東京・麹町の日本カメラ博物館で「Camera・Made in TOKYO」と題した企画展が7月9日(火)から始まりました。戦前から1980年代まで、東京都内で製造されたカメラを一堂に展示。東京に拠点を置くカメラメーカーや、過去に東京に存在していたカメラメーカーの歴史および製造したカメラを知ることのできる企画展です。

「Camera・Made in TOKYO」会場の様子。約150台のカメラが展示され、それぞれに詳しい説明が備わっていますので、カメラマニアでなくても楽しめます

展示ケースは特別区ごとに分けられています。写真は板橋区で製造されたカメラ。手前の二眼レフは1952年に東京光学機械(後のトプコン)が製造した「プリモフレックス I BB」

今回の企画展では、タイトルのとおり東京都内で製造されたカメラが展示されています。昭和20年代の後半ごろから、長野県の諏訪地方など東京以外の国内で製造されることが増え、近年では中国やタイ、ベトナム、フィリピンなどでの生産が多いカメラですが、戦前あるいは戦後しばらくは東京都内で作られたカメラが少なくなく、一大生産拠点だったことをこの展示では認識させられます。言うまでもなく、都内に拠点を構えるカメラメーカーが多数あったことに加え、製造する工場の規模もさほど大きくなくてよかったことなども理由のようです。

ちなみに都内でカメラを製造していたメーカーは、ニコンやキヤノンなど現在も名を馳せる大メーカーから、消えて久しい小さなメーカーなど、まさに玉石混交。もちろん、製造していたカメラもさまざま。そのため、展示しているカメラは貴重なものが多いのも、この企画展の特徴です。精巧なつくりから、メーカーのカメラ製造に対する強いこだわりも展示から伺い知ることができます。

今回の企画展で展示されるカメラは約150点。23の特別区それぞれに分けられて展示されているほか、東京都下の市部で作られたカメラも見ることができます。

日本カメラ博物館の入り口の様子。同博物館の入るビル1階から上の階は出版社の宝島社が入っています

35mmフィルムを使用するパノラマカメラ「ワイドラッククス F6B」は板橋区で1970年ごろに製造されたカメラ。パノンカメラ商工製

120フィルムを使用し、レンズ交換のできる中判一眼レフ「フジタ 66SL」。1955年発売。製造の藤田光学機械は荒川区のメーカーです

他のメーカーにくらべリーズナブルな価格設定が特徴であったペトリ。写真は1964年に製造された「ペトリフレックス7」。ペトリカメラは足立区にありました

各特別区の説明はボードを使って丁寧に説明。特別区それぞれの歴史や見どころ、名所などのほか地理や人口など紹介しているのもユニーク

中古市場では比較的高価なプライスタグを提げることの多いメルコン。写真左は1957年発売の「メルコン II」、右は1955年発売「メルコン I」。メルコンは目黒区にあったメーカー

1996年に発売されたNEC(日本電気)のデジタルカメラ。レンズ交換式でCマウントを採用していました。NECは港区の企業となります

ご存知シグマのフィルムカメラ「シグマ マーク1」。同社は、現在神奈川県川崎市に本社を構えていますが、このカメラの時代は東京都狛江市でした。1975年発売

左はオリオンカメラ時代の「ミランダ T」(1955年)、右はミランダカメラ時代の最終モデル「ミランダ dx-3」(1975年)。このメーカーも狛江市に本社がありました

1958年に発売された「ズノー」。完全自動絞り機構やクイックリターンミラーなど先進的なカメラでしたが、故障が多く早々に製造を中止しました。ズノー光学工業は中野区にありました

1950年代に発売されたビューティブランドの二眼レフ。発売元の太陽堂写真機店は2013年まで千代田区神田神保町でカメラ店として営業していました

フィルターをはじめとするカメラアクセサリーで有名なケンコー・トキナー。創業は1928年で、千代田区に会社がありました。当時の社名は村上商会でした

1958年発売の「アイレスIIIc」。装着するレンズは昭和光機工業製の「コーラル」となります。同社は世田谷区新町にありました

その名も「ニッポン」と称する1942年発売のレンジファインダー機。製造は墨田区にあった光学精機社で、その後同社は1947年にニッポンカメラに改称。1968年ヤシカに吸収されました

シャッター機構で有名なニデックプレシジョンは、1946年板橋区の小林精器製作所からスタート。1949年にコパル光機製作所となり、1962年にコパルへ。1999年には日本電産コパルへ改称し、2023年に現社名になりました

写真は1959年に作られた6×6判一眼レフ「ゼンザブロニカ D」の量産試作品。当時の社名はブロニカカメラで、板橋区に会社がありました

知らない人はいない「ニコンF」。1959年の発売で、当時の社名は日本光学工業といい、品川区の現在と同じ場所に本社がありました

板橋区は、戦前光学関係をはじめとする軍需産業の会社が集まっていたことなどから、戦後も精密光学関連の企業が多く、スチールカメラのほか8mmムービーカメラの製造を行う企業も多くありました

1957年製造の「アルタ」。板橋区にあった三鈴(みすず)光学工業が製造したバルナックタイプのカメラとなります。製造台数が少なく貴重な一台です

大田区にあったマキナ光学が1980年に発売した「マキノン MK-II」。同社は北米をはじめとする海外での販売に力を入れていましたが、このようなカメラを国内でも展開していました

同博物館では常設展も行っており、往年のカメラや懐かしいカメラなど多数展示。同博物館の隣には、同じJCIIが運営するギャラリー(JCIIフォトサロン)もありますので、この機会に覗いてみてはいかがでしょうか。

こちらは常設展の会場。日本製だけでなく海外のさまざまなカメラも展示されています。展示の入れ替えもありますので、時折覗いてみるといいかもしれません

こちらはベトナム戦争を記録し続けた沢田教一カメラマンのコーナー。使用していたカメラやヘルメットなどのほか、ピリッツァー賞の賞状やメダルが展示されています

○日本カメラ博物館特別展「Camera・Made in TOKYO」

開催期間:2024年7月9日(火)〜10月20日(日)

開館時間:10〜17時

休館日:毎週月曜日(月曜日が祝日の場合は火曜日)

入場料:一般300円、中学生以下無料、団体割引(10名以上)200円

所在地:東京都千代田区一番町25 JCII一番町ビル地下1階

著者 : 大浦タケシ おおうらたけし 宮崎県都城市生まれ。日本大学芸術学部写真学科卒業後、雑誌カメラマンやデザイン企画会社を経てフォトグラファーとして独立。以後、カメラ誌および一般紙、Web媒体を中心に多方面で活動を行う。日本写真家協会(JPS)会員。 この著者の記事一覧はこちら