最近のゲームに“リメイク作品”が多い理由は? 専門家に聞く
任天堂は2024年6月18日、「Nintendo Direct 2024.6.18」(以下、ニンダイ)を配信。『マリオ&ルイージRPG ブラザーシップ!』や『ゼルダの伝説 知恵のかりもの』といったNintendo Switchの人気タイトルの新作が発表された。一方で、HD-2D版『ドラゴンクエストIII そして伝説へ…』や『ドンキーコング リターンズ HD』、『ロマンシング サガ2 リベンジオブザセブン』などリメイク作品も少なくなかったことを受け、歓喜する声は多かったものの“リメイク商法”と揶揄する声もSNSで散見されている。
今年に限らず、近年は『ファイナルファンタジーVII リメイク』(対応ハードはPlayStation 4/2020年発売)や『スーパーマリオRPG』(2023年発売)がリリースされるなど、名作のリメイク版ばかりが発売されている。そうした現状から「おじさんをターゲットにしている」「若手クリエイターが育っていないために過去の名作に頼らざるを得なくなっている」といった指摘は少なくない。
なぜリメイク版のゲームが多くリリースされているのか。『現代ゲーム全史 文明の遊戯史観から』(早川書房)の著者で、ゲーム業界に精通している中川大地氏にその背景を聞いた。
・リメイク作品が多い印象を受ける理由は「注目タイトルが少ないから」
――今回のニンダイの発表に対する率直な感想をお願いします。
中川大地氏(以下、中川):SNS等でも指摘されている通り、“おっさんホイホイ”という印象です。ただ、リメイク作品はこれまでも頻繁にリリースされており、今回の発表が特段「リメイク版やリマスター版が多い」とは思いませんでした。
――それではなぜいつも以上に「リメイク版が多い」という声が上がったのですか?
中川:目玉になる新規の大作タイトルが少なかったからでしょうね。とりわけ2022年後半から2023年にかけて『スプラトゥーン3』や『ポケットモンスター スカーレット・バイオレット』、『ゼルダの伝説 ティアーズ オブ ザ キングダム』といったイノベーショナルなナンバリングタイトルが相次いで発売され、むしろ発売5年以上経っているハードとしては異常なくらいの豊作が続いていました。そういった家庭用ゲーム機の発売サイクルのなかで、通常は各シリーズ2タイトルくらいずつしか出ない看板レベルのフラッグシップタイトルのリリースが一通り出尽くしてしまった後のタイミングにあたるので、今年は波の谷間感が出てしまっただけではないかと。
――今回は注目タイトルが少なかったために、リメイク版ばかりが目立ってしまったと。
中川:はい。というか今回のニンダイは最も期待されていたNintendo Switchの後継機についての発表がまだ先になるというアナウンスの上で出された情報だったので、各ゲーム会社は注目タイトルは後継機用に温存しているのでしょう。注目タイトルが少なかったのはある意味必然です。
あと言えるのは、海外の主流である3Dオープンワールド系のゲームデザインに適応する方向で成功してきた近年の国産ビッグタイトルの潮流が一段落して、今回のニンダイで紹介されたタイトルが、どちらかというと日本の昔ながらの2D系のビジュアルやゲームデザインを現代的に洗練させていくターンに入ったように感じられたことも、ちょっと古めかしいゲームが多いという印象につながっていた気がしますね。
――ちなみに今回のニンダイで特に気になったタイトルは?
中川:いくつかあるので順に言うと、まず11月15日に発売予定の『ドラゴンクエストIII そして伝説へ…』です。もともとロトシリーズ3部作(『I』『II』『III』)の完結篇にして作中時系列としては先に発売された『I』『II』よりも前の時代に溯る物語であったという点が原典のファミコン当時のリアルタイム展開時には感動を深めたところでした。しかし、2017年発売の最新ナンバリングタイトル『ドラゴンクエストXI 過ぎ去りし時を求めて』では、さらに過去の時代(諸説あり)に溯りつつ、しかも『IV』以降の天空シリーズと世界線が分岐するみたいなマルチバース的展開とも考察可能なシナリオ構成になっていたんですね。つまり、『XI』を起点にした「歴史の再解釈」として、改めてHD-2Dのビジュアルで時系列順に勇者ロト編の物語を語り直すことによってドラクエ・サーガをアップデートしようとする強い意志を、2025年のHD-2D版『ドラゴンクエスト I&II』の発売ともあわせて発表された点からも感じます。
続いて任天堂タイトルだと9月26日発売予定の『ゼルダの伝説 知恵のかりもの』で、多くの人が『ゼルダの伝説 ブレス オブ ザ ワイルド』『ゼルダの伝説 ティアーズ オブ ザ キングダム』で確立された3Dオープンワールド路線を期待するなか、あえて剣士リンクではなく前2作で存在感を高めたヒロイン側のゼルダ姫を主人公に据えつつ、2D時代のゼルダシリーズをリニューアルするようなディフォルメ度の高いルックとシステムに挑んだ、外伝的・変化球的な作品と推察されます。こちらはちょうど昨年の映画『ザ・スーパーマリオブラザーズ・ムービー』でも大きくアップデートされたピーチ姫をフィーチャーした3月発売の『プリンセスピーチ Showtime!』とも通底する企画性で、おそらくディズニープリンセスを意識した現代的な女性像へのキャッチアップを意識したのであろう任天堂キャラのジェンダー多様性への挑戦の成否が注目されます。
あとはやはり数少ない新規IPとしてラインナップされていた2025年初頭発売予定の『HUNDRED LINE -最終防衛学園-』ですね。これは根強い人気を誇る『ダンガンロンパ』シリーズのシナリオで知られる小高和剛氏を中心に設立されたトゥーキョーゲームスのオリジナル新作で、ファンにはお馴染みのストーリー主導型の学園デスゲームものADVといった印象です。正直なところ過去作とよく似た作風で既視感は否めないものの、ゼロ年代の時代性を色濃く反映していた彼らの作家性が、今のゲーム環境でどこまでアップデートできるのかは見届けたいと感じました。
・リメイク作品が“好循環”を生むために
――「リメイク作品は別段多いわけではない」という話でしたが、今後もリメイク作品は同じペースでリリースされそうですか?
