’21年に神奈川県警を退職した「よっしー部長」

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元鹿児島県警の男が「県警本部長が不祥事を隠蔽した」と批判し、注目を集めている。“正義の味方”警察にも知られざる裏の顔がある。彼らを狂わせた原因は何なのか、探ってみた。
◆組織の点数至上主義がマジメな警察官を狂わせる

「せめてもの罪ほろぼしです」

’21年に神奈川県警を退職した「よっしー部長」は、罪のない人たちを検挙してきた後悔から「警察組織の裏の顔」を発信するYouTubeを始めた。現在、チャンネルの登録者数は10万人。’23年10月に公開した「現役警官からの職務質問を論破する動画」は再生数400万回を超える。

「多くの批判を受けましたが、知ってほしかったんです。任意という名のもとに、どのように運転免許証の提示を求められ、所持品検査をされるのか。そして、ノルマを達成しようとする警察官に、いつかあなたが犯罪者にされてしまうかもしれないということを」

◆ノルマ達成のために検挙…まるで“情弱ビジネス”

よっしー部長の所属は自動車警ら隊だった。パトカーで街をパトロールし、110番通報を受ければいち早く現場に駆けつける。さながら『警察24時』の世界だ。

「悪いヤツらをたくさん捕まえましたし、職務質問や検問によって未然に防いだ重大犯罪も数えきれません。しかしその一方で、ノルマ未達で上司から激しく詰められると、検問でしょうもない検挙をしていました。例えば、車内から私物化しているスーパーの買い物カゴやスロットのメダルを見つけると窃盗罪で検挙する。被害額は数十円です」

検挙数だけでなく、点数のノルマもあったという。

「薬物は何点、強盗は何点など、犯罪ごとに点数がつけられ、高得点を取れば、ボーナスにも反映される。そのなかで、凶器携帯の罪は難易度が低いわりに点数が高い。だから車内から十徳ナイフやドライバーなどの工具を見つけると警察官は目の色を変える。『もし誰かが襲ってきたら、これで応戦するでしょう?』と聞いて、『そうですね』と答えるような人を、点数稼ぎのために軽犯罪法で検挙。これは警察の情弱ビジネスです」

◆「当時は、人が点数に見えていた」

理不尽な目に遭っても、警察組織では上には逆らえない。

「自分で言うのもなんですが、僕は“優秀”な警察官だった。がむしゃらに数字を追って、3年連続で検挙数トップに。当時は、人が点数に見えていた。検問で酒臭い運転手を見つけても、酒気帯び運転は交通機動隊の点数で、警ら隊の点数にならず、手続きが面倒だからと見逃す同僚もいた。

最近、警察官の行きすぎた職質動画がSNSに拡散されていますが、その警察官たちだって、ある面では被害者です。数字に追われると、なぜ警察官になったのかさえわからなくなる。点数至上主義は、すべての警察官を狂わせます」

◆<弁護士が解説>職務質問「適法/違法」ライン

急いでいるのに警察官に呼び止められ、横柄な態度での職務質問を受けて不快感を覚える人も多い。そもそも職質は任意だが、拒めばあらぬ疑いをかけられてしまうリスクがある。

どちらの対応をするにせよ、職質の違法・適法の境界は知っておきたい。アトム法律事務所の松井浩一郎弁護士に聞いた。

「例えば、警察官が強引に腕を摑むなど身体への接触があったり、本人の許可を得ずに所持品を勝手にチェックしたりするなどの職務質問は違法です。ただし、違法薬物の小袋をパンツの中に隠しているか判別する『チン嗅ぎ』などの行為において、身体接触があったとしても、本人の許可を得て行われているのなら、適法の範囲内だと判断される可能性は高いですね」

しかし過去の判例を見ても、職務質問に関する法律はグレーな部分が多いという。

「基本的には、警察署で『違法な職務質問を受けました』と被害を訴えても取り合ってもらえません。仮に国家賠償請求訴訟をした場合、判決が出るまでに最低でも1年以上がかかって、慰謝料の相場は数十万円。それに捜査上の違法性を裁判で認めさせるのはかなりハードルが高いので、訴訟が現実的ではないケースがほとんどでしょう」

不当な職務質問にイラついたとしても冷静な対応を心がけたい。

【よっしー部長】
神奈川県警巡査部長。山形県出身。18年間、神奈川県警に勤務し、退職。現在は、よっしー部長の名でYouTubeを中心に「警察組織の裏の顔」を発信

【弁護士・松井浩一郎氏】
ニューヨーク大学卒業、東京大学法科大学院修了。アトム法律事務所の広報として、幅広いメディアで活躍中。専門は刑事弁護など

取材・文/週刊SPA!編集部 撮影/杉原洋平