小売企業などが堅調で、7月下旬に本格化する製造業の4〜6月期決算に期待が高まってきた。日本株に弱気になる必要はなさそうだ(写真:Ryuji/PIXTA)

日経平均株価とTOPIX(東証株価指数)が7月4日にそろって史上最高値を更新した。

前者は3カ月余のモミ合いを経て、後者は34年半ぶりと時間軸は違うものの、日本株の「ダブル更新」は大きな意味を持つ。

TOPIXの最高値更新が持つ大きな意味

日本株は「いよいよ本格的なデフレ脱却相場が到来する」「その際は銀行株を中心としたバリュー株が物色の中心となる」と言われてきた。だが、実際は、アメリカのエヌビディアに誘発された半導体株の急騰が日本株、とりわけ日経平均の「高値の正体」だった。

しかしTOPIXの最高値更新は、ハイテク株だけにとどまらないという点で、今回の相場のスケールの大きさを表している。サマーラリーを期待している筆者としては、まずまずの展開となって来たと思っている。

日本銀行の資金循環統計(2024年第1四半期)によると、家計の資産残高のうち「証券」は、2023年9月末の402兆円が2024年3月末には461兆円と半年で59兆円増えている。この「再投資パワー」は非常に大きい。

また、現在は小売業など非製造業銘柄の第1四半期(3〜5月期)発表がたけなわだが、インバウンド以外に円安効果のないこれらの企業の決算は意外に健闘していると言ってもよく、今月下旬以降本格化する製造業中心の4〜6月期決算の上方修正期待が高まっている。これが今回の高値抜けの代表的理由だろう。

また、日立製作所やNECなどの日本の基幹産業の株価上昇で、世界の機関投資家の日本への見方はさらに高まった。

そして、「もしトラ」から「確トラ」に変わりつつあるアメリカ大統領選挙予想で、三菱重工業の急騰劇に見られるように、日本の防衛産業への見方も大きく変わっている。防衛省は防衛産業から撤退する企業が相次いでいたため、従来8%にとどまっていた防衛装備品の企業側の営業利益率を最高15%に引き上げた。これらも史上最高値更新の原動力だ。 

現状の日本株はやや過熱気味?

一方、欧州では英国で政権が交代、フランスでも政局不安に見舞われている。5日の英国FTSE100指数は5月15日の史上最高値から2.87%安の位置におり、急落とまではいかないが、フランスのCAC40指数は同6.85%安となっている。またドイツのDAX指数は同2.09%安で、日米に比べると気迷いが見られる。この動きは日本株にとって悪いことではない。

前回の「日経平均は『下落圧力』に負けてしまうのか」(6月24日配信)では、結局資金はアメリカへの一極集中となるのではないかという話をしたが、当然、その一部は日本へも流れて来る。兜町ではロンドンにあるオイルマネーが日本株を買っていると見る筋もある。

ただ、一方では、5日現在の日経平均の移動平均線乖離率を計算すると、25日線が+4.44%、75日線が+4.85%。またこの2つに200日線を足した総合乖離率が+22.47%とかなり高くなってきた。

特に25日移動平均乖離率は+3%で黄信号、+5%でやや上昇しすぎのリスク、+7%は絶好の売り場などと言われる。その見方からすれば、すでに黄信号は通過している。

また、この移動平均乖離率と兄弟のような関係にあるテクニカル分析手法が標準偏差で表すボリンジャーバンドだが、この指標でみても売りシグナルとされる+2σ(シグマ)を超え、強い売りシグナルである+3σ(シグマ)に接近している。

ただし、ボリンジャーバンドの指標の欠点は、売りシグナルを出しながら、それがときとして一定時間持続することだ。この状態をバンドウォークという。この状態になると、ボリンジャーバンドを駆使して出した10回の利益を1回で失うような、逆張り投資家の典型的な失敗例となる。大相場のときに出やすい現象だ。

その点、移動平均乖離率はもっとわかりやすい。もし、株価が下がらなくても、株価の落ち着きとともに、どんどん0%乖離に近づき、再び買い戻しのタイミングが来ることもある。

今週の日経平均は強弱感が対立?

現在の相場は、今まで本欄で何度も書いてきたように、このデフレ脱却相場がインフレ相場に膨張していくまで、場合によってはバブルが発生するまで続く。中途半端な形で天井を打つとは考えられない。従って日経平均4万円は通過点であり、筆者は2025年前半(場合によっては2024年末)に5万円は付けると思っている。

ただ今週については、上げの原動力となった日本株への再投資パワー」の反動とも言えるETF(上場投資信託)の分配金捻出の売りや、GPIF(年金積立金管理運用独立行政法人)が運用する資産のリバランス売りも出るだろう。

これらはすでに予想されていることであり、相場にかなり織り込まれているため、こうした理由による急落の可能性は少ないだろう。それでも日経平均は6月末からの5連騰で1500円超の上げを演じたこともあり、強弱感が対立、激しい攻防戦も予想される。

それこそがサマーラリーであり、これまでどおり日経平均やTOPIXの高値更新に力を発揮している日立製作所・三菱重工業・メガバンクといった重厚長大のバリュー株や、半導体中心のハイテク株の押し目を交互に買うのが王道だろう。

だが、そろそろ4〜6月期決算発表に備え、最新の『会社四季報』の独自予想をチェックし、中小型の個別株を吟味したうえで資金を分散してもいいのではないかと思っている。

(当記事は「会社四季報オンライン」にも掲載しています)

(平野 憲一 : ケイ・アセット代表、マーケットアナリスト)