中川:はい。昔ながらのコンテンツがあの手この手でリメイクやリブートを重ねていくのはゲームに限らず今やエンタメビジネスの当たり前の状態になっていますし、特にゲームの場合は数年単位でハードやプラットフォーム環境が変化していくので、常に最新の環境で往年の名作を遊べるようにしたいという需要は当面、一定の規模で発生し続けていくのだと思います。現在の高度化したゲーム環境では新作ソフトの開発コストは大きく高騰してしまっているので、リスクの大きな未知の新作よりも、過去の有力なIP資産をもつゲーム企業が収益の基盤をリメイク作に置く傾向は、ビジネスとしてはやむをえない状況でしょう。
――30~50代以上の層をターゲットにできることも大きそうですね。
中川:そうですね。ちょうど団塊ジュニアからミレニアル世代なので人口ボリューム的にも社会の多数派で購買力も高いですし、次々と新作タイトルがリリースされてしのぎを削ってきた1980~2000年代くらいのゲームの高度成長期を原体験として持っているので、今後20年くらいはなんだかんだでゲーム産業にとってのパトロン的な購買者であり続けるはずです。そうしたベースラインが健在なうちに、リメイクやリブートを通じてもともとの作品を知らない若い層にも既存IPを文化的な伝統や教養として世代継承していきつつ、その売上を常に新規タイトルにも挑戦していける環境づくりへと回していけるような循環構造を作っていくという意識が、いまのゲーム産業には求められているのだと思います。
まあ、少子高齢化で市場のパイ全体が縮小していく流れ自体は避けられないですし、新規の挑戦に還元できるリソースは「失敗しても取り返しのつく規模」にならざるをえないとは思いますが……。
・今後は低予算制作のゲームが増える? 他業界からの参入も
――今後のゲーム業界はどのように変化していくと考えていますか?
中川:ここ15~20年くらいの世界的な動向として、ごく一部のグローバルな巨大企業が大規模予算を投入して開発する超豪華なAAAタイトルと、個人ないし独立系の小規模スタジオが安価なゲーム開発エンジンを使って制作するインディーゲームとに市場が二極化していると言われて久しいですが、この傾向がますます極端になるでしょう。既存市場のユーザーが一つのゲームタイトルに費やせる可処分時間はもう飽和しつつあると言われていて、大企業が多額の製作費を投じて1から新作ゲームタイトルを制作して何十万本・何百万本売って回収するというような大量生産・大量消費型のビジネス形態は遅かれ早かれ徐々に衰退していくことになるはずです。
――ゲーム会社が生き残っていくのは困難になりそうですね。
中川:はい、日本の大手ゲーム企業について言えば、これまでのような家庭用ゲーム中心の業態では、長期的には任天堂以外はほとんど生き残れない可能性が高い。2010年代以降はガチャ課金型のスマートフォンアプリゲーム市場の開拓期だったので業界全体としては右肩上がりで成長していましたが、それも頭打ちになりつつあって、何年も成功し続けるトップタイトルと高額の開発費を投入しながら爆死していくボトムとの乖離がもっと極端になっています。そうなると、開発規模が小さくてプレイヤーの可処分時間を圧迫しないインディーゲーム的な方向にしか活路を見出せなくなるのではないか。
――つまり、低リスクの低予算製作ゲームが増えて、各ゲーム会社がこぞって制作するようになると。
中川:そうです。ちょうどいま、音楽や出版業界がそうなりつつあるように、基本無料~少額サブスク型のプラットフォーム配信とか、コミケや文学フリマのようなインディー市場に大手ゲームブランドが軒を並べるような状態が当たり前になるのだと思います。というかPCゲームの主要なオンライン流通プラットフォームであるSteamではずっと前からそんな感じですし、そういうニッチで安価なインディー発のタイトルの最終移植先として、子供たちなどカジュアルな家庭用ゲームユーザーもニンテンドーeショップでのDL販売を通じて気軽に遊べるようになったのがNintendo Switchというハードの歴史的な意義の一つだったとも思います。
これは逆に捉えるならゲーム市場への参入障壁が下がっているとも言えて、他のエンターテインメント業界の企業が参入する流れが活性化していく傾向もあります。現に大手出版社の集英社は子会社として、コンピュータゲームおよびボードゲームの制作会社・集英社ゲームズを2022年2月に設立。PCゲームやスマホゲームをすでに多くリリースしています。近い将来には、エンタメ系やテック系だけでなく、アートや教育、あるいは飲食やライフスタイル産業などの分野と徐々に統合再編されていく可能性もありそうです。
なので、狭義のコンテンツ産業に閉じず、人間が生きていくあらゆるシーンにデジタルゲームが培ってきたクリエイティブな要素を融合してゲームの概念を多様化していくことが、これからのゲーム業界の生存戦略になるのではないでしょうか。
(文・取材=望月悠木)