フワちゃんからの“暴言”を受けてポストしたやす子さん(画像:本人の公式Xより)

この影響で、5日深夜(6日早朝)に放送予定だった「フワちゃんのオールナイトニッポン0」(ニッポン放送)は放送休止となった。番組公式Xでは、その理由を「昨日SNSにてパーソナリティによる不適切な投稿が確認できたため」としている。この公式ポストを引用する形で、フワちゃん自身も「私自身の投稿で、ご本人はもちろん、投稿を見た方々を深く傷付けてしまったことを心から後悔しています」などと、再度謝罪した。


フワちゃんの“暴言”の後にやす子さんが「とっても悲しい」と投稿。すぐに謝罪のポストをしたフワちゃん(画像:本人の公式Xより)

度重なる謝罪を経てもなお、フワちゃんへの批判は絶えない。とくに生死へ言及したことに対するバッシングが強く、「陰湿すぎる」「いじめっ子を思わせる」といった感想が、SNS上には多数投稿されている。

「誤爆」と「失言」はネット炎上の2大要因

なぜフワちゃんが、この投稿に至ったのかは、いまのところ不明だ。しかしネット上では、「裏垢と誤爆した」可能性が指摘されている。裏垢(うらあか)とは、表に出すものとは別の「裏アカウント」を意味する。そして、裏垢に投稿しようとした文面を、個人が特定できるアカウントで投稿してしまうことを「誤爆」と呼ぶ。

ネットメディア編集者として、これまで10年以上、SNSの動向を見てきた筆者からすると、「誤爆」と「失言」はネット炎上の2大要因と言ってもいい。そして両者を比べてみると、誤爆のほうがダメージは大きくなる傾向がある。

より燃えさかる理由には、投稿者側のマインドがある。裏垢はグチを吐き出すなど、日頃からの不平不満を投稿する目的で運用されていることが多々ある。プライベート空間と位置づけるため、フォロワー以外に見られないように非公開設定にする(こうしたアカウントを「鍵垢」と呼ぶ)ことが多い。

表からは見えない状態で投稿することにより、「普段のイメージとは、ひも付かないだろう」と考えて、より自由に投稿ができる。その反対に、危機意識が欠ける温床にもなり得る。実際に「まだバレていない著名人の裏垢」を拝見したことはないが、表では到底話せないような内容が書かれていても不思議ではない。フォロワーを一部の友人のみに絞れば、単なるひとり言ではなく、友人に向けた「陰口」にもできる。

そこで生じてしまうのが、誤爆のリスクだ。ユーザー情報を切り替え忘れて、つい表のアカウントから「裏のテンション」で投稿してしまえば、表向きのイメージとのギャップに驚くファンも多いだろう。その差が大きければ大きいほど、好感度の変動につながる。

誤爆が好感度アップにつながったまれなケースも

やさしい誤爆も、ないことはない。例えば2016年には、お笑いコンビ「阿佐ヶ谷姉妹」の姉を担当している渡辺江里子さんが、「カラオケ終わってヨーカドーにいます。今うちにトマトありましたっけ?」と投稿。相方で妹担当・木村美穂さんへのLINEを、X(当時のツイッター)に誤爆したもので、「何を寝ぼけたか、全世界に聞いてしまいました」と謝罪するも、日頃からのキャラクターもあって、ユーザーはホンワカした気分になった。誤爆がかえって好感度アップにつながった事例だが、こんなケースはほとんどない。

これまでも芸能人の「誤爆疑惑」は、人気アイドルグループのメンバーや、人気声優など、数多く浮上した。中には「アカウントが乗っ取られた」「本人ではなくスタッフの操作ミスだ」などとアナウンスされることもあり、その説明が正しい場合がほとんどなのだろうが、どれだけ事実と反していても、一度浮かんだ疑念は、なかなか拭えるものではない。

なおフワちゃんサイドは今回、報道各社の取材に対して、「投稿時点では、既に凍結されていたアカウントを除き、Xの別のアカウントはございません」とコメントしているという。

それはそれで、SNS上では「凍結された裏垢があるのか」といった新たな疑惑を呼んでいるのだが、みずからの発言だと認めた点については、評価に値すると言えるだろう。それでもなお、批判的な声が絶えないのは、これまで潜在的に「フワちゃんに対する違和感」を持っていた視聴者が多かったからではないか。

目をひく濃い蛍光色の服装に身を包み、自由奔放に駆け回る。大手事務所の所属歴はあるもののフリーランスで活動し、時に「失礼」と言われるまでの物おじせぬ発言で、芸能界にはびこっていた「予定調和」を打ち破る。本籍は芸人にありながらも、YouTuberに軸足を置いたスタイルに、新たなエンタメの形を見ていた人もいるだろう。

そして今や、世界を代表するGAFAの一角、Googleのスマートフォン「Google Pixel」のイメージキャラクターとして、写真の不要な部分を削除できる「消しゴムマジック」を紹介するCMなど、テレビで見かけない日はない。

メディアはどこか彼女に「多様性時代の象徴」を求めていたのではないか。コンプライアンスやハラスメントなどで、日を追うごとに世知辛くなる現状を前に、不破ならぬ打破してくれる存在として、期待を募らせる。もしかすると、本人もその雰囲気に気づいていて、「より『フワちゃんらしさ』を増さなければ」と、使命感を覚えていたのかもしれない。

「明るさ」の影にある「陰湿さ」

周囲との差異は、現状を変える上で、大きな武器になる。ただ一方で、それをよしとしない人には、強い違和感を与え、時には嫌悪感にも発展する。そして今回、「明るさ」の影には「陰湿さ」があると判明したことで、いままで漠然としていた「違和感の正体」を見た視聴者も少なくないのだろう。

ひとたび裏表のギャップが伝わると、印象が悪い方向に傾いてしまうのは、我々のような一般の人間関係でも同じだ。トイレで、飲み会で、給湯室で……。あらゆる場所で「誰かの欠席裁判」が行われる度に、その人の本性が透けて見える。

どこで誰が聞いているかわからない。それはSNSにおいても同じだ。誤爆しなくても、「この人の裏垢だ」と特定される可能性はある。どれだけ身バレ(身分や素性がばれる)を抑えたとしても、ささいな情報からプロファイリングされることは多々ある。


「オールナイトニッポン0」の休止が決まり、フワちゃんらしからぬ真面目な様子で謝罪(画像:本人の公式Xより)


Google PixelのCMはすべて非公開となった。CM内で使われていた「消しゴムマジック」を自身のXでも披露(画像:本人の公式Xより)

こうしたリスクは、遠い芸能界の話ではなく、明日あなたがクビになってもおかしくない。「フワちゃん燃えてて大変だねー」などと、ひとごとに思えるならまだしも、少しでも心当たりがあるのなら、早急に対応しておいたほうがいいだろう。

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(城戸 譲 : ネットメディア研究家・コラムニスト・炎上ウォッチャー)